核実験、拉致、飢餓、そして相次ぐ脱北者など、北朝鮮に対するイメージは想像を絶するほどよくないが、北朝鮮の住民はどんな暮らしをしているのだろうか。韓国の写真家石任生さんが撮影した写真集「北朝鮮の日常風景」(コモンズ)には、外部にはなかなか伝わらない住民の姿が写しだされている。
石さんは、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の記録写真家として1997年から7年間、北朝鮮に滞在。KEDOによる軽水炉の建設工事過程を撮影するかたわら、周辺の農村などに出かけて写真を撮ってきた。厳しい監視をかいくぐり、「ファインダーをまともにのぞいて撮った写真はありません」。
写真集に収められた約100枚の写真には、草を背に担ぎヤギをつれる老人、おやつのダイコンを手にする子ども、牛車に揺られる住民、手を握りデートする男女など、北朝鮮の庶民の暮らしが生々しく描かれている。
ソリに乗って遊ぶ子どもたちの写真の説明には「(北朝鮮では)子どもたちは一般に、こま回し、たこ揚げ、メンコ、ビー玉、石けり、陣取りゲームなどをして遊ぶ」とあった。かつての日本の子どもたちの遊びとまったくといっていいほど同じだ。
当時、北朝鮮は「苦難の行軍」と呼ばれる食糧危機に直面していた。厳しさのなかにもたくましく生きる住民の「日常」が感じられる写真だろう。
過酷な社会の一端をにじませた痛ましい写真もある。はしかで目が見えなくなった幼い子どもが、竹の棒をつえ代わりにして歩いている一枚もあった。
石さんは、北朝鮮にも自分たちと同じような人間が生きていることを伝えたかったのだろう。