札幌市で10月27、28日に開かれた「日本伝統鍼灸(しんきゅう)学会学術大会」を傍聴した。キャッチフレーズは「人間をまるごととらえ、治す技」。参加した約700人の大半が鍼灸師か鍼灸師を目指す学生で、門外漢は私ぐらいだったかもしれない。
一般研究発表で、手術が奏功しなかった食道アカラシア(食物が食道に詰まる病気)が治癒したり、脳性まひの四肢不自由児が野球部に入れるまでになった症例などが報告された。大海のごとくに奥深い技の世界をかいま見る思いがした。
大会会頭の下田憲さんが大会抄録集の巻頭に書いていた。「目先の症状のみをいじくりまわし、結果として人間の本質を損なってしまうような、誤った医術が横行する今日ほど、伝統的な医療に立ち還る事が求められている時代は無い」
下田さんは北大医学部卒。上川管内南富良野町で「けん三(さん)のことば館クリニック」を運営している。西洋医学を極めた立場から現代医療の行き詰まりを指摘する言葉に重みを感じた。
街の至る所で鍼灸治療院を見かけるが、日本の医療行政は鍼灸に正当な地位を与えていない。鍼灸界も流派があり過ぎてまとまりにくく、政治や行政に対する発信力は弱いという。
膨張する医療費、減らない病気、医療過誤など医療の危機は医師不足にとどまらない。自然治癒力を重視する鍼灸は人に優しい医療と言える。そこで積み上げられている成果が危機を切り開く可能性にもっと目を向けたい。【山田寿彦】
毎日新聞 2007年11月1日