日本一小さい機関車「デキ３」（上）、犬吠駅ではぬれ煎餅の手焼きを実演販売
一九一三年の営業開始以来九十年間、四年間の廃止期間を除いて銚子の街をひた走り、銚電の愛称で市民に親しまれてきた銚子電気鉄道株式会社。車社会の進展などで、他の地域鉄道と同じように厳しい経営状況が続いていた同社は昨年、法定検査を実施する予算も出せない危機的状態に陥った。その窮状をホームページで公表したところ、地元をはじめ全国に支援の輪が広がった。「銚電の灯を消すな」という大勢の人々の励ましに支えられ、千葉県の港町を走るミニ鉄道は再建の道を歩み出した。
「電車運行維持のためにぬれ煎餅（せんべい）を買ってください！！」。二〇〇六年十一月、銚子電気鉄道のホームページ（ＨＰ）に掲載された同社の緊急報告が地元はもちろん、全国の鉄道ファンらの目を引いた。
ＨＰは、資金不足から車両の法定検査も実施できない同社の現状を報告。鉄道存続のため検査費用、安全運行の資金確保を目的にぬれ煎餅などの同社商品の購入と電車利用を訴えていた。
同社は近年、全国のローカル鉄道と同様に、少子化や車社会の進ちょくで乗客が減り続け、厳しい経営状態が続いていた。加えて、前社長が個人的な借金の返済に充てるため、銚子電鉄名義で多額の借金を行い、全額を横領するという事件が起き、銚電の経営はにっちもさっちも行かなくなっていた。
■ぬれ煎餅に託す
この危機的状況を脱するために、増収策として思いつかれたのが、それまでも駅舎の片隅で製造販売され、乗客の人気を集めていたぬれ煎餅の販売増強。鉄道とは縁もゆかりもないぬれ煎餅に鉄道存続の願いを託す同電鉄の呼びかけは、大きな反響を呼んだ。
ＨＰ掲載後には、ぬれ煎餅など同電鉄食品部の商品に各地から一万件を超す注文が殺到。団体客の鉄道利用も増加するなど、全国から続々と支援の手が差し伸べられた。
「市民の足の存続を」と、地元でも支援の輪が広がった。「銚子電鉄サポーターズ」が発足し、募金活動が行われるなど、銚電支援の活動が盛り上がっている。
■銚電が走る風景
「銚子電鉄サポーターズ」は、地元有志を中心に銚電存続に賛同する全国の“草の根”会員で構成され、一口千円以上の入会金でだれでも参加できる。同会発足後、ことし二月末までに入会金およびカンパとして約一千二百五十万円が寄せられた。このうちの安全対策工事基金から九百七十万円が、枕木の購入代金として銚電に寄贈された。
毎週日曜日には犬吠駅にサポーターズの特別ブースが設けられ、訪れる観光客に銚電への支援が呼びかけられている。沿線駅の清掃作業もサポーターズ会員の大事な活動だ。
サポーターズの立ち上げメンバーで、現在、会のＨＰ管理人を務める大胡忠さん（五三）は、銚子生れの銚子育ち。「銚子の風景の中に、銚電がいつまでも有ってほしい」と銚電への想いを語った。
再建への熱意を語ってくれた向後功作次長
銚子電鉄鉄道部次長・向後功作さんからのメッセージ
■感謝の気持ち込め
「緊急報告以来、本当に全国的な支援をいただき、その反響の大きさに驚くとともに、何かしなければと思い立ったのがプログです。応援をいただいた皆様に、社の現状報告をするべきと考えました。感謝の気持ちで始めたブログでしたが、全国からたくさんの応援メッセージが寄せられ、社員一同、本当に力づけられました」
■援助金で枕木交換
「地元の有志の方々はじめ、全国の会員の皆様には本当に感謝申し上げます。資金援助のおかげで法定検査、枕木の交換も実施できました。また、資金面だけでなく駅舎の清掃や観光案内など、鉄道を利用するお客様に役立つ活動をされています。これからもサポーターズの期待に応えられるよう頑張ってまいります」
■一丸となって灯守る
「地域とともに生き、地域の活性化に役立つ鉄道を目指してまいります。依然として経営的な資金難は続いていますが、全社一丸となって一層の効率化を図り、歴史ある銚電の灯を守っていく決意です。これからも銚電へのご支援、ご協力をお願いします」
■調子電鉄とは？ 銚子電気鉄道株式会社の前身は、１９１３（大正２）年に設立された銚子遊覧鉄道（銚子〜犬吠）。その後４年間の廃止期間を経て、２２年（同１１）年に銚子鉄道して再出発。翌２３（同１２）年に銚子電気鉄道（銚子〜外川）と改称、現在に至っている。
営業路線は、銚子〜外川間（単線）の６．４ｋｍを約２０分で結ぶ。駅数は１０駅。
始発駅の銚子駅は、ＪＲ総武本線銚子駅のホーム端に設けられている。次の仲ノ町駅に同社本社があり、日本で一番小さい機関車「デキ３」も見ることができる。
次の観音駅は、１９７５年（昭和５０）に販売を開始し、同社の食品製造販売業の原点ともいえる「たい焼き」が地元の固定ファンに長く親しまれている。
市のシンボル犬吠埼の灯台まで徒歩１０分にある犬吠駅は、関東の駅１００選に選ばれている。駅舎内では「ぬれ煎餅」の手焼き実演も見られる。毎週日曜には、銚電サポーターズの特設ブースも設けられる。
終点の外川駅の木造駅舎は、今も昔ながらの風情を色濃く残し、銚電の長い歴史を感じさせる。
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