◎氷見病院の民営化 気がかりな「学閥」意識
来年四月の公設民営化を目指す氷見市民病院の指定管理者候補に金沢医科大が決まった
。市民病院では富大、金大から医師の派遣を受けているため、今後は三大学で協議会を設置することになったが、民営化実現のかぎを握るのは「学閥」を超えた大学同士の協力体制がどこまで構築できるかである。
大学による自治体病院の管理は実現すれば全国二例目となるが、今回のように経営難の
病院を立て直すケースは初めてであり、地域の複数大学が関与するという点でも自治体病院再生の試金石となろう。
全国では聖マリアンナ医科大が昨年、川崎市立多摩病院の指定管理者になっている。こ
れは人口増加が見込まれる地域で新たに病院を開設した川崎市が、民間の手法により効率的な経営を目指すケースであり、赤字経営や医師不足に悩む氷見市民病院とは公設民営化の目的がまったく異なる。
今後の最大の焦点は医師、看護師などの人材確保策だが、気がかりなのは大学の「学閥
」意識である。
氷見市民病院の常勤医三十二人のうち、二十人は富大、七人は金大から派遣されている
。指定管理者を決める選定委員会の議論では、医科大という人材養成機能を有する法人が指定管理者になることで、医師の供給源が確保できる安心感と同時に、富大などの医師が病院を離れるという懸念もあったらしい。選定委が三大学による協議会設置を金沢医科大に求めたのも、「学閥」が公設民営化の障害になりかねないことを見越しての対応である。
確かに北陸では病院が大学とつながり、各医局が人事にも影響力を持っているが、金沢
医科大が単独で医師を送り込むのが困難であれば、他大学の協力は不可欠である。
氷見市民病院の新たな姿は、市が施設を所有、金沢医科大が管理し、三大学が現場で協
力する全国でも例のない形となる。大学の壁が存在していては市が描くような医療サービスはとても実現できないだろう。
北陸で医師不足が深刻化する自治体病院は、多かれ少なかれ大学の応援を受けている。
氷見市民病院の公設民営化は一病院の経営問題にとどまらず、地域医療にかかわる大学の支援のあり方も問われている。
◎脱・ゆとり教育へ かなめは授業の充実だ
学習指導要領の改訂作業を進めている中央教育審議会教育課程部会の審議のまとめをご
く簡潔にいうと、小中学校では総合学習の時間を大幅に削って主要教科や保健体育の時間を増やし、高校では未履修問題がてんやわんやの騒ぎになった世界史を現行通り必修としたほか、学校週五日制は維持して小中学校で授業を週に一こま増やすということだ。
この骨格は事実上の答申案であり、早ければ二〇一一年度から実施される見通しだそう
だ。学力低下を招いたとされる「ゆとり教育」が始まってから十年で軌道修正されるわけで、子どもの自主性尊重の名分の下で教える内容を減らしたゆとり教育よりはましといえる。しかし、これによって日本の学校教育の弱点が克服されると受け取るのは早計だろう。授業時間が増えてもその中身がこれまで通りでは真の学力向上に結びつかない。かなめは授業の充実であり、授業内容がよくなってこそ軌道修正の実も期待できるのである。
一般論として日本の教育の弱点は、児童生徒はいうまでもなく大学生に至るまで、「教
えられること」に偏った一方通行であり、児童生徒や学生の「自ら考える姿勢」を育てようとしないことだといわれている。子どもの自ら考える力を育てるには、教師がしっかりした課題を与え、助言し、巧みに誘導することが不可欠だろう。先日発表された全国学力テストで、基礎知識を問う問題はできるが、それを応用する問題となると劣るという結果が出たのも、一方通行の教育のせいだといえる。
審議のまとめは、その点を考慮して異例なことに教育条件の整備にも言及しているので
ある。文部科学省は来年度予算の概算要求に三年間で教職員定数を約二万一千人増やすことを盛り込んでいる。教師が子どもと向き合う時間を充実させるというのがその理由である。だから審議のまとめも教育条件整備への言及ということになったのだ。
もとより家庭の役割も重要なのだが、ここではそれをさておき、文科省の要求がそのま
ま通るかどうかは疑問としても、増えた授業を充実させるためにはどのような形であれ、条件整備も必要だということを指摘しておきたい。