(2007/10/29 丹羽政善)
レッドソックスのワールドシリーズ優勝が決まり、喜ぶ松坂。(写真提供・共同通信社)
【デンバー28日=丹羽政善】シャンパンの匂いが鼻を突く。ビールも混ざり、アルコールの香りが充満するクラブハウスのほぼ中央に松坂大輔がいる。頭から、背中からチームメートにシャンパンを断続的にかけられていたが、その合間を縫って、松坂は向けられたマイクに、ワールドチャンピオンチームの一員として、言葉を残した。
――前回、コルクを持って帰るのを忘れたと話していたが?
「今回は、持って帰ります。記念に。何でもいいと思うので」
ふと、かぶっていた優勝記念の帽子に目をやると、たっぷりとアルコールを含み、黒く染まっている。つばからは、シャンパンが滴り落ちていた。
何度も顔を拭う。顔をしかめる。目が痛そう。しかし、ふと、息を吐いた。
「ああ、終わりましたね〜」
実感がこもっていた。長い1年。厳しいプレーオフの戦い。そして、頂点へ。
記者らは、松坂の言葉を静かに待つ。しかし松坂は、ふと、われに返ったかのような表情になると、ほおを緩めた。
「皆さんもどうぞ。世界一のコルクなんで。ポケットに入れて」
何かを言おうとしたのだが、言葉が出てこなかったのかもしれない。「シリーズの流れが…」と誰かが聞いたとき、祝宴の真っ最中だったこともあり、松坂は正直に言った。
「今そんなに(いろいろと)聞かれても、困る(笑)」
ただ、そのとき、デービッド・オルティスが、松坂の後ろを「サイコー!」と言いながら、走り過ぎていく。
松坂の興奮が緩んだ。穏やかな笑みがその表情に浮かんだとき、新たな世界が見えたか? と聞かれれば、「それはここでは、見えませんでした」と短く答えたものの、いろんなことがあった1年だったが支えたのは? と問われれば、落ち着いた声で話している。
「一番近くで支えてくれたのは家族ですし、どんなときでも変わらず、いてくれたことに感謝したいと思ってます」
続いて、チームについては、こう振り返った。「精神的な沈みがあまりないチームだな、と。どんなときにも、そんなに変わらない強いチームだと思います」
そのとき、また、どこからか、松坂を狙ったシャンパンシャワーが始まる。ひるむメディア。動じない松坂。もう、「どうにでもなれ」と、頭からシャンパンを浴びた。
そうして、囲んでいたメディアの輪が崩れたのを機に、松坂は、またシャンパンシャワーが行われている中に歩いていく。
その手には、コルクが握られていた。