近く米国でヒトラーの地球儀が競売にかけられるという。チャプリンがヒトラーをやゆした映画「独裁者」で地球儀は世界征服の野望の象徴として描かれた。
ヒトラーの野望が奪ったものは多い。中でも民族浄化はおぞましい。ユダヤ人を迫害し、犠牲者は約六百万人、うち約百五十万人が子どもとされる。福山市内に十月初めにオープンした新ホロコースト記念館は、その悲劇を伝え平和の尊さを訴える。
「アンネの日記」の著者アンネ・フランクの父親と親交があった館長の大塚信牧師は、アンネ没後五十年の一九九五年に記念館を開設した。しかし、手狭となったため全面移転し内容を充実した。
二階建ての館内にはアンネの日記の精巧な複製をはじめ、ユダヤ人犠牲者の遺品、写真など約三百点が展示してある。隠れ家のアンネの部屋も設けられた。壁の汚れや机などを忠実に再現し、日記に向かうアンネの姿が目に浮かぶようだ。
収容所で亡くなった子どもの小さな靴下や、すごろく風のユダヤ人追放ゲームに胸が痛む。「迫害はナチスだけでなく差別や無関心、傍観がもたらしたものでもある。自らに引き寄せ考えてほしい」との大塚館長の言葉が重い。
新館は、光を希望の象徴とした大胆な採光が特徴だ。プラスチックの筒の中では、犠牲となった子どもと同数の色とりどりのビーズが、光を受け輝いていた。