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特集
2007年11月06日 10時53分 更新

対談:小寺信良×椎名和夫(1)

「ダビング10」はコピーワンスの緩和か (3/4)

椎名氏: 僕らも怒りましたけど、僕ら以上に消費者側の高橋伸子さん(生活経済ジャーナリスト)や、長田三紀さん(東京都地域婦人団体連盟)がJEITAに対して怒っちゃったんですよね。「JEITAは嘘をついていた」と。で、そのときは「議論の前提が変わったんだから、中間的な運用を考えましょう」という方向で話が進んだと思ったんですが、その次の回の12月5日になったら、こういう議論を踏まえているにも関わらずJEITAはまた懲りずに「コピーワンスと著作権保護の見直しに関するJEITA意見」という7月の時点で出していた資料をまた持ち出してきて(リンク先PDF)、見直しの方向はEPNしかないという主張をしてきた。そしたら、高橋さんと長田さんがめちゃめちゃ怒っちゃって。「この4カ月の議論をムダにするのか」っていう感じで。

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 結局年内はそういう感じでグダグダになって議論は一旦終わって今年に持ち越されたわけですが、メーカーと権利者が「なんでEPNではダメなのか?」とかいう議論をしている中で、3月になって堀義貴さん(ホリプロ代表取締役社長、日本音楽事業者協会常任理事)が、消費者側の人たちに対して「なんで消費者は無制限のコピーを必要としているんですか?」という質問をした(リンク先PDF)んですね。

 それに対して高橋さんは「なにも無制限なコピーなんて望んでない。枚数を探りながら制限を感じさせないようなコピーをさせてくれ、と主張してるだけじゃないか」と答えたんです。主婦連の河村さんも「消費者にとってコピーが無制限にできる必要はない」と主張しました。こういう消費者側の回答が大きなきっかけになって、それまでの「EPNにするかどうか」ではなく、いきなり「COGプラス枚数制限」の方向に議論が一気に進んでいったんですね。

EPNからCOG+枚数の議論へ

――うわぁ……。売り言葉に買い言葉というか……。でもなるほど。それがコピーナインにシフトしていった大きな原因なんですね。

椎名氏: この消費者側の発言の影響は本当に大きくて、これ以降、委員会のムードがCOGプラス枚数制限の方向へ一気に傾いていったんです。ただ、そんな状況になってもJEITAはまだ「EPNしかない」って言い続けたんですよ(苦笑)。もうこれじゃ議論にならないってみんな呆れちゃって。

 それで4月18日に村井先生が「COGプラスN回なんじゃないの?」と明言されて(リンク先PDF)、技術ワーキンググループ作りましょうという話になりました。消費者の方々は「もう何でも良いけど、制限を感じさせないようにしてよ」と。実演家の立場の我々としては「コピーワンスからCOG+N回に緩和させてもいいけど、それは私的録音録画補償金がきちんと機能することが前提だよ」と。

――その「N回」はどうやって決まったんですか?

椎名氏: 実演家の立場からすれば、ハードディスクに残る1回を除いて3回くらいが適当なんじゃないですかと主張しました。つまり、ハードディスクに残るのも含めると「コピーフォース」ということになりますね。でも、「N」の数字は権利者によってバラバラで、日本映画製作者連盟の華頂尚隆さんなんかは「1回」ということを強硬に主張されていた。

 そのへんは権利者によってバラバラだったんですけど、村井先生が「回数制限に関しては色々ご主張もあると思うけれども、ここは私に任せてくれ」とおっしゃって、主査一任という形で彼が預かる形になった。で、そこまで行ってようやくJEITAはCOGプラス回数制限に同意したんですよ。それで、最終的に7月12日に主査から「N回は9回プラス1回の10回にする」という結論が出されました。

――なんで9+1回になったんですか?

椎名氏: 村井先生がおっしゃった理由は「実演家から3回という提案があったけど、3回を1人に許容するとして、日本の平均世帯人員数は3名なので、3×3で9である」というものなんですよ。わかったようなわからないような理屈ですけど(笑)、まあそれは理屈であって、実際にはムーブが失敗する可能性も残ってるし、今後もさまざまなデバイスが登場してくることを考慮したときに、すべてを含めたアロウアンスとして10回程度は必要だろうと。

――個人的な感想としては、COGプラス回数制限になった時点で「まぁどうせ3回くらいで落ち着くんだろうな」と思っていたので、9+1回というのは「思ったより多いな」という感じだったんですが、皆さんこの結論で納得したんですか?

椎名氏: 消費者側の人たちは満足してたんじゃないかな。ただ、河村さんは「10回が制限を感じさせない回数と言えるか疑問だ」みたいなことおっしゃいましたけど。

 僕らは「10回は多すぎるんじゃないの?」ということは言ったんですけど、まぁこの1年近く話し合った上での結論ですし、録画補償金がきちんと機能することを前提に、基本的にはこの結論は尊重しますということで、これ以上の文句は言わないということにしました。もちろん、ほかの権利者の人たちは僕らとも考え方が違いますし、中には納得してない人もいると思います。

 長くなりましたが、これがこの1年、委員会上で放送事業者、JEITA、権利者、消費者がどのような綱引きを行ってきたかという経緯です。もちろん多分に僕の視点が入ってるし、これはあくまで「権利者側から見た経緯」と思っていただければ。

[津田大介,ITmedia]

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