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社説

2007年11月04日(日曜日)付

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耐火偽装―これでは住まいも心配だ

 そこに住む人の命や安全を考えなかったのだろうか。住宅づくりにかかわる会社としては、信じがたい不正である。

 建材メーカー大手の「ニチアス」が、住宅の軒裏やビルの間仕切り壁に使う耐火材の性能をごまかし、国土交通相の認定を不正に受けて出荷していたのだ。

 手口は単純だ。耐火性能の試験を受けるときに、持ち込む試験材にあらかじめ水を含ませるなどして、高い性能があるかのように細工していた。

 大臣認定のお墨つきを早く受け、他社との競争を有利に進めたい。そんな身勝手な理由からだ。

 お墨つきを得るには基準があるのだから、メーカーはそれを満たす製品を開発するよう努力するのが当然だ。技術が足りず、性能の良いものをつくれないからといって、試験で偽装工作を重ねるとは、とんでもないことだ。

 さらに驚くのは、社長ら幹部が昨年の社内調査で不正に気づきながら、そのまま性能の劣る製品を売り続けたことだ。内部告発の動きがあって初めて国交省に報告したというのだから、あきれてしまう。経営者としての資格はない。

 耐火材の性能が悪ければ、火事が起きたときに燃え広がる恐れが増す。木造家屋が密集する地域では、とりわけ危険だ。建物火災で亡くなる人は全国で年に約1500人もいる。

 だからこそ耐火材が必要なのに、こんなごまかしがあるようでは、とても安心して家を買ったり、そこに住んだりすることはできない。

 性能を偽った建材は約10万棟に使われた。このうち少なくとも4万棟は、大臣認定の基準を満たしていないという。

 問題の製品は、どの建物のどの部分に使われたのか。ニチアスは住宅メーカーを通じて確かめる必要がある。建物の持ち主や住人にきちんと説明したうえで、必要な改修を急がなければならない。その費用はすべてニチアスが負担するのは当然のことだ。

 不幸にも、すでに火災が起き、被害をこうむったような物件はないか。そうした調査も欠かせない。場合によっては、警察の捜査も必要になるだろう。

 国交省には、再発防止の手だてが求められる。水を含ませれば合格するような性能試験の進め方は、改めなければならない。偽装がありうるかもしれない、という前提で、どのようにして不正をチェックするか。その方法を早急に考えてもらいたい。

 同じようなごまかしが、ほかのメーカーでもおこなわれていないか。そう思いたくなるほど、企業による不正や偽装が相次いでいる。この際、国交省は他社の製品についても、大臣認定を出した耐火材の性能を確かめ直した方がいい。

 食べものとともに住まいは、人々が安心して暮らすための基盤である。そうした仕事に携わる企業はいっそう責任が重いことを思い起こしてほしい。

米国の利下げ―手詰まり感が強まった

 世界の株価が上下に揺れている。米連邦準備制度理事会(FRB)が、誘導する短期金利を0.25%幅引き下げたのがきっかけだ。

 サブプライムローン(低所得者向けの住宅融資)の焦げ付き増加による金融市場の不安は収まらず、米国の景気全体の減速を心配する見方も強い。そこで9月に続く再利下げをしたわけだが、これで展望が開けたわけではない。むしろ、金融当局の打つ手がなくなってきたことを示すことになった。

 というのも、ニューヨーク先物市場の原油価格が史上最高値を更新するなど、インフレ懸念が高まってきたからだ。今後、住宅不況などから景気が悪くなり、利下げをしたくても、下げればインフレを加速しかねない。こうしたジレンマに陥っているのだ。

 FRBの声明も「成長鈍化のリスクとインフレのリスクは、ほぼ同じ」として、これ以上の利下げには慎重な姿勢を示した。

 金融当局の手だてが限られてきた背景には、モノやサービスに対する需給で動いていく実体経済と、より高い利益を求めて投資資金が世界を回るマネー経済と、両者のバランスが取れなくなっていることがありそうだ。

 たとえば、原油価格がいま高騰している原因は、石油の需要が世界的に高まっていることよりも、米国経済の減速を予測して行き場を失った投資資金が石油などの商品市場に向かっていることの影響の方が大きいといわれる。

 となると、利下げで市場への資金供給が増えれば増えるほど、原油などが高騰し、ますます実体経済に悪影響を及ぼすという悪循環が続くことになる。

 この連鎖を断ち切るには、米国が経済不安を解消させ、世界的な投資資金を吸収するのがいちばんだ。

 米国の今年7〜9月期の国内総生産(GDP)成長率は前期比年率3.9%で、経済の底堅さを示した。しかし、サブプライム問題の震源である住宅投資はこの期に20%も落ち込み、GDP全体を1%強も押し下げる要因になった。今後は経済成長が鈍化してくるだろう。

 米国に期待できないとなると、世界的な投資資金がドル離れを起こして、中国やインドなどの新興経済国や欧州諸国へ向かうかもしれない。これまでのドル安がさらに加速することになる。

 打つ手がなくなっているのは日本の金融当局も同じで、利上げできない状態が続いている。景気が減速する前に超低金利の状態から脱しておこうという日本銀行の方針は、サブプライム問題が引き起こした世界的な金融不安のなかで、阻まれている。さらに、日本の利上げがドルの急落を誘う危険も出てきた。

 米国は景気後退とインフレ、日本は金利の正常化と円高・ドル安。それぞれが相反する二つの課題をにらみながら、難しい経済運営を迫られている。

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