民主党の小沢一郎代表が四日、突然辞任の意向を表明した。福田康夫首相(自民党総裁)と二日に行われた二回目の党首会談で打診された「大連立」をめぐり、民主党内が動揺していた。小沢氏は緊急記者会見で「けじめをつける」と辞任理由を述べたが、決断があまりにも極端で、代表の座を放り出したと批判されても仕方なかろう。
小沢氏は、党首再会談の際、福田首相から出された連立政権協議の提案に回答を保留し、持ち帰って役員会に諮った。党役員のほとんどは反対し、結局小沢氏は提案拒否を首相に伝えた。
しかし、党内には会談の場で即座に拒否しなかった対応に「政権交代」を目標にしてきた党の方針をないがしろにしたとの反発が広がった。鳩山由紀夫幹事長が記者団に語った「大連立は大政翼賛会的で(国民の)批判を受ける。とても(党が)持たない」という拒否理由が党内の大方の意見なのだろう。
役員会の出席者によれば、小沢氏は「首相から民主党の主張に大きな理解を示していただいた」と連立政権協議に前向きの姿勢がにじみ出ていたとされる。辞任表明会見でも「民主党が政権の一翼を担い、実績をあげることが政権への近道だ」と連立政権にこだわりをみせた。
先の参院選で民主党が大勝したのは、小沢氏の強い指導力があったからだ。寄り合い所帯といわれる党を「政権交代」を掲げてまとめ、「総選挙は最終戦」だと次期総選挙での実現を目指し先頭に立って党を引っ張ってきた。小沢氏は、選挙で戦える民主党の顔である。
突然の辞任表明は、民主党にとって青天のへきれきであろう。小沢代表の辞職願の扱いに関し、五日に緊急役員会を開くが、鳩山幹事長は「慰留に努めたい」としている。しかし、小沢氏は「与党との政策協議が認められなかったことは、私が選任した党役員から不信任を突き付けられたのと同じだ」と辞任表明会見で強調した。連立に反対の強い党内の意見を考えれば、慰留は難しかろう。
小沢氏は、過去に何度も連立政権樹立に関与し、「壊し屋」と呼ばれる剛腕で知られるだけに、このままで終わるとは思えない。福田・小沢会談の大半は密室で行われた。辞任表明の裏に首相と密約はなかったのか気になる。
民主党は一刻も早く混乱を収拾し、求心力を高めていかなければ今後の国会運営が迷走しよう。次の総選挙の方針が狂い、政権交代可能な二大政党制の実現を期待する有権者を裏切ることにもなろう。
大手建材メーカーのニチアス(東京)が、住宅の軒下などに使う耐火壁について、国土交通省の認定を受ける試験の際、部材に水を含ませるなどして結果をよく見せる偽装工作をしていたことが分かった。
国交省によると不正認定を受けた耐火壁は二十種あり、全国の住宅を中心に約十万棟で使われた。このうち約四万棟分は、認定された性能を下回っており、大半は既に岡山、広島など二十三都府県に出荷された。国交省は早急な対策を指示した。住宅メーカーが全戸改修する方針だ。
残る約六万棟については、評価機関が再試験中で、結果によってはさらに交換や改修が必要になる可能性もある。
耐火壁は隣家などの火災の際、延焼を防ぐため建築基準法で使用が義務づけられている。出荷された耐火壁の中には、六十分火にあぶっても燃えない性能が求められているのに四十―四十五分程度しか持たないものもあった。
人命にかかわる製品での偽装を許すことはできない。国交省は不正工作ができないよう製品試験の方法について再検討する必要があろう。
驚くべきことに、ニチアスでは社内調査で昨年十月に不正を把握しながら、社長ら幹部三人の判断で公表を見送り、そのまま一年間で約一万七千棟分の販売を続けた。告発する手紙が届いたため、やむなく国交省に報告した。
食品の偽装が続発する中、住宅での不祥事である。日本の企業モラルはどうなってしまったのかと思わずにはいられない。
会社へのダメージは計り知れない。ニチアスは不正の実態を明らかにするとともに、今後の明確な再発防止策も示さねば、信用回復はできないことを認識すべきだ。
(2007年11月5日掲載)