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先崎一
試される「将器」 (06/16)
 まっさき・はじめ 自衛隊・統合幕僚監部の初代幕僚長。1944(昭和19)年5月4日、鹿児島県生まれ。62歳。4人兄弟の長男で、「親に金銭的な迷惑をかけたくないと考え」、防衛大に進学し、68年卒業(12期)。91年第39普通科連隊長。98年第3師団長。2001年北部方面総監。02年陸上幕僚長。04年統合幕僚会議議長。
 今年3月、陸海空3自衛隊の指揮・命令系統を一元化するために統合幕僚会議を廃止して新設された現職に。階級は旧軍での大将に相当する陸将。
 「親しい友人に半ば無理やり始めさせられて…」という書道の腕前は師範。楷書が好きというが、「ごまかしがきかないんですよ。自分の心の裏返しで、実に難しいですね」というのがその理由だとか。


先崎一
先崎一
【趣味の書道通じ自らへの戒め忘れず】

 「統合元年日々新(あらた)」。筆を執り、白い紙の上に黒々と大書する。書道は趣味だが、ほぼ毎日これをしたためる。書にされる言葉としてはあまり聞き慣れないが、これは自らへの戒めの言葉。

 自衛隊は陸・海・空と大きく3つに分かれており、従来はそれぞれに作戦を立てて行動をしていた。それが、今年3月27日に統合幕僚監部(統幕)という“持ち株会社”的な部署が発足し、必要に応じて部隊を自由に組み合わせて一元的に運用できるように。自衛隊発足以来50年にわたる悲願の実現だ。

 で、冒頭の「戒め」とは、「われわれの仕事は部下に命のかかわる行動を命ずるのですが、ちょっとした油断で重大なことになる。単純なようだが『惰性に流されない』、それだけは努めて気を引き締めなくてはならないのです」ということだという。

 言葉の端々から覚悟のほどと、実直な人柄が伝わってくる。それだけに部下からも「有事の際もあの人ならば信頼できる。ついて行ける」と絶大な信頼を寄せられる。インタビューをしていて「将器」の大きさを実感させられる。

 部下から慕われる以上に部下への気遣いも忘れない。イラクへの派遣部隊とも連絡を密にしており、テレビ電話などを使ってほぼ毎日のように現場指揮官から報告を受けてきた。

 そして自ら現場にも足を運ぶ。陸上幕僚長時代の2004年4月と統合幕僚会議議長になった後の同年9月にイラクへ。05年2月にはインド洋大津波の被災者支援中のインドネシアに1回、飛んだ。徹底した現場主義だ。

 「自衛隊の仕事の進め方は中央で考え、計画し、そして実行に移される。現場がどう動くのかを肌で感じる必要がある。それで変化を自分の肌で感じて新たな策に反映させていくことがものすごく大事だと思っています」

 かつて日本海軍には「指揮官先頭、率先垂範」という伝統があった。自身の出身は陸上自衛隊で、「長男だからこういう名前になったんじゃないでしょうか」と笑うが、「まっさき」という姓も「はじめ」という名もこの伝統を体現するためにあるかのようだ。

 「なかなか正しく読んでもらえなくてね。今でも名刺にふりがなをふっているんですよ。小中学校のころは間違って呼ばれても、面倒くさいから『はい』って返事をしていたんです。変わっていますが、その分印象に残りますから、今ではよかったと思っています」


【トップの“陰の名参謀”は妻】

 ひとまずの統合運用の形が整い、防衛庁も「省」昇格関連法案が今月9日に閣議決定、法案が国会に提出されたとはいえ、まだまだ組織としては力不足。必要な「ヒト、モノ、カネ」を陸海空の各自衛隊から十分に移管されておらず、「組織の壁」が問題視されることもある。

 それに対しては「陸海空それぞれの持ち味を発揮できるような場作り、そういう統合を考えたい」と話す。

 ある幹部自衛官いわく。陸はいろいろな部隊が集まっているから緻密に作戦を立てて行動する。

 海は1隻の艦船が普段から一つのまとまりになっているし移動中にも状況が変わるから、大ざっぱな命令でもとりあえずは動く。

 空は航空機が飛び立たないと話にならないしスピードも速いので、ゆっくり考えるよりもとにかく行動第一で飛び立つ…。

 世間では「自衛官」とひとくくりにされるが、性格は大きく違う。

 統幕長就任によって2度目の定年延長を迎えたばかりだが、実は昨年12月には妻の千代子さんに「負担をかけてきたから早く恩返しをしたい」と現役を退くことを考えていたという。

 「しかし『逆に言うとまだ働かせてもらえるんだからいいじゃないの』と激励されたぐらいです。普段も自衛隊のことはほとんど知らないけれど、世の中全体を見回して私に『それは自衛隊の中だけしか通用しない考え方よ』とアドバイスしてくれる。非常にありがたい存在です」

 難しい舵取りを迫られる制服組トップの“陰の名参謀”は妻だった?!


ペン・梶川浩伸
カメラ・小松 洋

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