私の世代の小学生時代、担当教師の口ぐせは「日本の子供は魚をよく食べるから優秀なんだぞ」でした。「魚には脳の細胞を滋養する成分がたくさん含まれているから」と理由を強調されたものです。
実際、サンマなどの旬がやってくると、各家庭の中庭に七輪が持ち出され、炭火を起こしてから金網を載せ、煙をボウボウと立て、顔をそむけながら魚を焼く、という作業が子供たちの日課になっていました。
89年、英国・脳栄養化学研究所のマイケル・クロフォード教授は『原動力』という著書を発刊します(鈴木平光著『魚を食べると頭がよくなる』KKベストセラーズより引用)。その中でク教授は「人類という新種が誕生するに当たって大きな役割を果たしたのは、魚を中心とする水産資源の摂取である。この魚類主体の食物が、人類の遠い祖先の脳の発達に大いに貢献をした」と主張しています。更に「その証拠として、日本の子供は欧米の子供よりも知能指数が高い。それは、紛れもなく魚食の結果であろう」と述べています。
この有り難い評価は少なくとも30年以上も昔の話であり、現在の日本の子供を指しているのではありません。現実は「魚食衰退・肉食激増」によって顕著な知能墜落……という反面教師的現象を招いています。
さてク教授は、魚肉に含まれる知能増強物質は他のいかなる油脂中にも存在せず、ただ一つ魚油にのみ存在するDHA(ドコサヘキサエン酸)であると指摘します。
魚油には(1)n-3多価不飽和脂肪酸(α-リノレン酸、EPA、DHA)と(2)n-6多価不飽和脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸)の2種類があります。n-3やn-6とは化学構造式の相違による分類です。
n-3脂肪酸は血中コレステロールを減らし、同時に血液を凝固しにくくして、血管・心臓病の発症を予防します。特にこの中のDHAは頭脳の働き、とりわけ記憶学習能力を増強するという特異な作用があります。
ここで、農林水産省食品総合研究所・鈴木平光主任研究員が解明された「魚油中のDHA含有量が多い魚」を紹介させていただくと、サケ、タラ、カツオ、イワシ、ホッケ、マグロ、イカなどが挙げられます。<国際自然医学会会長、医学博士>(次回は11月24日)
毎日新聞 2007年10月27日