海上自衛隊がインド洋で約六年間、米軍などの艦隊へ給油活動を続ける根拠となったテロ対策特別措置法が一日、期限切れを迎えた。
政府が給油活動継続のため今国会に提案している新法案は、民主党など野党の反対で成立の目途が立っていないため、補給艦と護衛艦は帰国の途につく。日本が国際社会の一員としてテロ対策にかかわるのは当然のことだが、関与の仕方はどうあるべきか。これを機に与野党は議論を深めなければならない。
テロ特措法は二〇〇一年九月の米中枢同時テロを受け、アフガニスタンでの米英軍などの軍事行動を後方支援するため当時の小泉純一郎首相が主導、成立した。二年間の時限立法で政府はこれまで三回延長したが、今年七月の参院選で「ねじれ国会」に突入したことで四度目を断念、活動内容を給油・給水に限定した新法案を提出した。
この間の派遣自衛隊員は延べ約一万一千人で、米英仏パキスタンなど十一カ国の艦船に七百七十七回、四十八万四千キロリットル(八月末まで)を給油した。海自撤退の影響について高村正彦外相が「テロとの戦いで消極姿勢に転換したと受け止められる」と懸念するのもうなずけよう。
しかし、アフガンにカルザイ政権はできたものの旧政権タリバンによる自爆テロなどで、国連によると今年の犠牲者は既に千二百人を超えている。日本の給油活動がテロ根絶に役立っているといえるのか。検証が必要だろう。
海自補給艦が米補給艦へ提供した燃料がイラク戦争に転用されたのではないかという疑惑の発生、海上幕僚監部の給油量の転記ミスやその隠ぺい、航海日誌の破棄まであった。文民統制(シビリアンコントロール)が保たれているのかと疑念が増す中、守屋武昌前防衛事務次官の業者との癒着も加わってきた。新法案審議の入り口で不祥事を連発する政府の責任はまことに大きいと言わねばならない。一方、給油継続を否定しながら「対案」が打ち出せない民主党の姿勢も問題だろう。
ねじれ国会から与野党の議論はこう着状態に陥っていたが福田康夫首相の呼び掛けで小沢一郎民主党代表との初の党首会談が十月三十日に、そして二日も開催の予定だ。密室政治で国民を蚊帳の外に置くことは許されないが、両トップが胸襟を開いて混迷を打破する糸口をつかむことは重要だろう。真にアフガン国民に役立つのは給油再開か、民生支援か。日米同盟の将来像、国連中心主義の在り方についても七日予定の党首討論で堂々と論じ合うべきだ。
年金記録不備問題に関し原因や責任の所在を解明する総務省の「年金記録問題検証委員会」が最終報告書をまとめ、増田寛也総務相に提出した。
記録管理の「使命感、責任感が決定的に欠如」と厚生労働省と社会保険庁を批判し、この姿勢が適切に記録を訂正する作業を怠る結果を招いたとした。さらに、待遇改善の追求に偏り過ぎた労組の姿勢、身分は国家公務員、業務監督権は都道府県知事というかつての地方事務官制度による管理の不十分さなどを背景要因に挙げた。
責任については業務を統括してきた歴代社保庁長官や幹部が「最も重い」とし、厚生相、厚労相の責任も認めたが、個人の責任問題は追及しなかった。手を緩めた感は否めず納得できない。
検証委は、宙に浮いた五千万件の中から無作為抽出した記録を住民基本台帳ネットワークのデータと照合するサンプル調査も行い、コンピューターへの入力ミスや婚姻による氏名変更など、持ち主の特定が難航しそうな記録が38・5%に上ると分析した。
また、持ち主が生きており特定できそうな記録が33・6%に達することも分かった。問題発覚の当初、「大半は給付につながらない死亡者らの記録」としていた社保庁の説明は明確に否定された。
生きており、しかも年金受給世代とほぼ重なる六十歳以上の記録がサンプル全体の約一割あった。五千万件に当てはめれば五百万件程度も受給世代の高齢者が記録漏れになっている恐れがある。
「最後の一人まで」というのが政府の公約である。必要ならば担当者の増員なども行い、社保庁、厚労省は責任を持って徹底的に照合しなければならない。
(2007年11月2日掲載)