音声ブラウザ専用。こちらより記事見出しへ移動可能です。クリック。

音声ブラウザ専用。こちらより検索フォームへ移動可能です。クリック。

NIKKEI NET

更新:2007/10/29

小沢発言の本気度

政治部・久門武史(10月15日)

 「どうしても嫌なら離党する以外にない」

 10日、アフガニスタンでの国際治安支援部隊(ISAF)参加を巡る持論に関連し、民主党の小沢一郎代表の口から漏れた一言が波紋を広げている。ISAF参加論には前原誠司副代表が「違和感」を訴えるなど、党内の足並みはそろっていない。枝野幸男氏は「国権の発動に当たらないというのは無理がある」と疑問を呈し、菅直人代表代行も「テロリストがいそうだからと武力攻撃を加えているところに自衛隊を出すのは無理だ」と慎重な言い回しだ。小沢氏の発言は安全保障問題でまとまりを欠く党内を混乱させかねない。

 「短絡的に『ISAF参加が党議だ、それが嫌なら離党しろ』ととるのは、理論的に飛びすぎだ」。鳩山由紀夫幹事長は12日の記者会見で火消しに回った。「党の政策に納得できないという話なら党議に反する行動ということだ」とも説明。一方で「多少、言葉が過ぎたかもしれない」と本音ものぞかせた。

 民主党は、インド洋での海上自衛隊による給油活動継続に向けた政府の新法案に反対の立場。安全とされる洋上給油に反対しながら、小沢氏が憲法の禁じる武力行使につながりかねないISAFに参加すべきと主張するのはなぜか。基準は「国連決議の有無」だ。給油活動には根拠となる国連決議がないが、国連決議に基づくISAFへの参加は「結果的に武力行使を含んでも憲法に抵触しない」という理屈だ。原理原則は一貫している。ただ、わざわざ危険な任務を志向するところに分かりにくさがあるのも事実だ。

 小沢氏の真意はつかみにくい。法案の国会審議も始まらないタイミングで持論を展開したことには多くの民主議員が首をかしげている。「小沢の純化路線か」。異論を許さない新進党時代の小沢氏を思い起こすベテラン議員もいる。

 一方で小沢氏ならではの深謀遠慮に基づくとのとらえ方がないわけではない。「『政権を取れば』『実現したい』としたのがポイント」とある議員は分析する。確かに直ちに自衛隊をアフガンに送れとは言っていない。給油継続賛成の世論がじわり強まる中、小沢氏の考えを強烈に印象付け「対案なき反対のための反対」との批判をある程度封じることができる。給油以外に国際貢献の選択肢があることに光を当て、改めて現状と憲法との整合性を考えさせる効果もあった。「アドバルーンとしてはよく考えられている」というわけだ。

 しかしこのまま収束させるのは難しそうだ。小沢氏のISAF参加論は党内論議を経ていない。8月のシーファー駐日米大使との会談でも意欲を示していたと言え、文章で明示したのはつい最近のことだ。「(党の政権政策である)マグナカルタ、マニフェスト(政権公約)に沿った考え方を示したものだ」。小沢氏は10日の常任幹事会で説明したが、唐突さは否めない。マグナカルタには、国連平和活動について「国連の要請に基づいて、わが国の主体的判断と民主的統制の下に、積極的に参加する」との記述はある。総論として納得していても、具体的に自衛隊参加の是非を問われれば即断しかねる議員は少なくない。

 今の臨時国会で民主党が対案を示す場合、「参院第一党の責任政党」として実現性を示す必要に迫られる。一方で、小沢氏がここまで持論を打ち上げた以上、ISAF参加を排除できるのかというジレンマも抱え込んだ。「ねじれ国会」での野党共闘にもヒビを入れかねない。既に他の野党からは「自衛隊のISAF参加は憲法に違反し、治安を良くする上でも有害。二重に間違った理論だ」(共産党の志位和夫委員長)、「余分なことに踏み込みすぎている。ISAFは国連軍ではない。それに参加するのはいいと言うのはどうか」(社民党の又市征治幹事長)などの異論が噴出。党内の一部が唱える対案不要論が勢いを得る可能性もある。

 参院選勝利で求心力を高めた小沢氏だが、外交・安保政策は議員らの政治信条にかかわる側面が強く、修復不能な溝をつくる懸念もある。不穏な空気を察してか、ISAFの活動のうち民生部門支援を強調するなど、微妙に軌道を修正し始めたのではないか、との受け止め方が党内に出始めた。「私は変わる」と宣言した通り、党の一体感や野党共闘に配慮して持論を引っ込めるのか、それとも主張を曲げない小沢流を貫くのか。「次期衆院選で政権交代」に政治生命を賭ける小沢氏の真価が問われる。

政治 | 風向計