えっ? そっくりさんが歌っているの!−。日本のテレビCMに欧米のヒット曲を使う例は珍しくないが最近、高額な楽曲の使用料などを節約するため、そっくりさんに歌わせる例が増えている。もともとは、権利所有者がテレビCMでの楽曲使用を認めないため、困り果てた制作側が編み出した苦肉の策だが、「ものまね文化に寛容ではない欧米に知れ渡ったら、権利所有者から訴えられる恐れがある」と警告する音楽業界関係者も多い。(岡田敏一)
ハリウッド女優キャメロン・ディアスが登場した今夏のソフトバンクの携帯電話のテレビCMのバックで流れていた豪州の女性歌手オリビア・ニュートンジョンのヒット曲「ザナドゥ」(1980年)。
実はこれ、歌っていたのは当人ではなく、そっくりさん。一聴しただけでは分からない見事なオリビアぶりだ。
「楽曲などの権利を持つオリビアらがCMでの使用を拒否した」(業界筋)ため、この楽曲にこだわった制作側が編み出した苦肉の策らしい。歌っている当人がCMに登場するわけではないから声が似ていても“問題”にはならないというわけだ。
これ以外にもサントリーのチューハイ「アワーズ」のテレビCMに使われた英の電気ポップ・デュオ、バグルスの「ラジオ・スターの悲劇」(79年)や、日産の高級ミニバン「エルグランド」の「ゴールドフィンガー」(64年。映画007/ゴールドフィンガーのテーマ曲。オリジナルはシャーリー・バッシー)、森永製菓の「ウイダーinゼリー」で使われた米ロックバンド、ナックの「マイ・シャローナ」(79年)などは、いずれも“そっくりさんバージョン”だ。
これらが増えるのには理由がある。まずオリジナルの使用料などが高額であることだ。
国内外のヒット曲の権利を数多く所有する大手音楽出版社などによると、ビートルズやボブ・ディラン級の大物の楽曲をゴールデンタイムの全国ネットのテレビ番組のCMで使う場合、楽曲を動画に合わせる権利の使用料(シンクロ・フィー)や、原盤・著作権使用料、テレビ局などに支払う放送使用料などで総額約3000万円になることも。
「楽曲にこれだけ払えるのは大手自動車会社くらい」(広告業界関係者)というのが実情だけに、そっくりさんなら安上がりで効果も絶大。