保険診療と保険外診療(自由診療)を併用する「混合診療」を実施すると、本来は健康保険が適用される診療も含めて治療費全額が自己負担となる厚生労働省の運用が妥当かどうかが争われた訴訟の判決が7日、東京地裁であった。定塚誠裁判長は「厚労省の法(健康保険法)解釈は誤り」と指摘し、原告患者に保険給付を受けられる権利を認めた。混合診療を原則として禁止する国の政策を違法とする司法判断は初めて。
訴えていたのは、神奈川県藤沢市の団体職員、清郷伸人さん(60)。腎臓がんを患い、01年2月から保険対象のインターフェロン療法を受け、同9月からは保険適用外の療法を併用した。このため治療費全額を自己負担すべきだとされ、国を相手に保険適用の確認を求めて提訴していた。
厚労省は(1)一つの病気で保険診療と自由診療が行われる場合、全体を一体の医療行為とみて保険給付を検討すべきだ(2)特定の高度先進医療など例外的に認められた混合診療以外に保険は給付されない--という健康保険法の解釈を示し、保険給付の対象外とするよう主張した。
判決は「保険診療と自由診療を一体として判断すべき法的根拠は見いだせない」と厚労省の法解釈を否定。その上で「個別の診療行為ごとに、保険給付対象かどうか判断すべきだ」と述べ、混合診療を事実上容認した。
これまで厚労省は、所得のある人とない人の間で医療格差が生じる恐れがあることや、安全性を確保する観点から混合診療を原則として認めず、保険を適用しなかった。判決は国の姿勢を根本から否定しており、現行制度に大きな影響を与えそうだ。【北村和巳】
▽水田邦雄・厚生労働省保険局長の話 極めて厳しい判決。今後の対応は判決内容を検討し関係機関と協議の上、速やかに決定したい。
◇「制度改めてもらいたい」原告が会見
判決後、会見した清郷さんは「全国の重病患者に影響する判決だ。一刻を争う患者が望む治療を合理的な費用負担で受けられるように、国は制度を改めてもらいたい」と感極まった表情で語った。
清郷さんは「保険医療を受けている患者が、効果があると言われて保険対象外の薬を使おうとしても、全額自己負担になれば踏み切る人はいない。それで、命を落とすこともある。混合診療は弊害よりメリットが大きい」と訴えた。
清郷さんの場合、保険外診療を併用すると、保険対象のインターフェロン療法の負担額が月6万~7万円から、約20万円に膨れ上がるという。清郷さんは「判決は、国の制度に根拠がないことを明確にした。日本の医療が大きく変わることを期待している」と話した。
混合診療が全額自己負担とされることに疑問を感じ、解禁すべきだと考えた清郷さんは法律相談などを通じて提訴を決意した。だが、医療を専門とする弁護士には選任依頼を断られた。このような裁判の経験がないというのが理由。清郷さんはインターネットなどで制度の勉強を重ね、自分一人で訴訟の書面などを作成し、国と争ってきた。【北村和巳】
毎日新聞 2007年11月7日 21時17分 (最終更新時間 11月8日 1時13分)