現在位置:asahi.com>社説 社説2007年11月06日(火曜日)付 希望社会への提言(2)―地域連合国家・ニッポンへ・暮らしにかかわるすべてを地域政府が決める ・地域共有の財源を設け、新たな仕組みで分け合う ◇ 連載1回目に示した「連帯型の福祉国家」を実現するにはどうすべきか。各論の最初にまず、地方分権を考えたい。 暮らしにかかわることは地域ですべて決める。そこでできないことだけを中央政府に委ねる。分権というより、地域主権へ。この原則を徹底させる。 そのために、地方自治体を「地域政府」と呼ぶべきものへ進化させる。行政、財政、そして議会による立法まで含め、自立した権限をもつ本物の「自治」体だ。なかでも、身近な市町村がとくに重要な役割を担うことになる。 地域政府が中央政府と対等な立場で役割分担する。私たちが描くのは、こんな国家像だ。絵空事だと思う人もいるだろうが、そこまでしなければ、この国はもはや立ちゆかない。 773兆円――。国と地方の借金はこんなに積み上がってしまった。いまの税財政システムのなかで、税金の無駄遣いを重ねたのが一つの原因だ。 山の中に立派な道路を通し、同じような施設を近隣の自治体が競うようにつくる。使う人がいなくても、責任を問われない。中央の各省庁は地方に対して権限を行使でき、自治体は天から降るように補助金がもらえる。地元は工事発注で潤い、議員は票田を得られた。 行き着く先を示したのが、多額の債務で破綻(はたん)した北海道夕張市だ。 炭鉱に代わる産業として過剰な観光施設を補助金などでつくったが、閑古鳥が鳴くばかり。観光事業だけで180億円もの赤字を抱えてしまった。 何をやるかは東京で考える。地方は言われた通りにすればいい。明治維新後の国づくりにも、戦後復興にも効率的だったかもしれないが、いまやそれが大きな足かせになっている。もう改める時だ。 欧州連合(EU)は国家間の統合を強め、経済のグローバル化に対応している。だが一方で、福祉や教育などでは地域に権限を渡し、自立性を高めていることをご存じだろうか。 その思想を支えるのが、欧州連合条約に盛り込まれた「補完性の原理」だ。地域にできることは地域が行い、できないことだけ、より大きな自治体や国で補完するとの考え方だ。英国やフランスなどでは90年代後半から、これに沿った大規模な法や制度改正が相次いでいる。 地域の一人ひとりの住民が、感性豊かに育てられ、充実感をもって働き、安心できる老後を過ごす。そのために税金の使い方は自分たちで決めたい。それは日本でも同じだろう。 それによって、私たちの暮らしはどう変わるか。教育を例にとろう。 全国学力調査を自治体で唯一拒否した愛知県犬山市は、分権を先取りして、少人数授業などを独自に進めてきた。 それに必要な教員増の市費は年間約1億5000万円。1500万円かけて独自の副教本をつくり、無償で配る。一般会計200億円弱の市には重い負担だ。そのせいもあって古い校舎が目立つが、「人づくり」には費用を惜しまない。 この10年、犬山市教委はことあるごとに文部科学省や県教委の圧力を振り払ってきた。毎年改訂する副教本は、作成委員の教師が原案を練り公表する。これに他の教師や保護者から時には1000件もの意見が寄せられる。市民参加の手作り教育。これが学力の底上げにつながり、不登校児の割合も全国平均の3分の1だ。 全国の子どもたちに等しく一定水準の義務教育を無償で保障する。その条件を整えたうえで、実際の教育は地域の工夫と責任で行う方が成果を生む。 学校に限らない。長時間保育と幼児教育の両立は、働く親の願いだ。「認定こども園」の試みは始まったが、所管する文科、厚生労働両省の壁を壊して地域に任せれば、もっと自由にできる。 介護保険もそうだ。いまは介護のメニューと単価が全国一律だが、地域が自由に決められれば実情にあった形でサービスを提供できる。業者頼みでない新たな担い手も育ってくるに違いない。 さて、こうした地域政府を可能にするのは、最終的にはお金と人である。 小泉政権下での「三位一体の改革」では、国からの補助金4.7兆円と、地方交付税関連の5.1兆円が削られた。だが、自治体への税源移譲は3兆円だけ。権限の移譲が少ないうえに自治体の財政難に拍車をかける結果となり、改革に逆行している部分もある。 交付税は、自治体ごとの税収の差を調整するため、国税の一定割合を地方へ割り振る資金だ。これを「地方共有税」に衣替えして自治体固有の財源とし、国に代わる新たな調整メカニズムで分け合う。こんな抜本的な改革が不可欠だ。 地方税の税率についても、地域の裁量の余地を増やしたい。地域の努力で行革が進めば、税率を下げられる。逆に、税率を上げてでもサービスを充実させる地域が出てくるかもしれない。 こうした権限を受け止め、地域の進むべき姿を描くのは、知事や市町村長、議員であり、なにより住民だ。 だが、「そこまで任せられるものか」との声が、中央政府にも当の住民にも根強い。地域主権が進むかどうかのカギはここにある。次週はそれを考えたい。 PR情報 |
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