電気を空中で送る新技術“Witricity” |
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今年6月、マサチューセッツ工科大学(MIT)が1.8m離れた電球をワイヤレスで点灯させることに成功した。電源コードを不要とするまったく新しいテクノロジーが誕生したのだ。これは不遇な天才であり、交流電流を発見した科学者ニコラ・テスラが夢見た無線電力伝送ネットワークが実現する、その先触れかもしれない。
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ワイヤレスで電力を供給する? |
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離れたところにワイヤレスで電気を送る方法がなかったわけではない。宇宙に太陽電池を浮かべ、そこからマイクロ波に転換した電力を地球に届けるという、「マイクロ波発電」と呼ばれる宇宙発電のプランは70年代からあった。同じくマイクロ波を飛行中の航空機のエネルギー源としようとするプランもある。
この技術、日本ではMILAX(MIcrowave Lifted Airplane eXperiment)と名づけられ、模型飛行機での実験が成功している。これは人工衛星ではなく、高高度を飛ぶ無人機を衛星の代わりにすることで、通信出力を抑えようという成層圏無線中継機システムの基本技術となる。レーザー光に転換した電力を宇宙船に供給する、電気自動車へ電力を供給するなどさまざまな可能性が検討されてきた。
今回、MITが発明した技術はマイクロ波発電ではない。マイクロ波発電の場合、電力は極超短波に変換されるため、遠くまで届かせることはできるが指向性が非常に高い。SF映画のビーム兵器みたいなもので、射線上の生き物には強い影響がある。また高い電力を送るには出力を上げなければならず、マイクロ波への変換時にロスする電力も大きい。供給側と受給側には精度の高いトラッキングの仕組みが必要だ。とてもじゃないが、日常生活で携帯電話の充電に使えるようなものではないのだ。
MITで“Witricity”(ワイヤー+エレクトリシティの造語)と名づけられた技術は磁気の共鳴を利用する。磁気的に同じ共鳴周波数を持つ物体間では、効率よくエネルギーが交換される。電力の供給側と受給側が同じMHz数で共鳴するなら、供給側の電力は受給側で受信される。供給側からは無指向性の電力の波が広がっているので、有効範囲内であればどこでも電力の供給を受けることができる。エネルギー効率は40%程度で、今回の実験結果からノートパソコン程度の充電は可能だと結論している。
音と電磁波という違いはあるが、これは音叉(おんさ)と同じだ。同じ音叉を離しておき、片方を鳴らすと片方も共鳴を起こして鳴り始める。音叉は同じもの同士しか共鳴しない。サイズの違う音叉を置いても音は鳴らない。同様に同じ共鳴周波数でのみ電力のやり取りが行われるので、人体への影響は相当に小さい。マイクロ波のように人体を燃やしてしまうようなことは起きない。もっとも、人体の共鳴周波数に合わせて発信すれば、電磁波を受信した人体には高圧電流が発生するから、新たなミステリーのネタに使えるかもしれない。
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もうコードはいらない!天才が描いた未来 |
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同様のシステムを先立つこと約100年前に考えた人がいる。エジソンと同世代の天才科学者、ニコラ・テスラだ。テスラは地球全体を無線伝送ネットワークで結び、どこでも自由に電力が供給される電力網=ワールドシステムを考えていた。
あまりに斬新なテスラの考えは理解されることなく、無線電力伝送のための試験用鉄塔も途中で頓挫、パトロンも離れてしまい、不遇な晩年を送る。テスラのワールドシステムは技術上の詳細が判明せず、テスラの言う電力伝送が実際に可能だったのかどうか不明なままに技術が失われてしまった。今回の原理がワールドシステムと同じなら、テスラの未来を先取りする卓越した能力が証明されたことになる。
コードレス電話のように家の中のすべてのコードがなくなり、モバイル機器が常時給電される、あるいは電力の供給にスタンドに寄る必要がない電気自動車、コードの制約から解放された照明器具、完全なフリーレイアウトが可能になる工場など可能性はいろいろ考えられる。実用化にはまだ時間がかかるだろうが、非常に原理がシンプルなだけに次世代の新技術として強く期待したい。時代を変える基幹技術はいつもとてもシンプルなものだからだ。
元祖バーチャルアイドル、伊達杏子も、今夏、リニューアルして仮想世界SecondLifeに復活した。バーチャルアイドルの新時代到来かもしれない。
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