更新:2007年10月2日 10:20インターネット:連載・コラム中国IT最前線(肖 宇生)「央企」を知らずして中国経済を語るなかれ
最近、日本人に馴染みの薄い「央企」という言葉が中国のメディアに登場している。しかし、「央企とは何か」という質問をそのまま中国人にぶつけないほうが賢明だろう。なぜなら、その瞬間から相手に「このひとは中国のことをまったく知らない」と見下されてしまうほど、いまの中国ではホットなキーワードだからだ。 「央企」とは中央政府直轄の大型国有企業(金融を除く)の略称だ。何十万の国有企業のうち、「央企」に認定されるのはたったの155社で、中国国有経済のピラミッドの頂点ともいえる。中国石油やチャイナモバイルなど、日本でもよく耳にする企業のほとんどが「央企」であるといえばイメージも沸いてくるだろう。 中国ではいま、大型国有企業育成の国家戦略の下で「央企」改革が急ピッチで進められている。これまで海外のメディアでは、中国の経済発展における外資系企業や新興民営企業の健闘が伝えられてきた。しかし今後の中国経済の発展を占うのに「央企」抜きでは語れないということは間違いなさそうだ。 ■存在感抜群の「央企」 昔の大型国有企業のイメージは計画経済そのもので、経営不在の典型例だったが、改革開放に伴いその経営は質、規模ともに急激に改善されてきた。国策である大型国有企業の育成政策が施行されてからここ4―5年間は特に顕著だ。いまや中国の国力上昇のもっとも代表的な立役者といっていい。 フォーチュン誌による2006年の「世界トップ500」の企業に中国の大陸系企業は19社がランクインしており、そのうち銀行や保険を除く13社はすべて「央企」なのだ。経営規模だけではない。その利益も急速に拡大している。2005年度の「央企」の税引き前利益の合計は6276.5億元(約9兆4000億円、1元=15円で換算)にも上っている。2003年度の3000億元から3年間で倍増しているわけだ。今後もさらに増える見込みで、その勢いはすさまじい。 「央企」は毎年中国政府から認定される資格みたいなもので、数年前の200社近くから現在の155社に減少したように、経営改革が遅れたり業績が落ち込んだりすると容赦なく淘汰される。世界に通用するグローバル企業を育成するという中国政府の狙いから、今後も 「央企」の統廃合を進めると見られており、2010年には80から100社に絞り込まれるそうだ。それだけに、中国の国有企業にとっては政策面で優遇される「央企」に認定されることが最高の名誉になっている。 ■「外資系より央企」就職戦線の異変 「央企」の好調ぶりは人材争奪面においても明らかだ。それは新卒や転職などの就職市場に大きな異変を引き起こしている。何年か前までは学生や転職組の「央企」の人気は、欧米企業を始めとする外資系企業の後塵を拝してきたが、いまや完全に逆転する勢いだ。 大多数の新卒にとっては「央企」への就職は完全に高嶺の花になってしまった。ある「央企」の総合職の募集要項は、清華大や北京大などごく限られた名門校だけを指定し、しかも修士以上に限るとされている。中国人学生にとっては「央企」の安定した仕事の環境や高い給与水準、充実した福利厚生などが就職先として羨望の的となっている。 対照的に外資系企業はハイリスク・ミドルリターンと映るようになってしまった。外資系企業の最大の魅力はグローバルなキャリア設計にあったが、「央企」に入ってもそれほど遜色ないため、その逆転現象が加速している。 そして、やはり自国を代表する企業で働きたいというプライドも影響しているようだ。これは中国の国力上昇の当然の副産物ともいえるが、もっとも根本的な原因は「央企」が人材の誘致においても猛烈な勢いで力を入れるようになってきたからだ。 いままで優秀な人材は当然のように外資系企業に入ってきたが、これからはその通りにいかないということが目に見えている。これは欧米企業の人材戦略にも大きく影響を及ぼしそうだ。待遇面や現地人材の登用などにおいて欧米企業に劣る日系企業にとってはなおさらだ。 ■経営陣公募で人事改革 近年、中央政府に直接任命されてきた経営陣の人事にもメスが入り始めた。役員レベルの公開招聘もその1つだ。ヘッドハンティングは社内外、国内外を問わないからかなり踏み込んだ改革といえよう。2003年から2006年までの間、すでに80社近くの「央企」が公開招聘に参加し、81名の人材を外部から招き入れた。 今年も電信や鉄鋼など基幹産業を含む「央企」の人材公開招聘を行った。募集人数は22名で、その内訳は副社長9名、CFO7名、法律顧問6名とかなりのハイレベルといってよい。応募しやすくするため、初めて海外にも招聘会場を設けた。積極的なアピールや周到な準備から応募人数も1603人に上ったという盛況ぶりだ。そのうち、外国人は25人、香港や台湾、マカオなどのグレートチャイナ地域出身者も10人いる。 選考のスピードも電光石火だ。公募は5月末に始まったが、9月末時点ですでに14名が着任した。今後も定期的にこういった人材招聘を行っていくという。さすがに最高責任者である社長レベルまでは行っていないが、執行レベルの経営陣はすでに開放されたといっていい。それは中国政府の「央企」育成の本気度を如実に表している。 ■「央企」改革に下支えされる中国株式市場 長い間、中国株式市場は国のマクロ経済の急速な発展から乖離し、低空飛行の状態が続いた。中国政府もこれを問題視し、数年前から法制度の整備や流通株の増大などを通じて株式市場の改革を進めてきた。 当初、大量の非流通株(政府保有などで市場に流通しない株式)の市場への放出は株価の下降圧力になりかねないと懸念されていたが、結果は周知の通り、ここ2年間中国の平均株価は4倍増と、急激な上昇を見せている。その要因は「央企」の改革による上場企業の業績改善や将来への期待が投資家心理にプラスに働き、積極的な投資と株価の上昇を引き起こし、さらに多くの国民を株式市場に引き寄せるという好循環にある。 いまも「央企」改革の重点である企業の統合や持ち株会社の上場、上場企業へのさらなる優良資産の注入などは中国株式市場にもっとも影響を与えるプラス要因だ。つまり、こういうマクロの環境があるからこそ、すでに5500点を超えている上海株価指数はいっこうに調整局面に入る気配を見せないのだ。 チャイナモバイルなどすでに香港に上場している大型「央企」の国内株式市場復帰の動きも、投資家の期待を大きく膨らませている。いまの中国株式市場は大型「央企」に背負われているといっても過言ではない。 中国の改革開放はすでに20年を数えるが、ついに主役の登場だ。大型「央企」は猛スピードで近代化を図り、その豊富な資金力、川上産業においての圧倒的な強さ、充実した開発力を引っ提げて、競争の激しい中国市場、そしてグローバル市場に参戦しようとしている。迎え撃つ外資系グローバル企業との勝負の行方が見えてきたとき初めて、中国の改革開放の評価が下されるだろう。 [2007年10月2日] ● 関連記事● 関連リンク● 記事一覧
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