天高く馬肥ゆる秋―。腹回りが気になるメタボリックなわが身だけに、暴飲暴食にはご用心。せめて心にたっぷり栄養をというわけで、“芸術の秋”を満喫したい。本紙備後面と井笠面に今、両地域の特色ある美術館を紹介する企画「美の散策」を連載している。
秋晴れのある日、圓鍔(えんつば)記念館(尾道市御調町)を訪ねた。同地区出身の彫刻家圓鍔勝三氏(一九〇五〜二〇〇三年)の木彫やブロンズなど八百四十点を収蔵。文化勲章受章(八八年)を機に、旧御調町が九三年、館周辺の公園などと一緒に整備した。
絵画に比べ、彫刻を見る機会は少ないだけに、その迫力に圧倒された。作品はまさに生命を宿しているようだ。ブロンズ、石こう、大理石…それぞれ味わいがあるが、木彫は独特の質感があり、迫ってくるものがあった。小品には無邪気な遊び心がちりばめられ、圓鍔氏の優しい人柄がにじみ出ているように感じた。
平櫛田中、小野竹喬、平山郁夫の各氏ら、わが国を代表する画家や彫刻家を輩出してきた備後、井笠地域。あらためて見てみると、その名前を冠した美術館が多いのに驚く。郷土の偉人を誇りに思い、顕彰しようという住民の熱い心が伝わってくる。
ほかに、イタリアの近現代アートが充実したふくやま美術館(福山市)、貴重な書画や文具を収めるふくやま書道美術館(同)など個性的な施設がめじろ押し。「文化不毛の地」などと自虐的に言うが、まんざらそうでもない。秋の一日、ゆったり芸術に浸るのも楽しい。
(福山支社・鳥越聖寿)