■ガイア教の天使クジラ その4
(ガイア教の天使クジラ その3 の続き)
ここまで読んでくれた人には納得してもらえると思うが、反捕鯨運動にはクジラの数が増えているか減っているかは、ほとんど関係がない。仮にクジラが海から溢れ出して世界中の浜辺でピチピチ跳ね回ることになっても、あるいは逆に絶滅してしまったとしても、捕鯨反対運動は変わらずに存在し続けるだろう。
(たとえばタイムリーにヨウスコウカワイルカ絶滅のニュースが入ってきたが、捕鯨反対派がこの報に特別な感情を持つことはないと思う。もちろん喜びはしないだろうが、彼らの宗教に意味があるのは、天使の役割を担うに足る巨大さと神秘性を持つ大型の鯨類と、それを殺す悪魔としての捕鯨者であって、生物多様性ではない。)
その2で見たように、そもそも彼らが父なる神に背を向けてクジラなどを崇め奉らなければならなくなっている(モーセが見たらなんて言うか想像するのも怖ろしいじゃないか)のはひとえに科学のせいなのだ。彼らは科学とそれのもたらす結論が嫌で嫌でたまらなくて、どうにも我慢できなくて結集した人たちなのだ。
(何年前の話だったかIWCの科学担当者が「もーやってらんね」と逃げ出した事件があったらしいが、当たり前の話だ。本当なら科学者などというものは十字架にはりつけて火焙りにしたいところなのである。科学的証拠が自分たちに有利なことを言ってくれるというならともかく、そうでないなら置いておく理由など一つもないのだ。)
そんな人たちにさらに科学的根拠を突きつけろというのは、ただの嫌がらせである。「嫌がらせでいいよ」という意見ならば理解はできるが賛成はできない。もちろん詳しくない人間がこれ以上誘引されないように啓蒙し、今以上に事態を悪化させないための対策として、科学的事実を追求・提示することはこれからも常に重要であろう。だがそれで捕鯨反対派が考えを改めるとか、反捕鯨問題が解決するとか思っているのならば、無駄である。諦めた方がいい。
彼らがそれを自覚していないとでも思うのか? そんなわけないじゃないか。彼らが自分たち自身の天使(そうなる前の話だとはいえ)を殺してランプの油にしていたという事実は、私たちが考える以上に恥ずべき、ぬぐい去りたい汚点だと感じているに決まっているじゃないか。これをなかったことにするのはさすがに無理(ペチコートは何でできていたことにすればいい?)だとすれば、汚点をぬぐい去る唯一の方法はなんだ? より激しく現代の捕鯨者を、日本人を非難することだ。それしかないじゃないか。他にどうしろと言うんだ。
まだある。そもそも人種差別によって直接的な利益を得ることがあまり期待できない現代で、こんな涙ぐましい工夫を凝らしてまで宗教的・人種差別的ヒエラルキーを維持するモチベーションはどこから来るのかという話だ。これはもちろん複合的なものだが、それに「ひとたびヒエラルキーが崩れれば自分たちは過去の人種差別の責任全てを負わされる立場になるのではないか」という恐怖の占める割合は高いと言っていいだろう。
もちろん、この恐怖はどちらかというと現実の危険というよりは被害妄想的なものだが(個人的にはキリスト教原理主義的な政権によって伝統的な人種差別が復活する可能性の方がまだしも高いんじゃないかと思うがどちらにしろ夢想だ)、このような人種逆差別的な主張は彼らの悪夢をわずかでも現実と思わせることに貢献し、被害妄想をますます煽り立て、反捕鯨運動の必要性・重要性をますます確信させることにしかならない。
「なんてこったやっぱりこいつらは理性を持たない野蛮人だ。これ以上の力を持たせようものなら、過去をタネにどんな理不尽で残酷な要求をしてくるか分かったもんじゃない。ああクジラ様奴らを押さえ込む力を我らにお貸し下さい!」
……というわけである。捕鯨賛成派の人たちには、次に触れる反対派の意見に反発するのは構わないし、最後にまとめるであろう私の意見に賛成してくれなくたって構わないが、少なくともこれだけは言わないようにしてくれとお願いしておく。(つづく)
「少なくとも一部のクジラは増えている。科学的証拠を突きつけて商業捕鯨を再開させよう。文化帝国主義反対!」
まあこのあたりが捕鯨賛成派の最大公約数的な主張だろう。気持ちは分かるが、残念ながらあまり意味がない。ここまで読んでくれた人には納得してもらえると思うが、反捕鯨運動にはクジラの数が増えているか減っているかは、ほとんど関係がない。仮にクジラが海から溢れ出して世界中の浜辺でピチピチ跳ね回ることになっても、あるいは逆に絶滅してしまったとしても、捕鯨反対運動は変わらずに存在し続けるだろう。
(たとえばタイムリーにヨウスコウカワイルカ絶滅のニュースが入ってきたが、捕鯨反対派がこの報に特別な感情を持つことはないと思う。もちろん喜びはしないだろうが、彼らの宗教に意味があるのは、天使の役割を担うに足る巨大さと神秘性を持つ大型の鯨類と、それを殺す悪魔としての捕鯨者であって、生物多様性ではない。)
その2で見たように、そもそも彼らが父なる神に背を向けてクジラなどを崇め奉らなければならなくなっている(モーセが見たらなんて言うか想像するのも怖ろしいじゃないか)のはひとえに科学のせいなのだ。彼らは科学とそれのもたらす結論が嫌で嫌でたまらなくて、どうにも我慢できなくて結集した人たちなのだ。
(何年前の話だったかIWCの科学担当者が「もーやってらんね」と逃げ出した事件があったらしいが、当たり前の話だ。本当なら科学者などというものは十字架にはりつけて火焙りにしたいところなのである。科学的証拠が自分たちに有利なことを言ってくれるというならともかく、そうでないなら置いておく理由など一つもないのだ。)
そんな人たちにさらに科学的根拠を突きつけろというのは、ただの嫌がらせである。「嫌がらせでいいよ」という意見ならば理解はできるが賛成はできない。もちろん詳しくない人間がこれ以上誘引されないように啓蒙し、今以上に事態を悪化させないための対策として、科学的事実を追求・提示することはこれからも常に重要であろう。だがそれで捕鯨反対派が考えを改めるとか、反捕鯨問題が解決するとか思っているのならば、無駄である。諦めた方がいい。
「第一大型クジラを獲りまくって数を減らしたのはお前ら白人の方じゃないか!」
これはあらゆる意味で最悪の主張である。もしかしたらあなたには正論に見えているのかも知れないとしてもだ。それは単に人種逆差別だからとか、現在の基準でそれが存在しなかった時代の行為を非難するというありがちな過ちを犯しているからというだけの話ではない。これ以上に反捕鯨運動を激しく煽り立て、事態を悪化させる主張は他に考えられないからである。彼らがそれを自覚していないとでも思うのか? そんなわけないじゃないか。彼らが自分たち自身の天使(そうなる前の話だとはいえ)を殺してランプの油にしていたという事実は、私たちが考える以上に恥ずべき、ぬぐい去りたい汚点だと感じているに決まっているじゃないか。これをなかったことにするのはさすがに無理(ペチコートは何でできていたことにすればいい?)だとすれば、汚点をぬぐい去る唯一の方法はなんだ? より激しく現代の捕鯨者を、日本人を非難することだ。それしかないじゃないか。他にどうしろと言うんだ。
まだある。そもそも人種差別によって直接的な利益を得ることがあまり期待できない現代で、こんな涙ぐましい工夫を凝らしてまで宗教的・人種差別的ヒエラルキーを維持するモチベーションはどこから来るのかという話だ。これはもちろん複合的なものだが、それに「ひとたびヒエラルキーが崩れれば自分たちは過去の人種差別の責任全てを負わされる立場になるのではないか」という恐怖の占める割合は高いと言っていいだろう。
もちろん、この恐怖はどちらかというと現実の危険というよりは被害妄想的なものだが(個人的にはキリスト教原理主義的な政権によって伝統的な人種差別が復活する可能性の方がまだしも高いんじゃないかと思うがどちらにしろ夢想だ)、このような人種逆差別的な主張は彼らの悪夢をわずかでも現実と思わせることに貢献し、被害妄想をますます煽り立て、反捕鯨運動の必要性・重要性をますます確信させることにしかならない。
「なんてこったやっぱりこいつらは理性を持たない野蛮人だ。これ以上の力を持たせようものなら、過去をタネにどんな理不尽で残酷な要求をしてくるか分かったもんじゃない。ああクジラ様奴らを押さえ込む力を我らにお貸し下さい!」
……というわけである。捕鯨賛成派の人たちには、次に触れる反対派の意見に反発するのは構わないし、最後にまとめるであろう私の意見に賛成してくれなくたって構わないが、少なくともこれだけは言わないようにしてくれとお願いしておく。(つづく)
おまけ
この記事へのコメント
もし仮に崇高な大型鯨類に姿は多少似ている下等で繁殖力だけは旺盛なな小型鯨類が大型鯨類の生息を脅かしているという主張(をやわらかに打ち出すことが可能)ならば(小型鯨類については)状況が変化する可能性はあるということでしょうか?
木戸孝紀 URL 2007/10/05(金)
>クリオネさん
そりゃ可能性はあると思う。というかコチコチの反捕鯨派が捕鯨を認めるように変化するという意味ではたぶん唯一ありうる可能性だと思うが、いわゆる海のゴキブリ論は基本的になんも根拠ない苦し紛れの妥協のための理屈に過ぎないのでおすすめできない。続きで触れると思う。
そりゃ可能性はあると思う。というかコチコチの反捕鯨派が捕鯨を認めるように変化するという意味ではたぶん唯一ありうる可能性だと思うが、いわゆる海のゴキブリ論は基本的になんも根拠ない苦し紛れの妥協のための理屈に過ぎないのでおすすめできない。続きで触れると思う。
有名な話ですが、鯨やイルカはレイプをするという線から攻めるのはどうなんでしょう?
いや、もう追求した人はいると思いますが。
いや、もう追求した人はいると思いますが。