現在位置:asahi.com>社説 社説2007年11月01日(木曜日)付 給油と対テロ戦―イラク撤収で仕切り直せテロ対策特別措置法がきょうで期限切れを迎える。6年間にわたってインド洋で給油活動を続けてきた海上自衛隊は、帰国の途につく。 政府は給油活動の継続のため、新法案を国会に出したが、民主党など野党の反対姿勢は強く、成立の見通しは立たない。福田首相は小沢民主党代表に直接会って協力を呼びかけているが、妥協は難しそうだ。 政府・与党は「テロ防止のための国際社会の取り組みから日本が脱落していいのか」と言う。給油を受けてきた米、英、パキスタンなど11カ国とアフガニスタンの駐日大使はきのう、日本の国会議員に給油の重要性を訴えた。 ◆終了はやむを得ない 私たちは、日本も国際社会の一員として何らかの役割を果たすべきだと考えるし、燃料を受け取る国々が感謝してくれているのはうれしく思う。 しかし、だからといって、十分な議論もなしに自衛隊の派遣を続けるわけにはいかない。まず、この間の実績を慎重に検証してみる必要がある。6年もたっているのだから、日本の貢献のあり方が今まで通りでいいのかどうかを議論し、国民の合意を作りなおすべきである。 夏の参院選で与野党が逆転したことで、政府は給油に絡むさまざまな情報を開示しだした。まだ十分とはいえないが、従来なら説明もそこそこに与党の賛成多数で延長を決めていたところだ。この新しい政治状況を生かしたい。 日本が提供した油がイラク戦争に転用されたのではないか。防衛省はその事実を隠蔽(いん・ぺい)したのではないか。国会がこうした疑惑の解明や関係者の責任追及を優先するのは当然だ。 この時期の防衛政策を担った守屋武昌前防衛次官の、業者との驚くべき癒着も判明している。法案の審議が進まないまま、撤収に至ったのはやむを得ない。 日米関係への影響や国際社会の足並みへの乱れを懸念する声もある。だが、国内で正当性が揺らいでいる政策を、対外的な配慮だけを理由に続けるべきではない。それは日本に限らず、どの民主主義国でも同じことだろう。 ◆アフガン後の迷走 考えておかねばならないことがある。「テロとの戦い」とひとくちに言うけれど、01年の9・11同時多発テロ以降、米国を中心に始まった武力攻撃や国連の取り組みなどは実に多岐にわたる。 その軌道が大きくはずれてしまったのは、米国によるイラク攻撃である。当時の小泉政権はそれを支持したうえ、野党や世論の反対を押し切って自衛隊を派遣した。安倍政権に続いて福田政権もこの誤りを総括しようとはしていない。そこに議論が混迷する最大の原因がある。 日本は「テロとの戦い」のどの局面に、どのようにかかわるべきか、かかわるべきでなかったのか、その場合の原則は何か。そうした基本的な議論を、政府は避け続けてきた。 同時テロの1カ月後、テロ首謀者のビンラディン容疑者らをかくまったアフガニスタンのタリバーン政権を、米国などが攻撃した。国際社会のほとんどがこれを支持し、戦列に加わった。日本の給油支援はその一環だった。 だからこそ私たちの社説も、憲法の枠内であることなどを条件に海上自衛隊の派遣を容認した。民主党は国会の事前承認が盛り込まれなかったことで法案に反対したが、派遣そのものには賛成した。 私たちはその後、米国によるイラク攻撃の可能性が高まる中で、もし侵攻すればインド洋での給油活動は間接的にイラク攻撃を助けることになり、性格が変わってしまうと警告した。今回の一連の給油転用疑惑は、まさにその懸念が的中したことを示している。 攻撃後のイラクは、宗派対立によるテロが激しくなり内戦寸前の状況に陥っている。イスラム世界には激しい反米感情が広がり、中東情勢は不安定化した。テロは英国、スペイン、インドネシアなどで新たな犠牲者を生んだ。 イラクの状況が厳しいのは確かだ。だが、これを国際社会が広く支持する「テロとの戦い」と言えるのかどうか。 ◆大きな構図で議論を 日本の失敗は、米ブッシュ政権への配慮からイラク戦争に協力したことだ。国際社会の広い合意もなく、大義にも欠ける戦いにかかわるべきではなかった。 イラク南部のサマワに派遣された陸上自衛隊は、なんとか無事に引き揚げたが、まだ航空自衛隊がイラクで活動している。これを一日も早く撤収させなければならない。 そのうえで、日本がかかわるべき「テロとの戦い」を整理することだ。そしてアフガンの復興やテロ防止に協力するなら、どんな役割がありうるのか、何が最も効果的なのかを考える。それなら国民全体の理解も得やすいはずだ。 アフガン支援は、果たして給油活動しかないのだろうか。高村外相は給油支援を「ローリスク、ハイリターン」と表現した。危険は少ない一方で、みんなからは感謝され、日本は顔が立つ。そんな意味だろう。外交に利害得失の計算は欠かせないが、志が低すぎないか。 6年もたつのにアフガンは安定せず、むしろ治安は悪化している。隣国パキスタンの状況も不安定だ。国際社会の取り組み自体が大きな曲がり角に来ていると言える。タリバーン穏健派との和平を考えるべきだという意見も出ている。 国際社会としてどのような支援の枠組みをつくるか、議論しなおす必要があるかもしれない。そうした大きな構図の中で、日本が果たすべき役割を考えたい。 PR情報 |
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