◎公共交通促進月間 事業者が率先しなければ
金沢市は十一月を「公共交通利用促進月間」と位置づけ、市内全域を対象にした初のノ
ーマイカーデー実施やバス路線の運行実験に乗り出すが、そうした試みを軌道に乗せるために欠かせないのは北陸鉄道の積極的な姿勢である。利用促進の旗振り役を行政だけに任せず、北鉄は自ら率先して需要開拓に取り組み、運賃低減などの企業努力につなげてもらいたい。
北陸鉄道グループは事故や乗客置き去りなどのミスが相次ぎ、今月には北陸信越運輸局
から車両三台の使用停止処分を受けた。県や金沢市はバス事業者としては異例の指名停止処分を出している。北鉄は不祥事が起きるたびに謝罪を繰り返してきたが、市が初めて設定する公共交通利用促進月間は市民の関心がバスに向けられ、バスが交通の主役となる期間であり、その趣旨を考えれば、サービス向上を訴え、信頼回復を図る好機と言えるのではないか。公共交通利用を呼びかけながら、肝心のバス事業者が受け身の姿勢なら、せっかく月間を設けても市民の関心は高まらないだろう。
金沢市は十一月から、金沢駅と平和町を結ぶ環状バスなど二路線で運行実験を実施する
。環状バスでは、どこから乗車しても四区間まで大人百円で済む「ちょいのり料金」を設定するが、これは市が運行経費を負担して委託し、北鉄が実施する形である。ワンコイン運賃は武蔵ケ辻―香林坊間ですでに導入されているが、同区間では潜在的な需要の掘り起こしにつながっており、既存の路線でさらに拡大を検討する余地はあるだろう。
十一月十一日のノーマイカーデーでは、公共交通の利用を促すため市内のバス路線で大
人運賃が半額、子どもは一律五十円となる。北鉄と西日本JRバス側が負担することになったが、この取り組みを定着させるには事業者側の運賃面での協力が引き続き求められよう。
県が策定する北陸新幹線開業へ向けた行動計画でも、金沢駅からの二次交通整備が課題
になるとみられる。二〇一五年度を目標年次とする新金沢交通戦略では、全国主要都市のバス運賃と比較しながら市内バス路線の運賃低減策を提言しており、北鉄は公益企業として魅力ある都市交通の実現に大きな責任を担っていることを忘れないでほしい。
◎自・民党首会談 真剣な論争も聞かせよ
福田康夫首相が小沢一郎民主党代表と党首会談を行ったことは、ねじれ国会で新テロ対
策特別措置法案の審議が行き詰まっているのを何とか打開したいという意欲の表れであり、「対話と協調」を理念に掲げる福田首相らしい政治手法といえる。ただ、二回目の党首会談が週内に行われる見通しになったことで、三十一日の党首討論を取りやめるのはいかがなものか。衆参両院の第一党の党首が国会の表舞台で真剣な論争を行い、それを国民に聞かせることは国の方向を左右する重要法案の審議にはとりわけ大事であり、むしろそちらの取り組みを先にやってもらいたい。
福田首相が「日本の政治はこのままではいけない」と危機感を抱き、新しい「政治の動
かし方」を見いだしたいと党首会談で述べたのは理解できる。首相の思いにともかく小沢氏も応じた形ながら、新テロ特措法案の成立に協力を求めた福田首相に対し、小沢代表は「自衛隊の海外派遣は国連の活動の枠内でしか認められない」という従来の主張を繰り返し、議論は平行線をたどった。表にされたこと以外にどんな話し合いがなされたのか分からないが、党首会談で本当に突破口を開けるのかどうか疑わしくもある。
どちらかといえば国会論戦が不得手と言われる両氏には、主張をぶつけ合うだけの党首
討論を避けたい心理が働いているようにもみえる。しかし、国益の観点に立った党首の真剣勝負は停滞する政治を動かすためにも大事である。与党は新テロ特措法案を衆院で再議決するかどうかの判断を、世論調査での国民の支持率をみて行う考えといわれる。そうであればなお、論戦によって民意を引きつける努力が必要になってくる。世論にただ従うのではなく、世論を形成するのが政治指導者の仕事であることも忘れないでほしい。
新テロ特措法案を審議する衆院特別委は、守屋武昌前防衛事務次官の疑惑追及に時間が
割かれている。守屋氏と防衛商社の癒着や給油量の訂正問題の解明は重要である。ただ、国際的なテロとの戦いに日本がどんな役割を果たすかという本質的な議論と次元の異なる問題であることも確かであり、「守屋問題」で法案審議が進まないのは残念である。