民主党の小沢一郎代表は福田康夫首相の連立協議打診に対し、その場では断らずに持ち帰り、党役員会でも大連立に前向きな発言をした。政権交代を掲げて戦った参院選はわずか3カ月余前。その後も早期の衆院解散・総選挙を求めていただけに無原則な路線転換にも映る。他の党役員に否定されたことで求心力の低下は必至。さらに、他の野党からは「民意の無視」という声が出ており、世論の批判も受けることになりそうだ。
「連立協議を受けたかったに違いない。政権の中に入って意思を通す。かつての自自公連立の時と同じ発想だ」。小沢氏の側近議員は2日夜、こう明かした。
小沢氏には次の勝負は「最後の戦い」という思いが強い。1回きりの最後の機会を次期衆院選という民意にゆだねるよりも、密室での合意によって政権にたどりつくという道を選んだ--という解説だ。
確かに、これまで反対を貫いてきた新テロ特別措置法案にしても、恒久法を議論することと引き換えに協力する姿勢を見せた。インド洋での海上自衛隊による給油活動は憲法違反だという原則論を捨ててでも、長年の持論を通したい思いが浮かび上がる。
また、大連立に前向きな姿勢を見せたのは、農村部の多い地方行脚を始めている衆院選対策とも矛盾する。毎日新聞の世論調査では、次期衆院選で「民主党に勝ってほしい」人は「自民党に勝ってほしい」人を常に上回っており、こうした世論へのある種の「裏切り」と受け取られる可能性がある。そもそも現在の小選挙区制の下で大連立を成立させるには候補者調整などハードルが高い。
民主党内は小沢氏の個々の方針に不満はあっても、政権交代を目指すという信念に足並みをそろえてきた。それが今回の振る舞いによって瓦解する可能性もある。
小沢氏と距離を置く仙谷由人元政調会長は「こんな裏表のある人が今の政治で通用するか、はなはだ疑問だ」と批判。小沢氏に近い党幹部も「小沢さんはもしかしたら代表を辞めるかもしれない」と指摘した。
党役員会は厳しい雰囲気に包まれた。小沢氏は「まじめに話を受けたので持ち帰った」と切り出したが、「国民の期待を裏切る」という意見が相次ぎ、15人の出席者のうち、連立協議開始への賛成は1人もいなかった。【須藤孝】
毎日新聞 2007年11月3日 0時00分 (最終更新時間 11月3日 1時22分)