部位別トレーニング編、今回は「背中」となります。前回までは胸や肩、腕など目につきやすい部位でしたが、これらの筋肉は別名「ミラーマッスル」と呼ばれます。鏡に向かって確認しやすい筋肉とでもいった意味ですね。自分の目でよく見えるぶん、それらを重点的に鍛えたくなるものです。
しかし、周りの人たちは私たちを前からだけではなく、後ろからも見ています。引き締まったウェストから広がる逆三角形の背中は、非常に強いアピールポイントとなるでしょう。
また、胸のように身体の前の筋肉だけを鍛えていると、姿勢がどんどん悪くなってしまいます。背中の筋肉群をしっかり鍛え、背骨や肩甲骨を正常な位置に保つようにしていきたいものです。
★種目の選び方
さて、背中の筋肉は他の部位に比べて複雑にできています。大雑把に分けても、
- 肩甲骨を動かす筋肉(僧帽筋や菱形筋)
- 腕を後ろや下に引く筋肉(大円筋や広背筋)
- 背骨を安定させる筋肉(脊柱起立筋群)
少なくとも、この3つで考える必要があるでしょう。ただしここではあくまでも「見栄え」重視ですので、逆三角形を形づくるのにポイントとなる大円筋、そして広背筋をメインに考えていくこととします。
ジムに入会した人が初めてやらされる背中の種目としては、ラットプルダウンが代表的なものでしょう。このときに手幅は肩幅よりも広くするように指示されるはずです。
しかし、背中の筋肉(この場合は大円筋や広背筋)をストレッチさせるためには、手幅は狭くしなければなりません。ですから肩幅より狭いナローグリップの方が、本来は有効となるはずです。
ただし背中の筋肉は集中して効かせることが難しく、どうしても腕の力を使ってしまいがちです。手幅が狭いと、より腕の力を使いやすくなってしまいますので、結局は背中への刺激が弱くなってしまったということになりかねません。
ある程度トレーニング経験のある方だったら、背中のエクササイズとして「上から引く」種目と「前から引く」種目があることはご存知でしょう。そして一般的には、上から引く種目の方が腕の力を使いやすく、前から引く種目では腕の力はあまり使われずに済みます。
となると、上から引くプルダウン系の種目では広いグリップで、前から引くロウイング系の種目では狭いグリップでやれば効率的だということになるでしょう。
■プルダウン系種目の注意点
プルダウン系の種目ですが、これは自然な関節角度を考えて、フロント(首の前)に引くようにすべきです。首の後ろに引くように薦めるところもありますが、関節に不自然なばかりか、背中よりも肩の後部に効いてしまう可能性が強くなります。
手幅は肩幅よりも二握りくらい広くとり、親指を他の指と同じ方向におくサムレスグリップで行います。そして小指と薬指の力を主に使い、中指と人差し指の力は抜くようにします。そうすると、腕の力をあまり使わず、背中の筋肉に集中的に効かせることができるようになります。
ある程度力がついてきたら、懸垂(チンニング)に挑戦してみましょう。こちらの方が筋繊維数を多く使い、効果が高くなります。体重で10回できるようになったら、腰にウェイト(ダンベルなど)をぶらさげて負荷を加えていきます。
■ロウイング系種目の注意点
次にロウイング系のエクササイズですが、腰への負担やエクササイズの容易さから考えて、ロープーリーを用いたプーリーロウイングをお勧めします。手のひらが向かい合ったナローグリップハンドルを使い、ヘソのあたりに引くようにします。これもサムレスグリップで行い、小指と薬指を意識して動作を行いましょう。
腰の力を使って反動をつけたりせず、腰〜みぞおちにかけては常に地面と垂直な状態をキープします。そしてみぞおちから上、つまり肩甲骨から肩にかけてを前後に動かしてストレッチ→収縮の動作を行ってください。
■その他の種目について
以上の2種目がメインとなるわけですが、僧帽筋や脊柱起立筋も刺激しておきたいところです。これらをいっぺんに鍛える種目として、トップサイドデッドリフトをお勧めします。普通のデッドリフトは床から引きますが、このトップサイドデッドリフトはパワーラックのセーフティバーなどを使い、膝の皿下あたりがスタートポジションとなるようにバーをセッティングして、そこからスタートするものです。
可動範囲を制限することにより高重量が扱えますし、背骨の自然なアーチをキープしやすくなります。かかとに重心を置いてハムストリングスと臀部の力で下半身を安定させるようにしてください。動作中は股関節の屈曲・伸展を意識します。
手幅はやや広め。バーを持ち上げながら胸を張り、トップポジションでは肩を後ろに引いて肩甲骨を寄せます。これにより、僧帽筋や菱形筋への刺激も得られるようになります。
当初は脊柱起立筋への刺激が一番感じられると思いますが、だんだんフォームが固まってくるに従い、ハムと臀部で上手にウェイトを支えられるようになります。すると、むしろ僧帽筋や菱形筋、さらに大円筋までに刺激が移行してくるのが感じられてくるでしょう。
■プログラミングの実際
さて、具体的なプログラムを考えていきましょう。広背筋や大円筋を重視する以上、最初に来るのはプルダウンかロウイングです。このどちらを最初にするべきでしょうか?
前述したとおり、プルダウン系のほうが腕に効きやすくなっています。となると、先にプルダウンを持ってくるとロウイングの時に腕が疲れてしまい、最後までウェイトを引ききれなくなる可能性があります。
また、プルダウン系では広背筋よりも大円筋への刺激が強い傾向にあります。先に大円筋がパンプアップしてしまうと、ロウイングの時にバーを後ろに引きにくくなることもあります。まぁこれは筋肉量の多いベテランの話ですが…
以上より、先にロウイング、次にプルダウン。そして最後にトップサイドデッドリフトで仕上げるというプログラムとなります。
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背中のモデルプログラム
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1. ロー・プーリーロウイング: |
ウォームアップ2セット+メイン2セット |
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2. フロント・ラットプルダウン: |
メイン2セット |
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3. トップサイドデッドリフト: |
だんだん重量を増やしながら回数を減らし、トータルで4セット |
ロウイングとプルダウンはレップス数8〜12としますが、デッドリフトは軽い重量で15回くらいから開始し、12回、10回、8回とだんだん重量を増やしながらレップスを減らすようにしていきます。フォームが難しく、多くの関節を使う運動ですので、最初のうちはこのような形で行ったほうがよろしいでしょう。
ある程度筋力がアップしてきたら、前述したとおりプルダウンをチンニングに変えていくようにしてください。
背中の筋肉は脚についで大きな筋肉です。これを鍛えることによって筋肉での体重を増やすことができますし、姿勢も良くなってきます。アスリートには必須の筋肉ですし、見栄えも良くなる。これからはミラーマッスルだけでなく、背中の筋肉にも注意を向けるようにしていきましょう。
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