「エチゼンクラゲ」を福井では「エチゼンクラゲ」とストレートには言わない。地元紙などでは「大型クラゲ」と表記し、カッコ付きで「エチゼンクラゲ」と目立たなくしている その海の厄介者、漁師の敵と呼ばれる迷惑ものが北陸に接近中だが、越前・福井では迷惑どころではない。発生するのは東シナ海だ。一九二〇年にたまたま福井県沖を通過中にサンプルをとったことからその名が付いた 学術上の貢献を評価されてもいいほどなのだが、能登半島や富山湾に流れ着くたび蛇蝎(だかつ)のごとく「エチゼン」の名が飛び交い、福井県への風評被害は大きい。地元が率先して「エチゼンクラゲ」の名を駆逐したいのは十分わかる 昔から日本では名前の表記で好悪を示した。例えば、ごみが流れ着く「塵(ちり)浜」は「千里浜」と美しく表記した。逆のケースでは「吉利支丹(キリシタン)」を「切死丹」と書いて弾圧に使った。中身は変わらなくても言葉の力は大きいのである 昨今の偽装問題はその逆で、中身が悪いのに表紙は老舗名や人気商品名のままで売りまくる。言葉の悪用であるが、何事も一度ついた汚名をすすぐのは並大抵のことではない。
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