スーパーのキッチンで就労体験に励む森さん(手前)=福岡市中央区のスーパー「百旬館」
ニート(若年無業者)は全国で62万人(2007年版青少年白書)にのぼり、深刻な社会問題となっている。対策の一環として2006年、全国25カ所に、「若者サポートステーション(サポステ)」が設けられた。このうち福岡県のサポステは8月から、企業の協力による職場体験を通じ職業的自立を促す「JOBトレ」事業を行っている。「働きたいが踏み出せない」。そんな若者の後押しをする取り組みの現場を見た。 (野田正志)
福岡市中央区のスーパー「たべごろ百旬館」の惣菜(そうざい)キッチンで、「研修」の名札を着けた森拓哉さん(26)=仮名=がスタッフから手渡されたトレーを手際良く洗い片付けていた。「あいさつをしっかりすることと遅刻しないことだけは気を付けています」と話す。
大学卒業後も就職せず2年半の間、ニート状態だった。アルバイト情報誌に目は通しても「職場で知らない人と話すことが不安」と面接には踏み切れなかった。今年の夏、年齢的な焦りを感じサポステに登録した。
福岡県のサポステは、就労支援に取り組んでいた特定非営利活動法人(NPO法人)が母体だ。「JOBトレ」には、カウンセラーや臨床心理士の個別面談、グループワーク、就労体験、就労定着支援、家族のためのセミナーなどのプログラムがある。目玉となる就労体験は、企業の協力を得て、スーパーのキッチンの手伝い、荷物発送、営業車の洗車などの業務を10日間前後、体験する。
◇ ◇
8日間の体験を終えた森さんは「初めは不安だったが、温かい職場で働きやすかった。やり遂げることができ自信になった」と話した。「百旬館」の現場担当、田中美弥子さんは「初めはおどおどしている人も、慣れてくるとハキハキしてくる」と参加者の変化を喜ぶ。別人のように声が明るくなる人もいるという。
一方で、途中で辞める人もいる。森さんと同時に就労体験を始めた男性は2日目から姿を見せなくなった。企業側がことさら配慮や準備をするわけではなく、田中さんも「(ニートを想定した)特別なスキルがあるわけではない」と言う。だが、福岡サポステのコンサルタント蓑田清さんは「だからこそ実りある経験になる」と話す。ありのままの職場に触れることが、まず大事なのだ。
◇ ◇
森さんはあらためて百旬館で働くことが決まり、アルバイトとして出勤している。「給料日が楽しみ」と声を弾ませる。「1人で考え込むより誰かに相談するほうがいい。サポステが後押しになった」と振り返る。
「JOBトレ」には現在、16の企業が登録、17人が就労体験を終えた。福岡サポステは、本年度中に50企業、100人の参加を目標にしている。
◇福岡県若者サポートステーション=092(739)3405。最新の職場情報がHP(http://saposute.com/)で確認できる。24日午後2時から福岡市博多区のリバレイン内、人権啓発センター研修室で、ニートの自立を応援する家族のためのセミナーを開く。
=2007/11/02付 西日本新聞朝刊=