日本の古美術といえば、一般には難しいという印象を持たれがちですが、そのなかでも、こどもからお年寄りまで誰もが楽しめる作品としてよく知られた絵巻があります。それがこの国宝「鳥獣戯画」(「鳥獣人物戯画絵巻」)です。遊び、飛び跳ねまわる動物たちの愉快な表情を自由闊達な筆線で描き出す本巻は、日本絵画史の一大傑作として高く評価され、また、世界から注目される日本のマンガ・アニメ文化、キャラクター文化の源流として、現代でも幅広い関心を集めています。
本展覧会では、京都・栂尾の高山寺に所蔵される「鳥獣戯画」四巻を中心に、分蔵される断簡、模本類もあわせて展示し、「鳥獣戯画」の全貌を本格的に紹介します。
また、それぞれの系譜に連なる作品をあわせて展示することで、「鳥獣戯画」の特色として挙げられる諸要素 ― 線描表現、ユーモア性、動物の擬人化など ― から、「鳥獣戯画」を基軸として垣間見えてくる日本文化の本質に迫ります。
■鳥獣戯画の全て
高山寺所蔵の「鳥獣戯画」は、一部の巻には人物も描かれているため、現在では総称して「鳥獣人物戯画絵巻」と呼ばれており、甲巻・乙巻・丙巻・丁巻の四巻からなっています。これらは当初からセットであったわけではなく、さまざまな改変を経て現在の姿になったと考えられています。また、四巻それぞれに画風が異なり、制作年代についてもある程度の幅が想定されるなど、その制作過程は今もなお多くの謎に包まれています。「鳥獣戯画」各巻の面白さをお楽しみ下さい。
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(甲巻) 高山寺蔵
動物だけでなく、川の流れも描線で上手く描かれています。
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(甲巻) 高山寺蔵
兎組と蛙組に分かれて、弓の腕くらべ。さあどっちに軍配が上がるでしょうか。
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(甲巻) 高山寺蔵
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(甲巻) 高山寺蔵
兎が蛙を投げ飛ばした様子を、小さな鼠が兎の影から覗き込んでます。強い者にすがる弱者の姿なのでしょうか。
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(甲巻)
ご存知、蛙が兎を投げ飛ばすシーンです。小さい者が大きい者に勝つ爽快感を、当時の人達も味わったことでしょう。蛙の勝利の雄たけびが聞こえてくるようです。
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(甲巻)
法会のために、仏壇役を買ってでる人のいい蛙。阿弥陀如来となって衆上を救うべく、微動だにせずにがんばっています。
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(甲巻)
猿の僧正に貢物をする兎。当時権力を振るった僧侶たちに対する皮肉でしょうか。
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(乙巻) 高山寺蔵
線描により、龍が駆け降りる様子が生き生きと描かれています。
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(乙巻) 高山寺蔵 |
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(丙巻) 高山寺蔵 |
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(丁巻) 高山寺蔵 |
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■鳥獣戯画の系譜
まず、「鳥獣戯画」が色を使わず墨だけを用い、活き活きとした線で動物や人間をユーモラスに描き出す点に注目し、墨の筆線を主体とした表現手法である「白描」、そして、ユーモアと滑稽さにあふれる「戯画」の系譜に連なる作品を追ってみたいと思います。そして、「鳥獣戯画」甲巻に登場する表情豊かな動物たちのように、擬人化された動物が物語の主人公となった例をお楽しみいただきます。
玄證本 阿弥陀鉤召図
鼠草子絵巻 サントリー美術館蔵
おもな出品作品
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(甲巻) |
平安時代 |
高山寺蔵 |
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(乙巻) |
平安時代 |
高山寺蔵 |
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(丙巻) |
平安〜鎌倉時代 |
高山寺蔵 |
国宝 鳥獣人物戯画絵巻(丁巻) |
鎌倉時代 |
高山寺蔵 |
玄證本 阿弥陀鉤召図 |
鎌倉時代 |
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重要文化財 十二神将図像 |
鎌倉時代 |
醍醐寺蔵 |
鳥獣人物戯画絵巻 模本(長尾家旧蔵本) |
室町時代 |
ホノルル美術館蔵 |
鼠草子絵巻 |
桃山時代 |
サントリー美術館蔵 |
探幽縮図 |
江戸時代 |
京都国立博物館蔵 |
鳥獣人物戯画絵巻 断巻(競馬・益田家旧蔵本) |
平安時代 |
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鳥獣人物戯画絵巻 模本(住吉家伝来本) |
桃山〜江戸時代 |
梅澤記念館蔵 |
滑稽図巻 狩野永納筆 |
江戸時代 |
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墨書土器(長屋王邸宅跡出土) |
奈良時代 |
奈良文化財研究所蔵 |
放屁合戦絵巻 |
室町時代 |
サントリー美術館蔵 |
重要文化財 善教房絵巻 |
鎌倉時代 |
サントリー美術館蔵 |
放屁合戦絵巻 サントリー美術館蔵 |
重要文化財 善教房絵巻 サントリー美術館蔵 |
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