愛幻通信
illustrated by カシマミ
映画監督・山本清史のぶっちゃけ生活
映画やアニメの著作権について考えてみましょうよ
2007年10月28日
海賊版撲滅キャンペーンが長らく実施されているけれども、youtubeやニコニコ動画にアップされる商品は後を絶たないし、アジア各国で海賊版が制作され流通している現状をどうにかならないのかと考える向きは多いと思うが、実のところぼくのような作家にできることはなんなのだろうかと考えていたところへ、このようなブログがあった。
http://blog.manga-yomouze.com/archives/64832533.html
これの元になった記事は、コレである。
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20071026_anime_nicovideo/
さて、映画もアニメも、脚本家をはじめとした監督、俳優などの人間が作り上げているワケなんだが、これを著作者というけれども、こういった著作物の権利者は、実際のところこうした著作者ではなく、著作物の製作者にあることを忘れてはならない。
製作者とは、映画で云えば出資をした製作委員会など製作会社(≠制作会社)が持っているのであって、作品をどのように売るかは、彼らが全権を持っている。
勿論、著作者(この場合、下請けの制作会社や監督)に何も権利がないわけではない。著作隣接権と著作者人格権は持っているから、二次使用料の請求や受領はできる。
何がいいたいかおわかりだろうか?
つまりここで問題となっている著作権の侵害──youtubeやニコニコ動画といった無料アップローダーで起きている侵害──は、厳密に云えば著作者の権利が侵害されているのではなく、出資した製作会社の権利が侵害されていることを明記しなければならない。
著作者に主張できるのは、こうした無料アップローダーに使用された自作に自分の名前が明記されているかどうかや、自分の作品であることが明示されているかどうか、同時に、こうした無料アップローダーに使用されたことに対する二次使用料の請求権を有するに止まるだろう。
勿論この場合の請求は著作権を有する製作会社に行われるのであって、ぼくたち作家がyoutubeやニコニコ動画を非難する謂われも必要も全くないのだ。
大体、もの作りの観点からして考えれば、公開の場が増えることは好ましいことなのであって、問題があるとすれば、公開されているのにお金が儲からない、という事実であろう。
これはだれに問題があるかといえば、youtubeやニコニコ動画ではない。
云うなれば彼らは、テレビや映画館と同じ、メディアの提供者に過ぎない。問題なのは、そうした新しいメディアに対応できない著作権者=製作会社であって、そこから利益を生み出せないストレスを著作権の侵害といって騒いでいるだけぢゃないのかとぼくは思う。
考えてみて欲しい。
最初にテレビが登場したときはどうだったろうか。
シナリオ作家協会をはじめとした制作者の組合では
ATP
というテレビ制作会社連盟と協議し、脚本料などの基準を設けているが、これもまだ現在進行形である。
いや、いまだに、というべきか。
最初に映画しかなかった時代から考えれば、テレビは新しいメディアであるが、実際のところ今やテレビは新しくも何ともない。ネット動画やDVDといったもののほうが断然新しいわけだが、当然こうしたメディアに対する協議も進行中であるし、実のところネットに対しては基準すら決まっていない。
簡単に云えば、世の中の流れに対応できていない。
そう考えていくと、この記事にあるような話は少しピントがずれている気がする。
そもそも権利というものは闘って勝ち取るものである以上は、単に侵害と恫喝してもいられないはずだし、youtubeやニコニコ動画は、明らかにシステムとして優れていて面白い可能性を秘めたメディアであると認めているのだから、作家としては、有名無名を問わず歓迎すべきのはずだ。実際こうしたメディアの登場により、優れた作家たちが現れていることも事実である。
こうした問題を考えるにあたっては、丸山眞男の
「『であること』と『する』こと」
を勧める。決して難しい本ではなく、中学校の教科書に載っているくらい平易な文章で書かれている評論だ。
これを読めば、権利とは主張してこそ意味があることは明白である。非難すべきは権利の上に胡座をかいている製作会社等、ラインセンスホルダーの方なのだ。
するとこの記事のアニメーターがすべきだったのは、新しいメディアを提供するyoutubeやニコニコ動画を非難することではなく、製作会社に二次使用料を請求するか、二次使用されているのに収益を得ようとしない製作会社を訴えるか、あるいはyoutubeやニコニコ動画に著作者人格権を主張することではないかと思う。
勿論、アニメーター自身が主張をし、問題提起するという行為は、作家としてまことに正しい。
だがユーザーを犯罪者呼ばわりするためには、出資行為をして、製作者でいなければならないはずだが、その点はどうなのだろうか。
実はこの点こそが、映画などの著作物を考える上で最大の問題点なのだ。
映画の真の著作権者は誰かということを問うために、先年、日本映画監督協会が「映画監督ってなんだ!」という映画を制作したが、これは映画監督に著作権がないということを明確に示した映画なのだそうだ(未見)。
詳しくは
監督協会のサイト
を観ていただきたいが、まあ読めばわかるが、ちょっと待て、と。
監督に権利を取り戻したいのは分かるけれど、じゃあ脚本家はどうなのかと。
映画は脚本が命と云いながら、脚本家の権利について触れられていないのは問題でしょう。
考えてみれば脚本は文芸作品とも云えるワケなので、そうなると脚本の権利者は脚本家であって、例えばその脚本を映画にする場合、監督はおろか、製作会社もまた、その脚本に対して下位にあるとも云える。
しかし実際は脚本家にも著作隣接権と著作者人格権があるだけ。
その上、現場判断や編集といった現象によって、著作者人格権の根幹である「同一性の保持」(著作物及びその題号につき意に反して変更、切除その他の改変を禁止することができる権利のことをいう(著作権法20条1項))も簡単に侵害されている。
海賊版を問題視するのは当然だし、youtubeやニコニコ動画に危機を抱くのもわかるが……この問題の根は、とても深い。
で。
最後にちょっとだけ批判をすると、このアニメーターの云っていることは、かなり危ない。
どう思いますか?
「特典映像」がアップされていることを非難するなんてナンセンスではないでしょうか?
特典映像はオマケなんだから、オマケをどうのこうのされて怒るのは、その心の奥に「オマケによって商品が売れればいいのに」とか「商品が売れてくれないと困る」という考え方があるからだと思うんですよね。
商品が売れて欲しいのか、本編を見てもらいたいのか、その見え隠れする本音が、映像業界の病巣を表している気がします。
手段と目的が入れ替わっている。
作家として世の中に主張するのも大切ですが、最も大事なことは、買いたいと思えるコンテンツを制作することではないですか?
ネットで観ればいいや、と思えるような作品なら、ネットに流通するのは当たり前でしょう。
ぼくは常々、100年後にも残るような映画を、と訴えていますが、要するにそういうことです。
「これはちゃんと観ときたいな」と思えれば、レンタルなりセルなりに手を出してくれると信じるしかないと思いますが、どうでしょうか。
<10/30追記>
指摘された
のですが、この記事で書いたアニメーターはプロデューサーの立場(製作者)だったんですね。
誤解していました。
しかし記事はこのまま残しておくことにします。
それは制作者の立場から現行の著作権法、特に映画に於ける著作権の問題を考えていきたいのと、こうした著作権法が当たり前のものと思っている製作者たちに問題提起したいという思いが生まれたからです。
この人がプロデューサーとして著作権侵害に憤るのは当然でしょう。
しかし記事でも書いたように、それを守るのは、権利者である製作者の仕事です。
ニコニコが違法アップロードを取り締まるソフトを提供しているなら、夜中も仕事をすれば良いんですよ。
メディア側の問題にしている時点で、権利を甘く見ていると思われても仕方がないんじゃないでしょうか。
ピンチはチャンスとも云いますし、前例のないことを危機と見るか好機と見るかで、プロデューサーとしての器が決まってくるはずです。
ぼくの基本的な考え方としては「コピーはオリジナルを超えられない」です。それは人間も物も同じだと思うんですよ。
大体DVDにしたってテレビ放送にしたって、オリジナルフィルムからコピーしたものです。そこにライセンスがあるかどうかが問題なだけで、制作者にとってオリジナルがコピーされることは、実は日常茶飯事なのですね。
youtubeやニコニコを使ったコンテンツビジネスモデルが構築できれば、誰もそんなこと問題にしなくなるんじゃないでしょうか。
そういう意味では海賊版DVDの方がよっぽど深刻です。
日本だけでなく、世界の観客との共犯関係、信頼関係が求められていると感じています。
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山本清史(やまもときよし)
1978年8月14日、東京都八丈島生まれ。幼少期をマレーシアペナン島で過ごし、帰国。
代表作は「リング」「仄暗い水の底から」で知られる、角川ホラー文庫原作の「水霊 ミズチ」(主演:井川遥、渡部篤郎)である。
他、テレビ東京系深夜ドラマ「心霊探偵 八雲」「のぞき屋」など。
<テクノラティプロフィール>
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