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特集
2007年11月06日 10時53分 更新

対談:小寺信良×椎名和夫(1)

「ダビング10」はコピーワンスの緩和か (2/4)

JEITAの説明は恣意的だった?

――デジコン委員会のスタート時点から、状況が混乱していたわけですね。だからあんなに波乱含みのスタートになったと。

椎名氏: そう。委員会がスタートしたときのそれぞれの主張はこうです。まずJEITAは「EPNはネットワークへの送出を禁じていて、CPRM対応の機器でしかコピーができず、コピーフリーではない。そのため、コピー緩和策としては最適である。またEPN以外の緩和策を採用する場合は、DTCPルールの変更を申請する必要があり、時間もかかるから現実的ではない」というように主張しました。

 消費者団体は「コピーワンスの運用下でムーブの失敗が頻発しており、消費者は多大な不便を強いられている。お金を払っているのにその機能がきちんと利用できない元凶はコピーワンスにある。権利者が権利主張をし過ぎた結果、消費者は不便を強いられているのだから、EPNにルールを変更して消費者の利便性を確保するべき」と主張しました。

 で、わたしたち権利者は「そもそもコピーワンスルールの策定に我々は関与していない。ただ、ムーブの失敗については僕らも酷い話だと思う。でも、その問題って単にそのメーカーが製造した機器が、“ムーブが可能である”という要求仕様を満たしていないだけの話であって、コピーワンスの問題とは別なんじゃないですか」と主張したんです。

 その上でEPNについては「ネットに送出できない以外のデジタルコピーは、世代も枚数も管理できない。これは事実上の“コピーフリー”じゃないですか。それは困りますよ」と否定しました。僕は最初からEPN前提で審議が進もうとしていることに対して強烈な違和感があったし、「現行のコピーワンスとEPNの中間点でベターな運用があるんじゃないですか?」という主張でこの委員会に臨んだわけです。

――そういう事情や思惑があったから、初回の審議(2006年9月28日 デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会 第1回)で椎名さんは「EPNへの変更ということは、あくまでも“前提”ではないですよね」と確認された(リンク先PDF)んですね。

椎名氏: そうです。それに対して、委員会主査の村井純先生は「EPNありきではないが、EPNが検討された歴史観を押さえた上で話をしていきたい」とお答えになった。これはある意味秀逸な答えで、少なくともこれでデジコン委員会はEPNという結論に向かって進むのではなく、それを一度チャラにした上で、オープンに私的録音録画補償金制度との関連で文化庁からヒアリングをしたり、外国のデジタル放送の動向のヒアリングをしたり、技術的な問題の検討などが行われて審議が進んでいったんです。

 そういう流れの中、11月頃にムーブの失敗の話になったんですが、そこでJEITAは「我々は放送事業者が決めた規定通り機器を作ってるだけ。ムーブの失敗はメーカーの責任じゃない」というような主張をしました(リンク先PDF)。しかし、そういう一方的なことを言われたら放送事業者も反発するわけで、委員会の席上でコピーワンスを決めた張本人たちが責任の押し付け合いみたいなことを始めちゃったわけです。

 そのやり取りの中で明らかになったのは、コピーワンスの「ムーブ」って、連続して1分以上のコンテンツが2つの機器に同時に存在してはいけないというような、デジタル時代とは到底思えないような規定で運用されているってことだったんですよ。それは、放送事業者で定めているARIBの「TR-B14」という運用規定ですね。

 それともうひとつ大きかったのは、メーカーがムーブの失敗に関する技術的な説明をしたときに「同一筐体内の機器のコピーについては、DTCPに縛られない」ということを言ったことです。これはどういうことかというと、「IEEE1394のバスを介さないコピーについてはDTCPは適用されない」という話なんです。

つまり今売られているレコーダーの大半が、チューナーにHDDとDVDドライブを内蔵したハイブリッド型になっている。そういう機器に対してはTR-B14を見直せば自由に運用ルールを変更はできるということがわかったわけです。つまり、「DTCPルールの変更」なんて必要なかったんですよ。

 11月までの議論では、JEITAは「DTCPのステータスは『コピーフリー』『コピーネバー』『コピーワンジェネレーション(COG)』『EPN』という4つのステータスしかなくて、コピーワンスを緩和するにはこのステータスにもう1つ新たなステータスを加える「申請」をしなければならないという説明を再三消費者の方々にしてきたわけですが、この時点で「その説明は事実と違いましたね?」という話になっちゃったんですよ。

 それに引き続いて、11月27日にDTCPを管理しているインテルさんが委員会に出てきて(リンク先PDF)「同一筐体内の機器内のコピーについてはDTCPは関係ありません」ということを証言した。であれば、少なくとも「コピーワンスとEPNとの中間的な運用」は可能だろうという話になるわけです。権利者から見てもコピーワンスのムーブ失敗は酷い話なんだから、コピーワンスは緩和させた方が良いと思ってる。しかし、実質的にコピーフリーのEPNは認められない。だから、その中間を目指すのが良い落としどころなんじゃないですか、と僕らは主張したわけです。

――JEITAの説明不足によって、当初は年内に結論を出すという話が、11月の終わりに議論の前提が大きく崩れてしまったと。

椎名氏: 説明不足と言うよりは、恣意的な説明ですよね。技術を説明するのはメーカーしかいないわけだから、少なくともニュートラルに技術提供すべきなのに、自分らに都合のいい部分しか説明していなかった。

[津田大介,ITmedia]

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