WWW http://www.iwate-np.co.jp

高齢者医療の負担凍結 先送りでは意味がない


 来年4月から実施予定だった高齢者の医療費負担増について与党のプロジェクトチームは凍結の具体策をまとめた。

 医療費抑制を最優先にした小泉内閣の医療制度改革で、高齢者の負担増は療養病床削減などとともに柱の一つだったが、早くも軌道修正となる。

 契機は参院選の大敗。高齢者の生活を直撃する負担増が始まれば、最大決戦となる衆院選を戦えないという苦しい党内事情が背景にある。だが、単なる問題先送りでは野党から露骨な選挙対策と批判されるだけだ。

 地方自治体は既に新たな医療制度の準備を進めており唐突な凍結方針に戸惑いも強い。政府、与党は凍結に伴う地方の影響にも配慮が求められる。

 少子高齢化が一段と進み、膨らむ一方の高齢者医療費は現役世代だけでは支えきれない。国民皆保険制度を社会全体でどう負担し維持するのか。政府、与党は医療や介護など社会保障の負担の在り方について論議を加速させていく責任がある。

 地方の準備にも影響

 来年春から半年間凍結されるのは、75歳以上の「後期高齢者」の一部が対象となる新たな保険料徴収。その後の10月から半年間は9割削減して1割負担とすることで決着した。

 保険料徴収は、来春始まる後期高齢者医療制度に伴うもので加入後2年間は保険料を半額にする激変緩和措置があるが、さらに緩和を手厚くする。

 一般的な所得がある70−74歳は窓口負担を現行1割から2割に引き上げる予定だったが、1年間凍結となる。

 後期高齢者の医療制度は地方が運営主体。本県も全市町村が加入して県後期高齢者医療広域連合を設立し、電算システム改修や保険料設定など来春に向けた作業が本格化している。

 凍結となれば財源減少やプログラム再改修などの負担、制度周知に絡む混乱も懸念される。全国知事会など地方3団体は国の責任で万全の措置を取るよう申し入れており、政府、与党はきちんと応えるべきだ。

 凍結に必要な財源1500億円は補正予算での対応になる見通し。制度設計の見直しと一体でなければ問題の先送りにすぎず高齢者も納得すまい。

 安心崩壊の懸念強く

 医療制度改革では、慢性的な高齢患者が長期入院する療養病床38万床を15万床に削減する計画も下方修正が避けられなくなっている。

 国の基準で試算すると本県も約3000床を約1300床に削減する必要があるが、全国的に削減病床の受け皿となる老人保健施設などへの転換が国の想定を大幅に下回っているからだ。

 療養病床は国から奨励されて施設転換した病院も少なくないだけに、場当たり的な医療行政への不満も指摘される。行き場を失った患者の難民化が問題になるなど必要以上の医療費抑制による弊害が目立つ。

 年金の欠陥是正と一体で収入に見合う医療費負担を急がないと安心も命も守れないが、すぐ消費税へと走るのは禁物。その前に無駄遣い解消という最優先課題がある。

 社会保障をめぐる過去の論議では負担先送りが財源悪化に拍車をかけた例もある。今のままでは限界があり、やがて行き詰まる。ねじれ国会で与野党双方が選挙対策にばかり腐心すると国民が迷惑するだけだ。

松本利巧(2007.10.31)

     論説トップへ戻る

トップへ