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2007年11月7日

◎被災者支援法 遡及適用に十分な合理性ある

 被災者生活再建支援法の改正案について、自民、公明の与党と民主党がそれぞれの法案 を取り下げ、一本化することに合意した。新たな法案に能登半島地震などへの遡及(そきゅう)適用を明記しない代わりに、改正法を利用できる「実質遡及」の特例措置を設ける方向で調整されるという。

 被災者の生活支援を充実させる法改正の実施は、能登半島地震が起きる前から決まって いた。少なくとも改正に向けた検討委員会が発足し、第一回会合を開いた今年三月一日にまで、さかのぼって適用することには十分な合理性があった。法の趣旨に照らし、能登の被災者が不利益をこうむることがないよう遡及適用と同等の救済策を講じるよう念押ししておきたい。

 与党が民主党案に難色を示していたのは、法律ができる前に起きた事件を後からできた 法律を適用して裁いてはならぬという「不遡及主義」に縛られてのことだった。不遡及主義は法の大原則であることは論をまたないが、被災者生活支援を行う法改正での適用が法治国家の根幹を揺るがす前例になるとは思えない。私たちはこれまで遡及適用はあってよいと主張してきたが、特例措置ながら実質的な遡及適用が決まった点については評価したい。

 現行制度は、住宅に関して解体・撤去費用しか認められないなど使途が限定され、支給 限度額の総額に対する支給率は28%にとどまっている。使い勝手が極めて悪いからである。ただ今現在、過酷な生活を強いられている能登半島地震の被災者を支援できないような法改正なら、今国会で成立させる意味が半減してしまうところだった。

 加えて、与党と民主党がそれぞれ独自の支援法案を衆参両院に提出し、対決ムードを高 めていたなか、両党が歩み寄り、法案の骨子をまとめた意味も大きい。協調ムードが生まれたのは、先月末の党首会談からで、民主党がそれまでの対立姿勢を改め、与党との協議に柔軟に応じた点は評価できる。党首会談で出された大連立構想や小沢一郎民主党代表の辞任騒ぎなどで永田町は大揺れだが、民主党が「話し合い路線」にかじを切らねば、国民が迷惑する。被災者生活再建支援法の改正は、その具体例になるだろう。

◎公立病院の民営化 職員の扱いに失敗できぬ

 金沢医科大が、経営の悪化から公設民営化を目指す氷見市民病院の指定管理者に内定し たが、医師確保の問題とは別に職員の身分をどうするかという厄介な問題があるのを見過ごせない。結論からいえば、この問題で失敗すると、民営化もうまくいかないのである。

 同市は、交渉の窓口になっている自治労富山県本部に対して看護師や薬剤師ら約三百人 の職員について金沢医科大に再雇用してもらう案を示しているが、職員の非公務員化であるため、自治労側が反発しており、交渉の行方が心配されている。

 民営に切り替わるのだから、職員は公務員の身分を失うのが原則だ。民営化されても公 務員のままというのではどんな改革も進まない。改革後も公務員の身分を失わないということになると、世の中は公務員だらけになってしまう。

 が、公立病院の公設民営化は始まったばかりということもあって、職員の身分の扱いが 分かりやすい形で公表されておらず、自治体によって異なるため、これだという「お手本」がないのが現状のようだ。

 指定管理者制を導入した公立病院は全国に四十三あるが、公務員の身分のまま民営化し たことが改革の足を引っ張っているケースや、非公務員化で手取りが30%から40%も減った上に、税金で建てた病院が指定管理者によって私物化されているケースもあるといわれている。

 さらに民営化といっても、国立病院の場合と自治体病院とでは違う。また、公立病院を 廃止して民間の医療主体に譲渡する場合もある。だから一様にいえないのだが、職員のやる気を奮い立たせるために、一応の目安がないわけではない。それをいくつか拾うと、再雇用に当たって退職手当に割り増しを付ける、人事ではこれまでの知識や経験が生かせるように配慮する、三年間くらいは手取りが減らないようにする―等々である。

 一番まずいのはいうまでもなく、公務員のままにすることだ。公務員の職員と、そうで ない職員の二通りをつくると、職場に一体感が育たないばかりか、トラブルも発生しやすく、全体の士気が低下する。住民のためを第一に進めたい。


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