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【東京】東十条病院『休診』 “最後の日”残る不安2007年11月1日
再開計画、見込み立たず経営悪化や医師不足などを理由に十一月からの全科休診を決めた北区東十条の「東十条病院」(馬場操院長)が三十一日、すべての診療を終えた。十月中旬の約百人を含む約三百八十人の全職員を解雇。「休診」といいながら、同病院はまだ都に対して再開計画を出していない。地域住民らは不安な表情で病院の“最後の日”を見守った。 (中山洋子、浅田晃弘) ◆紹介状で転院 同病院によると、突然の「休診」が発表された九月末時点で六十人以上いた入院患者は三十一日までにすべて転院した。通院患者にも他の病院への紹介状を渡し、医療の継続を進めているとする。 全科休診の告知とおわびが張られた正面玄関は既に閉鎖されたが、“最後の日”も、夜間通用口から診療に訪れる患者は絶えなかった。 九月二十七日に長男を出産した地元の女性会社員(38)はこの日、長男の一カ月検診で来院。女性は「出産後に病室に馬場院長がきて『不安な思いをさせてすいませんでした』と突然、謝られたのでびっくりした」と振り返る。休診の理由説明はなかったと言い、「母子手帳があるから、それで好きな病院に行くようにという説明だった。自分で探すしかない」と不安げに話した。 高血圧で通院していたという近所の川原米子さん(81)も「他の病院を紹介してもらったが、いい先生だったので悔しい。(休診の不安で)かえって病気になっちゃう。若かったら飛んであるって署名集めて立ち直ってもらうところですよ」と歯がみした。 同病院の看護師(47)は「九月末まで全く知らされていなかったから、患者さんたちに『なくならないから心配しないで』と話してきた。うそつきになりました」と悔やんだ。 ◆職員ら労組に加入 病院は一九八〇年代、首都圏を中心にスーパーなどを展開する流通グループ経営者が設立を期したが、営利目的の病院開設を許可しないとする医療法に抵触するとして国会で追及され、北区医師会なども反対を表明。だが、医師会関係者など外部の役員が経営陣に加わることで合意し、九一年に開業した経緯がある。 今後、都に十日以内に休止か廃止の届けを出さなければならないが、病院側は「転院先の紹介や事務処理で手いっぱいで、再開計画の検討はこれから」としている。 一方、解雇された職員のうち約百人が三十一日までに個人加盟の「全統一労働組合」に入り、一方的な解雇通告の撤回などを要求。病院側は同日、都労働委員会に職員らの再就職あっせんを申請した。 診療終了後に行われた団体交渉では「いつ解雇を決めたのか」など、説明不足への不満が噴き出した。同労組の鳥井一平書記長は「あまりに乱暴な解雇。雇用確保に向けた誠実な対応とともに、責任の所在を明らかにするよう求めていく」と話した。 ◆都災害拠点病院は? 都は、東十条病院が全診療科の休止を明らかにした九月下旬以降、数回にわたり同病院と運営する医療法人への立ち入り調査を行い、確実に患者を他病院へ移行できるよう求めてきた。都福祉保健局によると、入院、外来ともに全患者を周辺の他病院へ紹介する作業が完了した、と報告を受けているという。 同病院は十六の診療科があり、病床数は北区内で最大の三百五十床。入院患者を区内の他病院だけでは収容しきれないため、大病院が複数ある近隣の板橋、練馬区内などの病院を紹介している。 しかし同病院は、都内で六十七カ所ある災害拠点病院の一つ。大震災などが起きたときには、被災者の受け入れ拠点となる。北区内にはほかに、代わりうる大病院がないため、都は病院側に対し、診療の再開計画書を早急に提出するよう、引き続き求めていく。
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