社会保障の切り下げに不安を感じている国民は少なくない。
加えて増税の恐れにおののき、重苦しさとなってのしかかる。
わたしたちの暮らしと将来は不安要素と心配の種が増すばかりである。
増税論議を頭から否定するつもりはない。
だが、歳出の無駄や非効率を改めるなど歳出削減が大前提でなければならない。政府・与党は長期にわたって慣例化し既得権益化した歳出構造にも徹底してメスを入れる必要がある。
社会保障政策の水準を維持していくために財源を確保し増税が不可欠というのであれば、年金制度をはじめ医療、福祉、介護など各分野の制度設計を確固たるものにした上で、それぞれサービス水準についても明確に提示しなければならない。
いずれにせよ「増税ありき」の発想では国民や納税者の理解は得られまい。
消費税率の引き上げを軸とした増税論議に火を付けたのは、政府の財政諮問会議である。経済成長率を引き上げ、税収を増やす戦絡である「上げ潮路線」を取った安倍内閣では半ば封印されていた論議が、福田政権になって一気に表舞台に上がってきた。
財政諮問会議が示した試算はこうだ。
国と地方を合わせた財政の基礎的収支黒字化を2011年度に達成しなければならない。そのためには財政の不足分を消費税で賄う必要があり、最大で消費税2・5%分に相当する6兆6千億円の増税が欠かせないとの内容だ。
09年度までに基礎年金の国庫負担割合を現在の3分の1から2分の1へ引き上げるのも政府の規定方針である。そのために見込まれる2兆5千億円の財源の手当ても背景にある。
しかし、民主党は異なる提案をしている。税の無駄をなくすことなどで消費税を上げずに年金財源を全額税で賄えるとし、夏の参院選のマニフェスト(政権公約)にも盛り込んだ。
社会保障関係費には毎年の自然増が伴い、それへの対応が不可欠なのは分かる。ただ財源を消費税の増税で実現させようとの方向に議論が前のめりになっている印象がぬぐえないのである。
ここは、やはり国民的な議論が欠かせない。民主党案を含め年金の在り方など社会保障の「給付と負担」についてじっくり吟味を重ねなければならない。
財政規律は緩めない。ばらまきを許さない。そうした視点に立って与野党が国会で議論を戦わせるべきだ。
財源を埋めるためのつじつま合わせは願い下げだ。
(11/6 9:49)