2006年01月20日

「婚外子」に人権はない?

ビッグイシュー日本版』で毎月一回「世界・アジア・日本」という連載コラムを担当している。編集部から下ってくる御題(これまで「国籍の取得方法」「携帯電話の普及率」「育児休暇」「自殺率」とか、まあいろんなテーマがあった)についての三者比較をやるというもの。もちろん、私はそんなに博学ではないし――というか、はっきり言って物書きとしては致命的なくらいに無知無教養だ――にわか勉強で毎回えっちらおっちらと苦労しながら記事にまとめているのだが、逆にいえばこういう機会でもなければ改めて深く知ろうと思うこともなかったようなテーマについて勉強することができるわけであり、毎度毎度「へえ〜、へえ〜」と一人『トリビアの泉』状態にひたりながら結構楽しんで書いている。

 で、いま発売中の1月1・15日合併号では「婚外子」について書いているのだが、先日知り合いの菅原和之さんから「ごぶさたしております。ビッグイシュー読みましたよ」と久々にメールをいただいた。

 菅原さんは世田谷区を拠点に様々な平和運動や人権活動に取り組まれている方で、私とは4年前、オウム真理教(アーレフ)が転入してきて住民と揉めている千歳烏山のマンションの庭で『A2』の上映会と対話集会をやろうというイベント(詳しくはこちらを参照)で協力をいただいた頃からのお付き合いだ。それにしても、たった1ページの目立たないコラムをよく見つけられたな……と思いながら上記のメールを開いてみると、実は菅原さん自身が目下この「婚外子」の問題でえらい苦労をされているというのだ。

 菅原さんは奥さんとの間で籍を入れない、いわゆる「事実婚」の形で共同生活をしている。去年の3月に二人目のお子さんが生まれたのだが、その出生届を世田谷区役所に提出した際、「1人目の時に若干学習したこともあって」、出生届の「父母との続き柄」欄(嫡出子・嫡出でない子・男・女のいずれかに印を付ける欄)に記入せず、また、そうした場合に役所のほうが職権で行う「嫡出でない子」への付箋処理も拒んだのだそうだ。で、その結果どうなったかというと――なんとお子さんの出生届が「不受理」になってしまったんだとか。

 それこそ菅原さんや私が以前に関わったオウム問題では、信者や元信者の転入届が自治体から不受理にされたり、麻原彰晃の子供たちの就学を拒否されるなどの問題がたびたび持ち上がったわけだけど、さすがに「出生届の不受理」なんて話はオウム絡みでも無かったし、少なくとも私自身は今回初めて耳にするケースだ。しかも、出生届がないことを理由に住民票の作成まで拒まれたのだそうで、このままだとその子は住民票どころか国籍もない(日本の国籍法は海外で多数派の出生地主義ではなく、あくまで「親が日本人だ」という血統主義)ということになってしまう。

 もちろん菅原さんもさっそく家庭裁判所に出生届受理を求める不服申立を行ったり、東京都に対しても住民票を作成するように求める審査請求を出したりしたそうなのだが、昨年末までの状況で言うと、前者は却下(高等裁判所へ即時抗告申立)、後者は棄却という結果になったとのこと。

 ちなみに、審査請求を提出に行った際には東京都の担当者から「オウムとかとは違うんですね?」と言われたそうで、「若干懐かしく思ってしまいました」と上記の菅原さんのメールには書かれていた。

 思わず笑ってしまったけど、でも、オウムの住民票問題に関わってきた人が、自分の子どもの出生届をめぐってそんなことを問われなければならないというのは理不尽に加えて不憫だ(すみません、菅原さん、笑ってしまって)。私がその立場だったらどうしただろう? 役所の職員の胸グラひっつかんで「オウムだったら認めね―のかコノヤロー!」と喚くか、それとも我が子の顔を思い浮かべて、ここはグッとこらえるか……。

 そう、おそらく今の世の中の風潮からすれば、こういう話に対して、

「そんな親のほうの勝手な信念で子供に不憫なことするほうが悪いのよ。とっとと奥さんと普通に入籍しちゃいなさい!」

 とかいう声のほうが、やっぱり大きく出てきてしまうんだろうなあ……。菅原さんが人権問題などに熱心に取り組んでいる人だということで「ほらほら、またアカがウザイですう〜」とか喜ぶ西村新人類さん(しかしも実は「アカ」の巣窟のような職場にお勤め)の顔も見えるようだし。

 けれども、実のところこの問題は「アカ」に限らず、普通に企業社会でバリバリ仕事をしている人々にとっても今後シリアスな問題として浮上してくる可能性があるからだ。

 電話口からお母さんが階段をトントントンと駆け上がって「まさし〜」と呼びに行く環境に(たぶん今も)生きてる西村さんはご存知かどうかは知らんが、最近では一般の企業社会でも事実婚を選択していることを隠しもしない人たちは多い。なにしろ「シングルマザー」なんて言葉が誰しも知っているくらいに流通している世の中なのだ(一方で「私はシングルファザーです」と名乗り出る男があんましいないのはどういうわけなんだか、と思う人も多いんでしょうけど)。

 それこそ『ビッグイシュー』にも書いたけど、今や北欧諸国やイギリス・フランスでは生まれてくる子供の5割前後が、前出の日本でいう「嫡出でない子」なのだ。これは別に彼の地で男女関係が乱れているとかいうわけではない。たとえばスウェーデンでは法律婚カップルの約9割が、結婚前に「サムボ」という事実婚状態を経験しているし、サムボの子供たちに対しても法定婚の子供たちに対して差別が生じないような法制度が整えられているのだ。これは「嫡出」か否かが戸籍に明記され、当人のその後の人生も左右されてしまうという日本の現状が単なるバカでしかないことをよく物語っている。

 所詮そこにある男女の仲が法的に正しいものであるか否かなんていうのは、法律の側が勝手に決めた都合に過ぎない。むしろ、そんなものに振り回されずに「とにかく子供どんどん産んでくださいね〜。別に籍なんか入れてなくても全然問題ないですよ〜」と大々的に(それが倫理や道徳の面ではどうかといった問題はともかく)告知していったほうが、少子化対策という面では効果を発揮するのではないかとも思うんだが、どうか? 少なくとも「それを認めたら家族が崩壊する!」とか喚いてるオヤジさんたちには「お前のノスタルジーなんかでこの国の将来をつぶすわけにはいかんのだ。とりあえずお前は死ぬまで年金もらえるだけで我慢しろ!」とでも言っておけばよろしい。

 ――と言いつつ私も、将来もし結婚するとして、相手に「事実婚にしよう」とか言えるかな? とか思ってしまうのでした。いや、考え方としてはそれは正しいと思うのだけど、男の側からそういうのは何か別の思惑があってことみたいに思われそうで……やっぱり私も形骸化しつつある観念の枠組みに、まだまだとらわれているのかな?

 まあ、でも菅原さんが目下直面しているケースは確かに問題だ。そこには「お前がそんなことを言い出さなきゃ、誰も疑問をもたずにみんなが楽しく暮らせるんだよ」という本音が見え隠れするけれど、だからと言って、スルーしてしまえば全てが片付くという問題でもあるまいよ。

(「岩本太郎ブログ」と同時掲載)

Posted by ourplanet_iwamoto at 00:55 │Comments(14)TrackBack(0)

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この記事へのコメント
私は婚姻届を提出したうえ、出生届も思いつくままに書き込み提出しました。
婚外子の差別について勉強し、「書く人がいるから書かない人が特別視(もしくは蔑視)される」っていうことを知りました。
つぎは最低限しか書かないつもりですが、つぎができません…
それはともかく。
昨年12月19日のA新聞の投書欄に、男性から別姓を申し込まれた女性の話が載っていましたよ。
感覚のあうパートナーにめぐりあえるといいですね。
Posted by トルチェ at 2006年01月25日 11:40
普通に結婚すりゃいいだろ…常識的に考えて…
アカとかプロ市民とか以前の問題じゃね?
スウェーデンみたいなダメ後進国で婚姻の意味が薄くて事実婚が主流だからどうだっていうんだよ。
婚外子が社会的に認められていても、私たち結婚してないしさっさと離れてもいいよねーで子供が宙に浮いちゃうだろ…だから後進国なんだよ…

日本は日本、スウェーデンはスウェーデン。
そんなによその国がいいながらよその国の子になりな。
もう帰ってこなくていいからね。
Posted by (^ω^;) at 2007年04月24日 08:03
そんなに、日本が嫌なら、欧州でも、どこでも
いけよw

因みに、北欧は有史以来、長らく「略奪婚」がデフォルトであったことも知っておいてねw
「嫁かつぎ競争」で調べても、おもしろいよw

今現在、日本人の多くは、現在の家族制度、戸籍制度を支持している。そういう他の人々のことは無視かよw

貴殿は何様のつもりなんだ?

もし、どうしても変更したいのであれば、世論喚起して立法府で決着をつけるのが、貴殿の好きな護憲の正当なあり方ではないのですか?

あなた方が、ついに世の中の普遍的な支持を得られなかったのは、そういう傲慢さにあると理解せよ。

Posted by 30代男 at 2007年05月31日 23:21
世田谷区は即刻控訴すべきだね。
Posted by キタ(゚∀゚) !!!! at 2007年05月31日 23:22
それより、こんなことやらせて・・・行政側のコストも考えてね。世田谷区民の税金なんだから・・・・・
Posted by えっと at 2007年06月01日 00:38
行政に携わるものとして一言申し上げます。
窓口に立つ者、監督する管理職、責任を持つ自治体の長、すべて法に従い誠実に働いています。
自分の思想で事実婚を選び、出生時にも続柄の記載を拒否されたわけですから、それで不利益があったとしても、甘受するのが当たり前です。自分で義務を怠りながら他の人と同じ権利が欲しければゴネて自分の権利を主張するのはエゴイストです。
自分の思うようにしたいなら、頭のおかしい裁判官に当たるまで、訴訟をたくさん起こすような真似をせず、正道をもって民法から変る運動をすべきです。
我々公務員は面白半分に法をもてあそぶ人のために働いているのではありません。法を守り、一生懸命に働き、その合間をぬって手続きに来てくださる方のために働いているのです。くだらない活動で、他の人の手続きの邪魔をしないで下さい。
はっきり言ってエゴイストの活動家は邪魔です。

Posted by 一公務員 at 2007年06月01日 18:45
「野良」の菅原くん、相変わらずイタいな。
わたしは、別姓を選び「非嫡出子」を育てています。
将来、きちんと子供に説明する覚悟もありますし、嫡出である多くの子供達と変わらないくらい幸せに育ってくれるようにと願って、楽しく和やかに生きています。
すごく幸せな毎日を送っています。

菅原君のお嬢さんも幸せになれる日が来るとといいですね。
なんて。
Posted by 大昔、対バンしたな at 2007年06月02日 00:04
まったく、どこまでこういうことやるつもりなんだろ。
いいかげんにしろっての。
Posted by (´・ω・`) at 2007年06月02日 09:01
菅原は死ね
世田谷区頑張れ
Posted by 菅原は死ね at 2007年06月02日 20:49
菅原和之(社民党市民運動部長)

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
Posted by キリヤマ at 2007年06月07日 00:36
11/5東京高裁は作成を命じた東京地裁判決を取り消し、夫婦側の逆転敗訴判決を言い渡した。

事実婚という戸籍に頼らない人間味あふれる生活を営んでいるのに、
なぜ「非嫡出子」にこだわっているのでしょう。

人権問題などに熱心に考えているのであれば「婚外子」かどうかなんて子供には関係無い。
本人が「非嫡出子」を差別しているから、子供の為にとの大義名分をつけて自己満足の為に訴訟している。

裁判長は「無戸籍の子を自治体が裁量で住民票に記載するのは、極めて例外的な場合に限られる。父母の信条から出生届が受理されない今回は、例外に当たらない」としているので
行政側が「極めて例外的な場合」には自治体側が住民票を作ると認めているのだから、
子供の人権を考えるなら控訴したら、売名行為の何者でも有りませんね。

Posted by VG at 2007年11月05日 20:08
小学生の「隣の家の○○ちゃんはゲーム買ってもらってたよー。なんで僕はー」ぐらいにしかスウェーデンの話は聞こえないな。

大人なんだからメリットデメリット考えて不利益を受けることも受け入れるべきでは?それに日本国籍があればありがたいことにスウェーデンとかほとんどの国に行けるしね。これって凄いことなのだけど、こういう人は鈍感だからわからないでしょうね。
信条にあった場所を見つけるのも信念?を持った大人の責任なのでは。とにかく変な限定された行動力しか持たない、馬鹿な親で子供がかわいそうですね。
Posted by あらら at 2007年11月06日 00:24
思想信条の自由はあるよ。
しかし、気に入らないから既存の法に従わないってのはどうなのよ?
子供の人権を無視しているのは親自身じゃないのかね?

そうそう
>>北欧諸国やイギリス・フランスでは生まれてくる>>子供の5割前後が、前出の日本でいう「嫡出でな>>い子」なのだ。
これはこれでお国柄でしょ?
こういった国の制度を日本が見習うべき方法とも思えませんがねぇ・・・
それとも北欧諸国並みに税率を上げても貴方は文句言わないとか?
Posted by ぶんた at 2007年11月06日 00:25
とりあえずこの国は何という国なのかを百万回書き取りしてから文章かこうね。お馬鹿さん。
Posted by   at 2007年11月06日 01:42