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2007年11月02日(金曜日)付

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年金検証委―どの長官の責任なのか

 なぜ年金記録は宙に浮いたのか。その責任はだれにあるのか。総務省に置かれた年金記録問題検証委員会の報告書がまとまった。

 厚生労働省や社会保険庁は、年金記録を正確に作成し、保管・管理するという組織の使命感、責任感が決定的に欠けていた。報告書はそう指摘する。

 では、その責任はどこにあったのか。この点になると、報告書はとたんに歯切れが悪くなる。

 検証委員会は、記録管理にかかわった全職員の反省を求め、その上で歴代の長官ら社保庁幹部の責任が最も重いと指摘した。さらに歴代の厚労事務次官ら幹部、さらに厚労相の責任も挙げた。

 しかし、だれにどんな責任があるかについては一切触れられていない。名前も挙げずに歴代の長官、事務次官、大臣のすべてに責任があるというのは、逆に個々の責任を不問に付すことになる。

 安倍前首相は「歴代長官の責任を明らかにする」と明言していた。

 ところが、驚いたことに、委員会が事情を聴いたのは3人だけだ。年金記録のオンライン化が始まってからだけでも、長官は十数人を数える。聴取を拒んだ元長官もいるというが、相手が話したがらないからといって、そのまま引き下がったのでは、調査にならない。

 委員会は「自分たちには強制力がない」と言いたいのかもしれない。しかし、これは政府が元職員の責任を追及する調査である。やろうと思えば、いくらでも手はあったはずだ。どうしても聴取を拒む人がいるというのなら、だれが拒否したのかぐらいは公表すべきだ。

 福田首相は改めて歴代の長官からの聴取をさせ、責任の所在を明らかにすべきだ。そうしなければ、参院選の前に設置された委員会は批判をかわすための道具だったと言われても仕方があるまい。

 政府がこれで幕を引くというのなら、国会の出番だろう。

 検証委員会は歴代の大臣には聴取すら求めていない。これも納得できない。

 歴代の大臣は政治責任をどう考えているのか。とりわけ菅直人、小泉純一郎両氏に聞きたい。年金記録が宙に浮くきっかけとなった基礎年金番号による管理を始めた前後に大臣だったからだ。

 過去の責任追及とともに、過ちを繰り返さない仕組みづくりも大切だ。

 不祥事の背景には、社保庁が厚労省のキャリア、本庁採用の職員、各県採用の職員と「三層構造」になり、連携を欠いたことがある。それが報告書の指摘だ。

 ところが、3年後には社保庁は解体される。厚労省が全体の責任を負い、実務は非公務員型の公法人が受け持ち、業務の大半は民間に委託される。新しい「三層構造」が生まれるわけだ。

 これでは再び年金記録が宙に浮く心配が消えない。政府は社保庁の解体を進めるというのなら、不祥事の再発を防ぐ方策をきちんと示さなければならない。

国会同意人事―報道の自由を侵すな

 人事案が事前に漏れたら、その人は受け付けない。国会の同意が法律で義務づけられている政府の人事について、衆参両院の議院運営委員長がこんな合意文を交わした。

 日銀総裁や国家公安委員、さまざまな政府審議会の委員などの人事は、政府が選んだ人物に対し、衆参両院が多数決で同意しなければ正式に発令できない。それだけ、政治的に重いポストだということだろう。

 与党が両院で過半数を占めていれば、大きな問題になることはない。だが、参院の主導権を民主党が握ったため、野党が反対すれば人事が流れてしまう事態になった。

 混乱を避けようと、両院の議院運営委員長が基本的なルールを話し合い、合意に達した。以前のように、与党だけが事前に政府から人事案の説明を受けるのはやめ、与野党一緒に聞こうというのがポイントだ。

 問題は、この説明の前に人事案が報道されてしまった場合について「原則として当該者の提示は受け付けない」とした点だ。字義通りに読めば、政府は別の人に差し替えない限り、国会の同意は得られないことになる。

 これはおかしな話だ。国会はその人物の適格性について判断することを求められているのであって、事前報道があったかどうかは何の関係もない。

 メディアが人事を報道するのは、それが国民の知る権利に応えるものだからだ。たとえば、政府はだれを日銀総裁にあてようとしているのか、その人物は金融政策のかじ取り役にふさわしいか、政権の恣意(しい)的な思惑はないか、判断材料を提供しなければならない。

 時に人事報道の過熱があるのは否定しない。メディアが自戒すべきことだ。だが、国会が「新聞辞令が出たら、その人事は認めない」というのは、自由な報道に対する許されない干渉だ。国民の知る権利を制限することにもなりかねない。

 直ちに削除するよう求める。

 この点で最も強硬だったのは民主党の西岡武夫・参院議運委員長と言われる。

 西岡氏の理屈はこうだ。政府が案を意図的に漏らして報道されれば、世間は既成事実と受け止める。それでは国会同意が形骸(けいがい)化してしまう。

 これもいただけない。形骸化というのは、まともな吟味もしないままに同意の議決だけが進んでしまうことだろう。とりわけ参院で多数を握る民主党がその気になれば、いくらでも実質的な審議は可能なはずだ。国会の存在意義を自らおとしめる理屈ではないか。

 事前報道にこだわるよりも、その人物がポストにふさわしい識見の持ち主かどうか、様々な観点から吟味する審議ルールを考えたほうがよほど建設的だ。

 衆参で多数派がねじれた国会の審議ルールづくりは必要だが、こんな合意は願い下げである。

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