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未上場株式相続の「タワケ」

2007年11月01日

 相続税とは、親の残した財産を相続するときにかかる税金である。親が働いてたくさんの税金を払った残りを節約してつくった資産である。そういう意味では二度目の課税となる。それでも、土地建物と言った不動産、上場企業の株式や債券、銀行預金など換金可能な資産の相続なら換金後に納税することはできる。

 だが、中小企業の後継者には、未上場企業株式の相続による納税が重大な責任と義務となっている。相続税の目的は、富の再配分による貧富の差の拡大防止とされる。しかし、未上場企業の株式の相続は財産の相続というよりは事業の継承だ。

 換金できない自社株に誰も買わない高額な株価を設定し、これに税がかかる。だが、後継者には支払い可能な資金はない。未上場株の換金は不可能だからだ。このため兄弟で平等に分割継承された株式では事業を継承した人が債務者、株式のみを相続し経営に参加しない人が債権者という妙な関係になってしまう。

 親から継承した小さな田圃(でんぽ)を兄弟で平等に分け合うことを、「タワケ」と言う。尾張地方の方言で、「馬鹿」という意味だ。事業継承遺産を均等に分けた結果、全員が食っていけなくなる、ということへの皮肉である。

 有能な経営者が相続対策という非生産的な仕事に貴重な時間を割き力を注ぐ。これは国家的損失だ。現在オーストラリアには相続税はなく、米国も10年にはなくなると聞いている。

 業績を上げ、長年にわたり納税を行い、無駄遣いをせず内部留保を高めた優良企業。そんな企業の株式評価は高く、事業継承時に多額の相続税が発生する。これでは優秀な中小企業経営者ほど最後に「罰金」を課せられるようなものだ。農業の後継者と同じく、未上場企業に事業継承の特例を設けるべきだ。さもないと、いずれこの国から、中小企業が姿を消すことになってしまう。(樹)

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