弁護士今枝仁の「だからあなたも息抜いて」

2007-11-06 死刑判決を受けた殺人犯　大山清隆の手記１

５月の時点で、私が週刊誌からの書面取材に対し作成した回答書がありました。

５月に、週刊誌から弁護団の全員に対し書面で取材があった際、私は回答書を作成したのですが、他の弁護人らの制止にあって提出しませんでした。

しょせん週刊誌など相手にしても、どうせ悪いようにしか書かないのだし中傷の根拠を与えるだけだ、というマスコミ性悪論と、相手も人間だから誠意を尽くせば少しは伝わる、１５点が２０点、２０点が３０点という少しずつでも改善されていく努力を続けることでやがて大勢が変わるのではないか、という議論をしたのですが、このときはあっさり私が退いて幻の回答書となったのでした。

内容はすでに今までに明らかになっている程度ですし、５月の時点で私がどんなことを考えていたのか分かってよいのではないかと思うので、掲載します。

　　 ご　連　絡

平成１９年５月２８日

週刊●●編集部●●●●殿

FAX０３−３２６６−●●●●

広島市中区幟町３−５７

　　　　　　　　　　　　　　　まこと法律事務所

　　　　　　　　　　　　　　　電話０８２−２２１−●●●●

　　　　　　　　　　　　　　　FAX０８２−２２１−７７２０

　 弁護士　　今　　枝　　　仁

拝啓

　　　時下ますますご清勝のこととお慶び申し上げます。

　　　さて，この度のいわゆる「光市母子殺害事件」に関連し，私の個人的事情等についてご質問を頂きました。

　　　弁護団としての弁護方針等は，「個別取材には一切応じない」という方針になっておりますが，私個人の弁護士としての姿勢や資質や価値観等も問題視される内容ですので，その範囲で，私の個人的見解のみお答えします。

　　　あくまでも私見であり，弁護団全体の見解とは無関係です。

１　死刑廃止実現のために弁護を引き受けたのか。

　　　違います。

　　　もともと私は死刑廃止論者でもありません。

　　　裁判員制度導入開始を前に，きちんと国民的議論を尽くし，死刑を存置すべきという結論に達し，いかなる犯罪にいかなる場合に死刑を適用するのかの合意が形成されるのであれば，国民感情の総意の反映として死刑を存置していいと思います。

　　　しかし，現在の世論への一般的なアンケート方法は，「死刑を廃止すべきと思いますか。ＹＥＳ　ｏｒ　ＮＯ」というような質問の仕方なので，廃止すべきという積極的な意見がない人が全て存置論者としてカウントされるという問題があるように思います。

２　本件の弁護人になるのを決めたのはいつか。

　　　おおよその記憶ですが，昨年の秋頃と思います。

　　　その理由は，以下のように，

　　　�，△泙蠅砲盒�い弁護人バッシングを受け孤立している足立修一弁護士を見過ご　　すことができなかった。

　　　�∈８紊侶沙�司法に重大な影響を及ぼす本件に関与し自分の目で刑事司法の歴史　　的分岐点を見極めたかった。

　　　�Ｋ楫錣瞭睛討箴攀鬚眞里蕕些阿�ら批判的に見ている自分に疑問を感じた。

　　　�ぜ匆颪里曚箸鵑描瓦討凌佑�「死刑にせよ」という本件被告人にこそ最大限の弁　　護がなされる必要があると感じた。

　　　�ッ聾�広島で刑事弁護を手がけている者として，役に立つところがあれば，と思　　った。

　　のが大きな動機です。

３　何度接見したか。

　　　はっきりとした記憶ではありませんが，７〜８回前後だと思います。

４　弁護方針と守秘義務に関連する質問なのでお答えできません。

５　被害者の尊厳を貶めるという評価や批判について。

　　　評価は自由だと思います。批判も甘んじて受けます。

　　　本件が確定したときに，結果的に被害者の尊厳を貶めるだけの結果になってしまったとしたら，ご遺族には真摯にお詫び申し上げたいという気持はあります。

　　　しかし，現時点の主張は，本件犯行の動機や経緯，態様等について「本当にそれでいいのか。」と問題提起をするためのものであって，被害者の尊厳を貶める意図をもってなしているわけではありません。

　　　荒唐無稽かどうかも評価の問題だと思いますが，およそ客観証拠や状況証拠を離れた主張がなされているとは思いません。

６　死刑廃止運動に本件を利用するのはおかしいと思わないか。

　　　私自身が必ずしも死刑廃止論者ではないし，そのような動機で参加したわけでもないので，そもそも反論すべき立場にもありません。

　　　仮に弁護団として死刑廃止運動のために本件を利用しているのだとすると，確かに被害者遺族や被告人に対し不誠実だと思います。

　　　しかし，弁護人の更新意見書に死刑という制度の存廃等の評価が一切記載されていないように，弁護団は死刑廃止論とは無関係に本件の弁護方針を組み立てていると思います。

７　弁護士のあるべき姿として正しいか。

　　　弁護士のあるべき姿の価値観にも幅があります。

　　　価値観は相対的ですから，弁護士のあるべき姿として間違っているのではないか，という批判も甘んじて受けます。

　　　ただ，私自身，刑事事件を多数手がけてきて，本件の証拠等を精査した結果，今回の弁護方針をとったこと自体は，私の考える「刑事弁護人のあるべき姿」としては，間違っていないと思います。

　　　それは，本件の証拠関係とりわけ法医学的証拠等や時系列的事実関係等を精査し，被告人の話に聞く耳を持って耳を傾けたなら，比較的多くの刑事弁護士が理解ないし受容できることであろうと思います。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上，ご連絡します。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敬具

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[コメント一覧]

The_Pride_of_Hiroshima The_Pride_of_Hiroshima 『今枝先生へ。
いつもブログ読ませていただいております。
そして先生の活動を心より応援させていただいております。
これからも御身体をご自愛いただき、刑事弁護の理解のため、
信念を貫いて頑張ってください。

さて、上記大山さんの手記1にて誤記がありましたので早速お知らせしておきます。
「その当時、養父は他の親族らと一緒に、「大山組」という土建会社を経営していました。頭書は腰部がその会社の社長だったのですが、養父の兄に社長の座を譲って、自分は専務として会社の実務を取り仕切っていたそうです。」
2行目の「頭書は腰部がその・・・」ですが多分「当初は養父がその・・・」の間違いではないでしょうか。早速訂正いただき、このコメントも削除してください。失礼致しました。』 (2007/11/07 16:56)

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