・新潟県内映画ロケ大全
2004.2.14-15開催
要 旨
(1)地域参画型FCとは
えひめFCは愛媛県全域をカバー。2003年度予算は790万円、担当職員は4人で、うち1人が専従。02年7月に活動をスタートした。FCは大きく「行政型」と「NPO型」に分けられ、日本のFCは行政型が多いが、愛媛県では行政型の「えひめFC」とNPO型の「アジア・フィルム・ネットワーク(AFN)」ががっぷり組んで支援を行うスタイルを当初から貫いている。 行政の理解度や地域の理解度が浅い場合は、FCとは名ばかりの存在になってしまう。一般的なのは「行政主導型FC」か「NPO主導型のFC」。行政は公平・平等の立場から撮影環境の整備や行政各署との連携が得意。NPOは市民活動を通した地域力を生かした支援が得意。しかしときどき社会的信頼が浅いときがある。 地域参画型はこの2つのいいところをうまく組み合わせたもの。互いの得意分野を、協働という形で生かしあう活動を愛媛では続けている。 えひめFCは制作関係者との連絡調整や、市町村や警察、消防などで連絡会をつくり、情報の共有をしている。 しかし撮影では個人や県内外のNPOとの調整は絶対に必要となる。民間企業や各種団体との協力体制の確立も重要で、この分野はAFNの出番となる。 結果として撮影相談から現場支援、そしてNPOは上映相談まで包括的な体制での映画・映像支援が可能になる。制作側へは頼りになる撮影環境の提供につながり、県民には地域の魅力再発見や再評価の機会を創出している。
(2)求められる撮影地とは
撮影支援の際、地元には「このように地域が潤う」と説明し理解と協力を得ている。例えば宿泊は1人5000円、朝飲食は1人600円とか、コンビニなどでの嗜好品の購入は結構あるとか。さらに映画の場合「一般公開期間は鑑賞者が観光者となって地域に訪れる機会が増えます」「ビデオやDVD発売時にはレンタルなどでさらに多くの鑑賞者を得ることができます」「さらにその後は、作品を素材とした様々な可能性が生まれます」と撮影のメリットを説明している。 日頃の活動ではロケハンという事前準備が必要。ただこれはFCの職員だけでは無理。実際に市民側からの協力を得なければならない。観光地のみでは撮影はできないからで、その協力者というのが私たちにとってはNPOになっている。見つける際のキーワードは「生活感のある日常的な被写体」。考え方や視点を変えるだけでロケハンは誰でもできる。市民にはこれだけ気軽なものだとみなさんに紹介している。
(3)NPOによるFC事業と地域づくり事業
NPOの「アジア・フィルム・ネットワーク」はFCをかみくだいて説明し、市民にFCの魅力と可能性を感じてもらう活動をしている。 「えひめ映画塾」は、「こんな作品を誘致したい!」とか「こんな映画祭に行ってみたい」とか「映像ビジネスを愛媛で考える」などのお題を考えるワークショップ。2002年から始まり、既にのべ300人以上が参加している。FCの楽しさを子供にも伝えたいと「こども映画塾」も開催している。映画制作の手法を取り入れて物語を自由に創作し、地域の魅力を子供たちの視点から発表する機会としている。ゆとり教育や総合学習の視点で教育委員会も関心を示すなど、他方からも注目を集めている。 また大人向けの「えひめドラマ塾」を開催。こちらはFC体験としてシナリオハントやロケーションハント、許諾申請などを行い、「地域の物語」を創作した。
(4)これからできること
FCはあくまでツール(道具)だということがみなさんにイメージされたのではないかなと思う。新潟で地域参画型FCを目指すならば、まず自分たちの周りにある映画と新潟の接点を再度探してみてほしい。 例えば自主的なロケハンによる魅力再発見であったり、新潟ロケが行われた作品探しであったり、情報発信であったりと、それらの活動を通じていろいろな発見や新たな可能性が生まれてくる。 いろいろな可能性が生まれたとき、行政はFCの存在理由を明確にして大きなビジョンを持ちながらも「県内外にFCの魅力を発信しているか」「関係各所と情報共有はできているか」「NPOを理解しているか」などの課題をもってほしい。 一方のNPOの側はFCを通し何を成し遂げたいのか、「ミッションとパッション」(目的と情熱)はあるか、NPO単独でもFC事業を運営できるか、地域にFCの魅力と可能性を発信しているかなどの振り返りを絶えず持ってほしい。 互いをパートナーとして専門・得意分野を生かした撮影支援体制を確立していくことが、地域参画型FC誕生のカギを握ると思っている。
(いずみたに・のぼる)東京都出身。高校卒業後に渡米、1992年にスクール・オブ・ビジュアル・アーツ映画科に入学。同大を中退後、米国で雑誌やインターネットのホームページのデザインに携わる。95年に帰国。ネット関連コンサルタントを経て2001年、AFN設立、02年から愛媛県経済労働部観光推進局観光課勤務。
講演のスライド (QuickTime形式)
<変革の時代の映画・映像>
まず近年、FCが盛り上がる背景や映画・映像が注目を集める背景を話し合った。 文化庁の佐伯知紀氏は、国が2004年度から本格的に始める「日本映画振興プラン」について説明。「2001年に施行した『文化芸術振興基本法』の中に、映画が盛り込まれた。それまで国は総体として「映画」をとらえてきたことはなかった。(これを受けて)『映画振興に関する懇談会』が開かれ『日本映画振興プラン』ができあがった。国が支援する内容を明確にし、やがては自律=自立していくことを目指している。映画という分野でこれだけのことが動いているのは初めて。従来型の映画映像文化・芸術を大切にしようという考え方に加えて、それがコンテンツとして発信につながり、いろいろなものにつながっていく大切な媒体なんだという認識が広がりつつある」と話した。 また、経済産業省メディアコンテンツ課の前課長補佐で、現在は東京国際映画祭事務局長の境真良氏は「映画は今後登場するコンテンツ産業の基本となる。インターネットやブロードバンドの中で映像コンテンツの流通が自由化され、いろいろなビジネスが可能になった」と、ITブームによりハード主体からソフト主体へという産業構造の大転換が背景にあると語る。 全国フィルムコミッション連絡協議会専務理事の前澤哲爾氏も「映像が文化として産業として認知されてきて、その流れの中でFCも動いている」と、FCがここ1,2年で増えたのも映画・映像産業の大変革と無縁ではないと指摘する。
<もう一つの方向「地域映画」「コミュニティシネマ」>
東京と地方の情報格差は依然として存在する。ただその一方で東京を経由しない「リージョナル・フィルム(地域映画)」や「コミュニティシネマ」といった動きが活発になっているという。 「リージョナル・フィルム(地域映画)」という切り口で、東京国際映画祭の上映プログラムを組んだ山田俊輔氏は「ローソンと組んでDVDをコンビニで売るなど、流通や回収システムまで自分たちなりの戦略を持って行っている人々と(全国各地で)出会った。いわゆるこれまでの自主映画とは性格を異にしていた」という。山田氏は、東京の多くの映画人の現状は自ら土地(生産手段)を持たない「小作農」でしかないと指摘。「地域に『自作農』の姿を見つけた」。 山田氏とともに同映画祭に携わる三輪由美子氏は「地域で制作して地域で資金を回収することに関わり、これをきっかけにしてFCを設立した地域もある。文化祭や体育祭に参加するような感じで地域の人全員がモノ(作品)ができ上がるカタルシスを経験した例もある」と、こうした地方独自の動きがFCと連動している側面を指摘する。 また、地域に根ざした公共上映活動である「コミュニティシネマ」について、佐伯氏は興行を目的とした既存の制作・上映形態のもう一つの流れと説明。「NPOをつくって活動を始める地域もある。多様な作品を見ることができるそういう環境を(地方で)整えていくことも大切なこと。FCが頑張っていくと、地域でコミュニティシネマを行うような人材と重なっていく。ロケ支援もやる、地域に資する映像支援もやる、映画祭もやるということになる」と話す。 えひめFCの泉谷昇氏はFCがすべてを担うのではなく「自主上映団体など得意・専門分野のある団体と組むことで誘致・支援から上映支援までの一貫した「映画支援」につながる。「見せる側」「見る側」双方の育成にも寄与できる」という。
<FCの多様な可能性>
映画産業の変化、地方の動きなどを踏まえ、最後にFCが持つ今後の可能性について話し合った。前澤氏は、静岡の小学校で映像づくりの出前講座をボランティアで行った体験を基に「学校教育の中で感動や発想、メッセージ、人との出会いなどはなかなか伝えにくい状況だが、映像を通じて子供たちはそれらを体験できる」と、映像教育の可能性を指摘。山田氏は「地域のコンセンサスが得られて、例えばカーチェイスOKの道や爆発OKの工場等を用意することができれば、そんなにお金をかけることなく『映画特区』のようなものをつくることができる」と提案した。泉谷氏は「FCの役目は撮影環境を提供すること。その結果として地域に貢献できたり、可能性が生まれたりする」と、単なる制作会社の下請けに陥らないように注意を促した。境氏は「『地域の満足』というお金以外の抽象的な経済がある。地道な努力で地域の人に映像を分かってもらうこと。映像のファンになってもらうこと。決してこの地域の名前を売るためでなく、自分たちが関与していることが楽しいと思ってもらうこと。そして中には監督さんに会えた、有名な女優に会えたとちょっと楽しいこともある。こういうちょっとの喜びがまじめな大仕事につながっていくこともある。小さなことから始める、そしてやすきに流れないでほしい」と激励した。 前澤氏はアジア・極東地域のFCが急成長していることを踏まえ、新潟には地理的な優位性があることを指摘。「(今年上映された日本映画)『ホテル・ビーナス』はロシアのウラジオストクで撮られた。ウラジオにはヨーロッパ風の街並みがあり、新潟からは1時間半ほど。新潟はウラジオ撮影の拠点になりうる」と、対岸諸国とのFC交流を提案した。
■シンポ出席者■ 佐伯知紀氏(文化庁芸術文化調査官) 境真良氏(東京国際映画祭事務局長) 前澤哲爾氏(全国フィルムコミッション連絡協議会専務理事) 山田俊輔氏(映画制作者) 三輪由美子氏(映画制作者) 泉谷昇氏(えひめフィルムコミッション) 司 会:逸見龍生氏(新潟大学助教授、にいがたロケネット副会長)
A:「フィルムコミッション 誘致と効果」 15人参加。作品の誘致方法、経済・観光効果の実態などを話し合った。経済・観光効果はそれなりにあるが、むしろ「映像になることで、地元の子ども達が他県に出ても自信をもって出身地を言える。経済効果より人づくりの効果がある」など、ふるさとを誇りに思うきっかけづくりに役立つという意見が多く、長期的な視点が必要という認識で一致した。
B:「フィルムコミッション 運営と自立」 16人参加。民間FCの自立をテーマに、人材、資金面などを話し合った。FCには「制作側から支援の対価は受け取らない」という不文律があるため、民間FCの維持で大きな制約になっている実態が報告された。一方で別の収入の道を探る具体例などが提案された。
C:「フィルムコミッション 支援実務」 20人参加。映画、テレビドラマ、バラエティ、CMなどジャンルによって制作会社の姿勢に大きな違いがあること、タイアップ交渉などお金の絡む仲介は避けること、エキストラの事故に備え、撮影隊が保険に入っているか最初に確認しておくことが必要だなど、個別具体的な情報交換がされた。
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