政府は二〇〇七年版「食育白書」を決めた。二回目の作成となった今回は、食育を国民運動として推進するよう訴えるとともに、その中心が家庭であることを示し、子どもに対する保護者の役割の重要性を強調している。
食は日々の生活の基本をなす大切なものである。しかし、生活様式や価値観の多様化などによって、食生活の乱れや感謝の希薄化、食の安全性の問題などが影を落とす。食の正しい知識と選択力を身に付け、健全な心身を培う食育の必要性が叫ばれている。
白書によると、自宅で食事の前後にあいさつを「いつもする」と回答したのは中学生では44・9%にとどまった。図の中から正しいはしの持ち方を選択できた小中学生は全体の56・6%だった。
こうした状況を受け、白書は、食を通して規範意識を備えた人間形成を図るには、あいさつの習慣化や食生活の改善など家庭での食育が大切という。その上で、保護者自身も食に対する意識を高め、健全な食生活の実践に努める必要があると指摘する。
あらためて家庭が第一義であることを示したのは当然だ。子どもに食事の姿勢や好き嫌いなく食べるよう教えるのはもちろん、簡単な食事を一緒に作ってみてはどうだろう。料理を通して子どもたちに小さな発見や感動をもたらす。食への関心も高まろう。
とはいえ、核家族化や保護者自身が食の知識を身に付けていないなどで、食育機能が低下している家庭は多い。機能を高めていくには、取り組みを促したり支援したりする存在が必要だ。給食など学校の役割はますます重要になろう。白書は学校だけでなく保育所、さらには食品関連事業者、ボランティア団体など各分野が食育の推進を担うべきだとする。
保育所の中には、保護者から「食育モニター」を募集し、家庭で子どもと料理や食事をする場面などの写真を撮って掲示している所もある。各家庭での取り組みが他の保護者の家庭を振り返るきっかけになるという。こうしたアイデアが広がってほしい。
家庭の食育を推進する上で問題点も多い。支援すべき立場の食品関係業者の間で表示の偽装が相次いでいる。表示の信頼性は食育の大前提のはずだ。行政の姿勢も問われる。食育基本法は各自治体が「食育推進計画」の作成に努めなければならないとしているが、政令指定都市、市区町村で作成したのは全体の約4%にすぎない。
食育を国民運動とするために、関係するすべての分野で責任ある対応を求めたい。
パキスタンのムシャラフ大統領が非常事態を宣言し、現行憲法を停止した。事実上の戒厳令である。大統領はテレビ演説で「パキスタンはテロや過激派の脅威にさらされ、行動を起こさなければ統合が保たれなくなる」と国民に理解を求めたが、本当の理由は大統領の座にとどまるための強権発動との見方が強い。
ムシャラフ氏は、十月の大統領選で最多票を獲得したが、事実上の軍トップ陸軍参謀長を兼務したまま出馬し、公職兼任者の立候補を禁じた憲法違反と指摘されていた。資格審理をしている最高裁が立候補資格を否定するとみられたことから、ムシャラフ氏は憲法停止で最高裁の封じ込めを狙ったのだろう。
現行憲法に代わって発令した暫定憲法命令は、裁判所は大統領と首相に反対する命令を出してはならず、国民の基本的権利を停止するなどとしている。報道規制が強化され、非常事態宣言を違法として抗議デモをした弁護士らが拘束された。
ムシャラフ体制は約八年間にわたる。国際テロ組織アルカイダなどイスラム過激派が勢力を強める中で、米国に協調して対テロ戦の最前線を担い、政権を維持してきた。
一方で、国内外からは民主化要求が高まり、野党第二党パキスタン人民党(PPP)を率いるブット元首相と今後の連携で大筋合意するなど、民主化プロセスが進みつつあると希望的観測が流れていた。ブット氏は「これは非常事態でなく戒厳令だ」と批判している。反政府運動が広がるようだと、イスラム圏で唯一の核保有国が混乱に陥りかねない。米国など国際社会は、民主化に逆行しないようパキスタンを促すこれまで以上の努力が必要だろう。
(2007年11月7日掲載)