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07/02/24、07/02/27〜07/03/03 放送 バックナンバー
引きこもりを社会につなぐ! 私はレンタルお姉さん
ゲスト:NPOニュースタート事務局・川上佳美さん

聞き手:阿部成寿アナウンサー
 
『レンタルお姉さん』になる前は高級ラウンジ嬢!
居心地が良すぎると絶対に家の外には出ない
彼らは決して、現状で良いと思ってはいない
暴力行為も『何とかしてくれ!』というサイン
家族だけで問題を解決するのには限界がある!
 仕事もせず教育も職業訓練も受けていないニートと呼ばれる人たち。内閣府の平成17年の調査で、その数は実に85万人に達しています。学校でのいじめが原因で家に5年以上引きこもっていたり、仕事に生きがいを見つけられず就職活動をしないなど理由は様々です。そんな引きこもっているニートの人たちの家を訪問して、自立できるよう応援する活動を続けている人たちがいます。今週はNPO法人ニュースタート事務局の『レンタルお姉さん』、川上佳美さんにお話を伺います。
■『レンタルお姉さん』になる前は高級ラウンジ嬢!

 レンタルお姉さんは、どんな活動をしているんですか?

 「『レンタルお姉さん』というネーミングが、一見風俗っぽい感じに捉えられがちなんですけれども、実際はニートや引きこもりの若者の自宅を定期的に訪問して社会につなげる役目をする人たちのことを、私たちNPO法人ニュースタート事務局では『レンタルお兄さん』、『レンタルお姉さん』と呼んでいます」


 レンタルお兄さんやレンタルお姉さんはどんな時に出動するのですか?

 「まずニートや引きこもりの若者の親御さんからニュースタート事務局に相談の電話が入ります。で、親御さんが事務局のスタッフと面談された後、レンタルお兄さんやお姉さんのサポートが必要な場合や親御さんが希望される場合に、私たちに連絡が入って、レンタルお兄さんやお姉さんの訪問活動がスタートするわけです」


 実際、事務局に相談される家族の皆さんは相当悩んでいますか?

 「そうですね。引きこもって2〜3年の人もいれば、10年、15年、20年の人もいまして、保健所とか役所とか色々な所へ相談しに行って、最後にニュースタート事務局に『どうかお願いします』という例もあります。様々ですけど悩みは深刻ですね。
 私たちニュースタート事務局では、引きこもりは病気ではないという考えで、あくまでも状況、状態ととらえています。そして私たちの定義では『家族以外の人間関係が6ヶ月以上無い状態』を引きこもりとしています」


 家族にも接触しない引きこもりのニートに対して、第三者の立場で接していくのは大変じゃないですか?

 「私は、正直、そんなに戸惑いは無かったんですね。本当に、純粋にこの仕事がしたくて、ニュースタート事務局に来て『レンタルお姉さんがやりたいです!』というノリだったので。逆に最初の訪問がとても楽しみですね。ドキドキ、ワクワクしちゃいますね(笑)」


 元々、川上さんはニート問題に興味があって、現在も活動を続けているのですか?

 「実は、このニュースタート事務局に来る前に、私は広島の会員制ラウンジで接客の仕事をしていたんです。その時にお客さんから『笑顔が良いね』とか『聞き上手だね』とか言われまして、カウンセラー的な仕事のイメージが浮かびました」


 そこで、ニュースタート事務局の門を叩いたわけですね?

 「人を癒すことができるのではないか、何か自分が人の役に立つことがあるのではないかと思いまして」


 レンタルお姉さんになって何年ですか?

 「来月(3月)で丸3年ですね」


 今は何人ぐらいを担当していますか?

 「今は7人ですね。私は東海地方から西の地域を担当しています」

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■居心地が良すぎると絶対に家の外には出ない

 川上さんのこの3年間の活動で印象に残った引きこもりの人は?

 「仙人のような男性ですね。一番インパクトがありましたね。当時、男性は25歳で、引きこもってから7〜8年は経っていました。全く家の外に出ない状況でしたし」


 部屋も真っ暗でじっと中にいる状態ですか?

 「アニメやコンピューターゲームがとても好きだったので、そのアニメを見るためにテレビのある自宅1階のリビングに下りてくることはありました。でも、家族とは何年も会話をしていない状態でした。
 最初は驚きましたね。髪は伸び放題で、髭も伸びていて。お風呂に入って、きれい好きだったので臭いとかは無かったんですけれども。
 私が訪問しても全然反応がなくて、体を揺さぶってもずっとテレビから目を離さないんですね。で、途中で私、腹が立って、テレビの電源を切ったりチャンネルを変えたりしましたけど、それでも動こうとしない状況がずっと続きましたね」


 1回の訪問時間はどのぐらいですか?

 「最初の頃は10分、15分で帰ることもありますけど、訪問の回数を増やしていくと、1時間、2時間という日もあります」


 この男性の状況が変化したきっかけは?

 「男性にとって引きこもっている状態が一番良かったわけです。自分の興味があるゲームソフトが発売されれば、親に『買いに行け』とメモを渡して両親が買いに行くという状況でした。このままでは居心地が良すぎて絶対に家の外には出ないと思ったので、男性の要求する物を私が買いに行ったり、男性が見ていたケーブルテレビの契約を親にお願いして打ち切って見られないようにしたんですね。そうしたら急に怒り出しましたね」


 男性の怒りが全部川上さんの方に向いてきたわけですか?

 「男性の家族に向き始めましたね。自分の部屋に逃げて中に入れないようにドアが開かないようにしたり、壁を穴だらけにしたりとか、そういう反応が出始めたんです。私、その時、すごくラッキーと思いましたね。嬉しかったです」


 普通なら驚いて引いてしまう所で、逆に川上さんは嬉しかったんですか?

 「そうですね」


 結果的に男性はどうなったのですか?

 「男性は、結局、父親と生活するようになりましたね。他の家族は別の場所に住んで。父親と男性の食事は私たちが運びました。
 でも、私たちが作った御飯を男性は食べず、どんどん痩せていきまして、私たちが救急車を呼ばなくてはいけないのではと思い始めた時に、急に料理を作り始めたんです。御飯を炊いて味噌汁を作ったんですね。もう驚きでした。
 で、御飯を作り出す前に、男性は『どんなことがあってもニュースタート事務局の共同生活寮には行かない。この家で生き延びられるだけ生きるんだ』というメモを両親に残していたんです。つまり、私たちと男性とで我慢比べになっていたわけですね。でも、期限を区切って、『迎えに行くよ』と男性に言っていたのに動かないので、結局、車で迎えに行きましたね。私はその場には行けませんでしたけど、事務局のスタッフが1時間余り説得して、ようやく車に乗せることができて寮に連れて来られました。
 今は寮生活を送りながら、レストランやデイサービスで働いているんですよ。で、私、実は男性が車に乗ったという連絡を聞いて涙が出たんですよ。この涙は、レンタルお姉さんをしていないと出せない涙と言うか、嬉し涙だったんですけど、その時は本当に『レンタルお姉さんの活動をしていて無駄じゃなかった。良かったな』と思いましたね」

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■彼らは決して、現状で良いと思ってはいない

 もう1人、引きこもっているニートの人を象徴する例はありませんか?

 「もう1人は15年ほど引きこもっていて、私が担当した当時は27歳でした。両親はいたんですけど、お祖父さん、お祖母さんと一緒に生活していました。家族とは5〜6年間話していなくて、たまに自分が欲しいものがあれば町へ買いに出かけるという生活をしていました。
 私が初めて男性の家を訪問した時、一応は会えたんですけど『帰ってください。どうせ親の依頼で来ているんでしょ。そういうのが嫌なんですよ』って言われました。男性は、ずっと誰とも話をしていない状況だったので、正直時間がかかるだろうなと思いましたね。
 で、男性の両親も『第三者の人と会話ができるようになってくれさえすれば、それだけで良い』という切実な依頼だったんです」


 多くは望まないけれども、という願いですか?

 「ええ。『共同での寮生活なんて、とてもできません。ちょっとでも表情が出て会話ができるようになれば、それで充分です』というものでしたね」


 で、実際はどうだったんですか?

 「私たちの話を、2時間突っ立ったまま聞いてくれたりとか、私たちを拒否する割には、何かコミュニケーションを図ろうとしているなという雰囲気が時々窺えたんですね。
 その時に、『話せないのなら話さなくても良いから、今度私たちが来るまでに、思っていること、伝えたいこと、何でも良いから書いて』と言って紙を渡したんですね。
 そうしたら、2週間後の訪問の時に、紙に自分の生年月日から趣味までが書かれていて、『実は自分は同じような趣味を持つ同年代の人たちと交流したい。でも、どう付き合って良いかわからないから、訪問されて困っています。不安です。でも、ニュースタート事務局がどんなことをしているのか知りたい』という内容が素直に綴られていたんです。
 たった数行だったんですが、1行書くのに1週間、何度も何度も書き直した跡があって。後からわかったことだったんですけど。
 で、この手紙をもらって、『男性は、本当に動き出したいんだ。本当は、どこかで誰かとつながって生きていたいんだ』というのがわかった時、嬉しかったですね」


 男性は、自分と合う趣味の人と交流できるようになったんですか?

 「結局、男性はレストランや保育園で大活躍してくれて、その後は自動車に興味があったので、自動車修理・整備関係に就職したいということで、専門学校に通うということになって寮を卒業しました。今は専門学校に通うための資金をアルバイトで溜めていると聞きました」


 自分のやりがいが見つかって良かったですね。この例は、引きこもり脱却への一筋の光、希望ですか?

 「『嫌だ、嫌だ』と言いながらも決してそうじゃないんだ、現状で良いと思ってはいないんだという気持ちが、彼らの心の中にあるんだと信じて私たちは活動していますね。それが無いと、おそらく活動はできないでしょうね」

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■暴力行為も『何とかしてくれ!』というサイン

 引きこもっているニートの男女比は?

 「全体の9割が男性ですね。男性が圧倒的に多いです。女性も、もっといると思いますけど、どうしても女性は家事手伝いや花嫁修業で表に出ないこともあるんでしょうけど、そんなに問題視されていないように思えます」


 レンタルお兄さん、お姉さんの立場は、ニートとどういう関係であれば良いのですか?

 「私たちは、別に教育者とか資格を持っている人ではないので、人が人として接するという、ただそれだけだと思っているんですね。一方的に何かを教えるとか、導いてあげるとかいうのではなくて。お互い様じゃないですか」


 接していくうちに自分のプライベートを持ち出さなくてはいけない、友達になってしまう時もあると思うんですが?

 「友達にはなれないんですね。私たちは、あくまでも本人の次のステップにつなげるための橋渡し役、きっかけ作りにしかなれないわけで、『友達は、自分が外に出て作るものでしょ』と。
 友達になってしまうと感情移入してしまって、つい、かわいそうだなと思うと、(言うべきことを)言えなくなってしまうので、ある程度ほど良い距離を保った上で、毅然とした態度で淡々と接していくというのがコツじゃないかなと思います。
 恋愛感情を持たれてしまうこともありますけど、そこではきっぱりと『ごめんなさい。そういうことはできないんだよ』と言うと、そこから激しい拒絶が始まって、またゼロからのやり直しに戻ることもあります」


 今まで川上さんは何人のニートの人を担当したのですか?

 「レンタルお姉さんの活動では45人ぐらいですね」


 世代的には10代後半から20代という人たちが多いんですか?

 「私が今までに担当したのは17歳から42歳までですね」


 引きこもっているニートの人たちは何を求めているんですか?

 「そうですね、ある引きこもりの女性が、別のスタッフに言っていた話なんですけど、女性は『最初はニュースタート事務局のスタッフが訪問しても居留守を使っていた。でも、本当は自分1人ではもうどうしようもできなかった。家族にどうして欲しいという期待もできなかった。何とかしなくてはと思ったけど、どうしたら良いかわからなかった。誰かに助けて欲しかった』と話したそうです。
 だから、皆、拒否しながらも100%の拒否ではないんじゃないかなと思っています」


 すべてがNOではなくてYESに近いNOということもある?

 「活動中に、例えばニートの人から暴力行為が出たりしますけれども、その動きは、本人が『何とかしてくれ、助けてくれ』というサインだと思っているんです。『今の俺を何とかしてくれよ、明るい未来をくれよ』みたいな叫びじゃないかなとニュースタート事務局では考えていますね」

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■家族だけで問題を解決するのには限界がある!

 去年、政府が『再チャレンジ支援策』という方針を立てました。ニートの人たちの自立へ活用できますか?

 「再び勝ち組とか、今までの価値観のレールにニートの人たちを乗せようとする再チャレンジなら、ますます追い詰めることになると思いますね。
 そういう上昇志向とか勝ち組から外れた人がニートや引きこもりになっているケースが多いんですけど、ニートや引きこもりの人たちは、他に良い物を持っているんです。だからそれを引き出せる、生かせる場所があれば、もっと伸ばしていけると思います。
 恐らく、物とかお金とかをニートや引きこもりの人は求めているのではないんですね。そうではなくて、人に優しい、思いやりのある社会、スローでも良いじゃないかという社会を求めているのではないかと。勝ち組に行きたい人は行けば良いけど、そこでつまずいた人ももう少し楽に生きられるもう1つの社会を作るべきだと思うんですね。
 今立ち止まって生きているニートの人たちは、何か違うのではないかと思っていると感じます。今の日本の社会はおかしいんじゃないかと。だから、立ち止まっていたり、反発も出てくると思うんですけれども」


 ニートの子どもを持つ親へのメッセージは?

 「子供を育てるのには2人の親では足りないということですね。昔は、地域の人とか周りの大人が自然に面倒を見てくれたりしていたと思いますけど、今は核家族化でしかたがないと言えばそうなんですけど、その核家族も崩壊していて2人の親だけでは子育てができないという考えにニュースタート事務局は立っています。
 『家庭の問題を外に出すのは家の恥だ』とか『他人様に迷惑をかけてはいけない』という考え方を捨ててしまって、『皆、人間はでき損ないではないか。どこか欠陥がある。親もでき損ないで、たまたま育てたら子どもがニートになってしまった』というだけで。
 ですから、家族の中だけでニート、引きこもりの問題を解決するのには限界があると思うんですね。『もうこれ以上向き合っても仕方がない』というのがわかっているのであれば、早めに第三者を頼る、相談を持ちかけるということをしないと。いつまでも家族だけで向き合っていたら、家族が皆、引きこもって、親や兄弟が殺されたりという事件がこれから将来的に続発していくと思うので、気付いて欲しいなと思いますね。家族には限界がある、親にできることにも限界があるという所に立って欲しいと思います」

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