現在位置:asahi.com>スポーツ>コラム>J’sコラム> 記事

J’sコラム

胸の「白岳」は消えるのか

2007年10月31日

 「J2に上がっても、応援したいばってん」という、誠意ある企業にどうやら×(バッテン)がつくらしい。

写真焼酎ブランド「白岳」が胸に刻まれたロッソ熊本のユニフォーム
写真ビールブランド「MALT’S」を胸にピッチを駆けめぐった三浦知良(当時ヴェルディ川崎)

 日本フットボールリーグ(JFL)で2位(10月31日現在)につけているロッソ熊本のメーンスポンサーで、試合用ユニホームの胸に「白岳」という焼酎ブランドのロゴを掲げ、支援している高橋酒造(熊本)のことだ。ロッソが、晴れてJ2昇格を果たした場合、最も目立つ胸スポンサーからの撤退を余儀なくされる可能性が高い。

 「青少年に対する影響を総合的に考慮すれば、胸スポンサーの継続は難しい状況」というのがJリーグ側の説明。

 酒類メーカーであることがネックという。

 「J2になると試合がテレビ放映されることもあり、影響が大きい。子どもたちが着たりするレプリカのユニホームの胸にハードリカー(強い酒)はふさわしくないのでは」。Jリーグ経営諮問委員会はロッソ側に昨年の予備審査の時点ですでに見解を伝えていた。

 Jリーグには、チームが胸スポンサーを募る場合、「自粛カテゴリー」を外すという申し合わせがある。業種リストは非公開だが、風俗関係、たばこ、遊技場、美容形成、冠婚葬祭業などが、それに該当するそうだ。

 酒類はどうか。97年に一度、解禁され、ヴェルディ川崎では三浦知良らがサントリーのビールの銘柄「MALT’S」のロゴを胸につけ、ピッチを走り回っていた時期もあった。ビールはOKで、焼酎はNGなのか? 何だか腑(ふ)に落ちない。

 「白岳」や「しろ」の米焼酎ブランドで知られる高橋酒造は、「06年焼酎メーカー売上高ランキング(帝国データバンク福岡支店調べ)」によると、売上高112億円の全国7位の焼酎メーカー。従業員は研究所も含めてわずか76人だが、ロッソ熊本を地域リーグ時代の05年から支援し続け、支援金は年間約2億円にのぼる。

 ロッソを運営するアスリートクラブ熊本の上保毅彦事業部長は「まだ昇格も確実に決まっていない状況なので、すべては昇格を決めてから」と前置きした上で「これまで支援いただいた高橋酒造さんに胸スポンサーを降りてもらことになると、申し訳ない気持ちでいっぱい」と話す。

 問題とされているのはポスターなどにも露出する試合用ユニホームの「胸」のロゴであり、「背中ならJリーグで許されるのか」「練習着のロゴなら高橋酒造が納得するのか」など、両者との交渉、調整はこれからだ。

 高橋酒造のスタンスを尋ねた。久保田一博・営業企画部兼広報部長は「胸のスポンサーは無理かもしれないが、支援を打ち切る気持ちはない。形は変わるかもしれないが、これまでと同じレベルの支援を続けたい」という。「『熊本にJリーグを』『子どもたちに夢と感動を』というロッソの理念に共感しているからこそ、支援したいんです」とも話した。

 地方の小クラブが昇格の夢をかなえ、Jリーグで存続していくためには、地元企業の支援が不可欠だ。「白岳」が胸から消えても、支援は続けるという高橋酒造の姿勢には救われる思いがした。とはいうものの、チームとのギブ&テークのバランスが崩れ、支援が今後尻すぼみにならないか、気がかりでもある。

 話は脱線するが、そもそも日本のサッカーの発展は「酒」が支えてきたと言っても過言ではない。現在も日本代表のオフィシャルスポンサーであるキリンは、今から29年前の1978年、日本で初めて開かれた国際大会「ジャパンカップ(現キリンカップサッカー)」に協賛して以来、継続的に日本サッカーを支援してきた。

 日本サッカー協会が以前、東京・原宿の岸記念体育館の中にあり、スポンサー探しに血眼になっていたころ。山手線を挟んだ近所に本社があったキリンに支援を頼み込んだのがきっかけだ。日本サッカーは、そうして資金難の時代を乗り越えてきた。

 「白岳」の胸のロゴに即効性があり、それを見た子どもが「今、飲みたい」と思うかどうかは、はなはだ疑問だ。それほど「青少年に対する影響」に目くじらを立てるべき対象ではないと、私は思う。事実、Jリーグの百年構想パートナーである「朝日新聞」のロゴで、発行部数が飛躍的に伸びているという話は聞かない。

 ロッソを応援する大人は「白岳」に酔い、子どもはあこがれの選手のプレーに酔えばいい。九州で4チーム目のJリーグ入りを目指すチームのもうひとふんばりを切に願って、今夜も「白岳」で乾杯だ。(原田亜紀夫)

ここから広告です
広告終わり

PR情報

このページのトップに戻る