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2007年10月31日(水曜日)付

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首相と小沢氏―党首討論はどうした

 インド洋での海上自衛隊による給油活動を継続するのかどうか。11月1日に迫った期限切れを前に、福田首相が急きょ、民主党の小沢代表に会談を申し入れ、初のひざ詰め談判が行われた。

 首相は、給油継続のための補給支援特措法案の成立に民主党の協力を求めた。これに対し、小沢氏は「一般論として協力できることは協力するが、この法案については認められない」と拒み、議論は平行線のまま終わったという。週内に再び会談する予定だ。

 衆参の多数派がねじれたこの国会で、与野党双方が突っ張り続ければ法案は成立せず、政治は停滞しかねない。主張の違いをどう調整し、合意を見いだしていくか。そのやり方を話し合いたいという首相の呼びかけは、理解できる。

 2大政党のトップが腹を割って話し合い、歩み寄りの余地を探る。どちらかがどうしても実現させたい法案の話をしてもいいし、国会の同意が必要な政府関係機関のトップ人事が話題になってもいい。合意づくりのための一つの手法であることは間違いない。

 党首会談で局面を打開した例としては、94年の細川首相と、当時は野党だった自民党の河野洋平総裁の話し合いを思い出す。衆院への小選挙区比例代表制の導入をめぐって衆参の賛否が分かれた末に、両氏が会い、妥協案をまとめた。

 時と場合により、党首会談は大きな成果を生む。だが、あくまで国会の場で互いの主張をぶつけあうのが原則である。途中の議論を省いて結論だけを求めるのでは、民主主義が空洞化してしまう。

 その意味で、この党首会談を受けて、きょう予定されていた国会での党首討論が見送られたのは納得できない。すぐに再会談するからということのようだが、それが公開の場での論戦を避ける理由になるのだろうか。

 首相と小沢氏はまだ一度も党首論戦を交わしたことがない。まずは国民の前で丁々発止、党のトップが国政の重要問題について意見を述べ合ってこそ、政権を争う2大政党なのではないか。歩み寄りの可能性があるとしても、論戦を交わしつつ協議すればいいことだ。

 衆院では補給特措法案の審議が始まったばかりだ。テロとの戦いに日本が貢献するには給油がもっともふさわしいのか、それとも他の手段があるのか。民主党が用意するという対案も、そろそろきちんとした説明が聞きたい。守屋武昌・前防衛事務次官の証人喚問はあったが、一連の疑惑の解明はまだまだ道半ばだ。

 国民は、こうした点について両党首が真剣に議論することを期待している。いよいよ真打ち登場というときに楽屋で話し合いでは、国民はしらけてしまう。

 とくに小沢氏に問いたい。首相への代表質問にも立たず、党首討論もこのありさまでは、論戦から逃げていると思われても仕方ない。野党第1党のトップとしての責任を果たしてもらいたい。

鳩山法相―軽率すぎて話にならぬ

 現職の法相が国際的なテロ組織とかかわりのありそうなことを言ったのだから、だれでも驚いてしまう。

 「私の友人の友人がアルカイダなんですね。私は会ったことはないんですけれども、2、3年前は何度も日本に来ていたようです。彼はバリ島の中心部の爆破事件に絡んでいた。私は彼の友人の友人ですけれども、バリ島の中心部は爆破するから近づかないようにというアドバイスは受けておりました、私は」

 鳩山法相が話をしたのは、外国特派員協会主催の講演会でである。

 日本の法務行政のトップがテロリストとつながりがあるのか。しかも、5年前にインドネシアのバリ島で起きたテロを事前に知っていた。それなら、200人以上が犠牲になった事件をなぜ未然に防ごうとしなかったのか、と思ってしまう。発言はただちに世界に報じられた。

 ところが、さらに驚いたことに、鳩山氏は講演の後、発言を訂正した。

 友人から聞いた話で、その真偽は確認していない。聞いた時期はバリ島の事件の3、4カ月後だ。アルカイダと聞いているが、過激派グループに協力している人かもしれない、というのである。

 どこまでが事実なのか。急にあいまいな話になってしまったのだ。

 鳩山氏は「舌足らずで誤解を生む部分があった」と釈明した。しかし、これは「舌足らず」ということではすまない。テロのような深刻な問題で、不確かなことをさも事実のように話すのは、社会の安全を守るべき法相としては、あまりに軽率ではないか。

 法相発言は、入国する外国人の指紋を取り、顔写真を撮影する制度の意義を訴える流れの中で出てきた。

 この制度はテロ対策の一つとして11月20日から始まるが、「外国人すべてを危険視し、偏見を生む恐れがある」として反対論や慎重論がある。鳩山氏は制度の必要性を海外メディアに訴えたかったのかもしれないが、こんな粗雑な例を持ち出しては、逆効果だったのでないか。なんとも浅はかというほかない。

 鳩山法相の軽率な発言は、これが初めてではない。

 法相が死刑執行を命じる現在の制度について、「法相が絡まなくても執行が自動的に進む方法はないか」と述べた。死刑はひとたび執行すれば取り返しがつかない。そんな重い事実を考えていないかのような発言には違和感を覚えざるをえなかった。

 司法試験の合格者を昨年度の1500人から3000人にまで増やすという政府の方針にも、鳩山氏は「多すぎる」と異を唱えている。欧米に比べて少ない法律家を増やすことは長年にわたって論議され、政府が進めている司法制度改革の柱であることを忘れてはいけない。

 テロ対策、死刑制度、司法改革。そうした大事なことについて軽口をたたくようでは、法相の資格はない。

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