本紙が県警本部捜査一課の捜査費虚偽請求問題を報じた15年7月23日朝。取材班はいつも通り県警本部に出向いた。庁舎1階東端の記者室に入ると、珍しく誰もいない。
県警トップの本部長室やナンバー2の警務部長室がある4階。記者たちはそこにいた。鈴木信弘警務部長(当時)の部屋が会見場と化していた。取り囲んでいるのは十数人の記者。本紙の報道についてコメントを求めていた。
■「捜査に支障」
「高知新聞の記事は本当か」「県警の見解は」
記者が鈴木部長に矢継ぎ早に質問している。鈴木部長は「捜査費をはじめとする予算は適正に執行されている」という言葉を繰り返した。それで記者が納得するはずもない。
さらに詰め寄る記者に鈴木部長は「報道は事実ではない」と本紙の報道を完全否定。その理由については「取材の根拠が明らかでない。捜査一課の担当者に確認したところ問題はなかった」と述べた。
それを聞いた全国紙の記者が「高知新聞の記事に抗議はしないのか」と強い口調で迫ったが、鈴木部長は「捜査費の性質上、具体的な事実を指摘して抗議することは困難だ」と釈明。理由は「捜査に支障を来すからだ。現時点ではこれ以上の調査の必要はない」と会見を打ち切った。
以後、今日まで県警はこのスタンスを崩していない。「捜査上の秘密」を盾に、一貫して本紙報道を否定し続けている。
■攻撃と励まし
県警幹部が取材班に予告した「記事を出したら敵」の言葉はこの日を境に現実となった。事件取材のため部屋に入ると、「高知新聞だけには言わん」「出て行け」と怒鳴る幹部。
それだけではない。報道対象となった捜査一課を皮切りに、県警本部では一部、また一部と高知新聞が姿を消していった。取材拒否の次は新聞不買だった。その動きは県警本部にとどまらなかった。高知署では幹部が交番にまで「高知新聞を取るな」と指示した。
あまりのひょう変に、報道対応を担当する県警本部の部署が、「報道各社には公平に対応するように」と県内各署に指示を出したこともあった。
そんな中での救いは現場の警察官の声だった。それまで話したこともなかった捜査員に「おまえらの方が正しい。幹部が間違っている。遠慮せんと書け」と励まされた。
声を掛けるのは、県警本部の廊下で擦れ違いざまだったり、トイレの中だったり。幹部の目を気にしながらも、その気持ちがうれしかった。
「高知新聞が報道した後も、幹部が『(偽造書類を)書いてくれ』と持ってきた。県警がしていることといえば、『誰が高新に協力しているのか』という犯人捜しばかりだ。幹部は何も反省していない」と、匿名ながら電話で訴えてきた捜査員もいた。
疑惑を真っ向から否定する幹部。幹部の態度に憤る現場。警察という絶対的な階級社会の中で、たとえ小さな声でも取材班は現場の声を信じた。それは今でも変わらない。
【写真説明】県警本部1階の記者室(高知市丸ノ内2丁目)
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