米銀、支援基金急ぐ サブプライム問題2007年10月25日 米国の低所得者向け(サブプライム)住宅ローンの焦げ付き問題で、米大手銀行が「サブプライム支援基金」の設立を急いでいる。住宅ローンを担保にした証券化商品が売れなくなり、購入していた運用会社が資金繰り難に陥っているためだ。基金が投資家に代わって証券化商品を買い支えるが、銀行が被る損失リスクを基金に付け替える「損失先送り」などと批判も根強い。
●「市場に安心感」狙う 「参加を要請されたが、まだ検討中だ」 基金への出資などが有力視されている独保険大手アリアンツ傘下のドレスナー銀行の広報担当者は23日、こう説明した。 米3大銀行のシティグループ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェースが基金の共同設立を発表したのは約1週間前。だが、基金の規模や詳しい事業内容などはまだ固まっていない。 米メディアは当初、基金が1千億ドル規模と報じたが、大手銀の関係者は発表時に「約10の金融機関の参加で約800億ドル」と説明。ところが、恩恵の少ない一部の金融機関が参加に二の足を踏んでおり、米3大銀は同様の問題を抱える欧州大手との交渉に奔走していると報じられている。 詳細が未定のまま発表に踏み切ったのは、サブプライム危機で崩壊した証券化市場の動揺が続いているからだ。 サブプライムを組み込んだ証券化商品などを担保にしたABCPは、サブプライムの焦げ付き増で買い手が消えてしまった。 ABCPを発行する運用会社のうち、SIVは証券化商品などの運用資産の価値が一定程度下落すると、資産を売却しなければならない条項がある。SIVが証券化商品を一斉に売却すれば、買い手が極端に少ないため、ほぼ無価値になり、SIVを傘下におく大手銀行などの損失が過剰に膨らむ恐れがある。 このため、米銀大手は基金の共同設立を発表して市場に安心感を広げ、証券化商品の価値が暴落するのを食い止めようとしたものとみられる。 ABCPの市場規模はピーク時で約1兆2000億ドル。サブプライム危機で急減したが、現在も9000億ドル弱ある。このうちSIVの残高は約4000億ドルで、基金の約800億ドル規模で対応できるかどうかは不透明だ。 過去の金融危機と比べても基金の規模は大きく、米メディアは「スーパー・ファンド」とも報じる。米ヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の経営危機の救済策を大きく上回り、不良債権問題が全米に広がった米貯蓄貸付組合(S&L)危機時に近い。 今回の基金設立も「米財務省が協議を促した」(米銀大手)といい、官民の認識が深刻であることを裏付けている。 ●「損失先送り」の批判も 基金は短期証券を発行して資金を調達し、SIVが持つ資産を買い取る。基金に参加する大手銀行などが短期証券を買い、実質的に資金拠出するものとみられる。年内にも買い取りを始める。 基金が新たな買い手として証券化商品の「受け皿」になれば、取引が活性化し、市場機能の回復が期待される。買い取りの対象は、高格付けの優良資産。ABCPはサブプライムを含まない資産を担保にしたものまで買い手がつかなくなっていたが、必要以上に損失リスクを懸念していた投資家が市場に戻るのを促す。 ただ、問題点も少なくない。買い手のつかない資産の価格をどのように決めるのか。高値にすれば、損失を隠し、計上を先送りすることになる。 証券化商品はそれぞれ担保に組み込んだローン債権や証券化商品が違う「オーダーメード」のため、一律に価格設定基準を設けるのも難しい。 米アナリストらは「基金が買い手になっても、証券化商品の信用が回復するわけではない。買い手は増えず、危機前のバブルのような活況は戻らない」と指摘する。 米メディアも、ニューヨーク・タイムズが米プリンストン大のポール・クルーグマン教授の「問題を煙幕で覆い隠そうとするもの」と損失先送りにつながる恐れを警告する寄稿文を掲載した。 米経済紙ウォールストリート・ジャーナルも、「(傘下のSIVが最も多い)シティ支援だ」との批判があると紹介。さらに「基金が失敗すれば、SIVは消滅。米国債の金利が跳ね上がり、金融株は再び売られる」と厳しい論調だ。 〈SIV〉 ストラクチャード・インベストメント・ビークルの略。大手銀行などの傘下会社が多い。資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)発行で資金調達し、サブプライムローン債権を担保にした証券化商品などを買って運用益を稼ぐ運用会社の一つ。低金利の調達で高い運用益が見込める一方、CPの買い手がつかず資金繰りに詰まる流動性リスクを抱える。 PR情報ビジネス
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