Pop Styleブログ

本文です

 久々、(央)です。昨夜一気にアップされた宇多丸×掟2万5千字対談、ご覧になりました? (清)記者の力作です! 「Perfume」を取り上げると聞いて、絶対このお二人を起用してほしい否起用すべき!と(清)記者および編集長に強くお願いし、セッティングさせて頂いた甲斐がありました…新聞社としてはまさに“掟”破りの甚大な文章量!
 対談の場にも同席させて頂きましたが、本当に濃い、濃ゆ~い内容! (清)記者が埋もれさせるのが惜しすぎる、と考えたのもよくわかります。

 というわけで「毎日更新」目標のため昨夜のエントリーを沈めなくてはならないのが無茶苦茶しのびないので、ぜひみなさん昨日の対談、ご覧ください!

宇多丸×掟ポルシェ対談 完全版完成!http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/2007/10/post_ee87.html

さて、そんなこんなしているうちに明日31日水曜読売夕刊のPop Style面、見開きALL ABOUTは太田光さんと立川談志師匠の超ビッグ対談! 初登場の(森)記者がデビューしますよぉ!

 太田さんのサイン入りDVDプレゼント情報は明日の当ブログにて応募フォームを更新しますのでお楽しみに! 紙面にあるキーワードが必要ですのでぜひお手に取ってご覧下さい。 
と、いうわけで、見所満載のPop Styleは、読売新聞夕刊(1部50円)に掲載されています。新聞販売店や駅の売店、コンビニに走りましょう!夕刊を購読していない皆様の購入法は以下の通りです。Perfume特集の24日掲載分も以下の方法で買えますよ~!

夕刊は発行地域が限られています。また、夕刊発行地域でも、例えば九州地区では「Pop Style」(「ALL ABOUT」を含む見開き4頁のコンテンツ)は掲載されておりません。「Pop Style」が読める夕刊を発行している地域は、関東圏(茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・山梨県・静岡県)、近畿圏(滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県)、札幌市周辺となります。夕刊発行地域でも、KIOSK、コンビニ等でも、なかなか見つからないというお声が届いています。申し訳ありません。まだご購入でない方も、ヨミープラザ等を通せばまだ間に合います。

★ヨミープラザ(読売新聞東京本社前)・・・紙面は、2か月分取り置きがありますが、事前に電話で在庫確認及び取り置きのご予約をお願いします(☎03-3217-8399)。 その際に、「ポップスタイルブログで読んだのですが」と聞くと、話が通りやすいと思います。(ヨミープラザの担当者の対応は丁寧と評判です。編集部にもお礼のメールが来ております)。受け付け時間 9:30~17:30

1部50円です。紙面の希望部数分の郵便小為替と、送料分の切手を同封してヨミープラザ宛に郵送してください。ヨミープラザに届き次第、紙面の発送手続きが行われます。送料は1部‐76円、2部‐92円、3部‐108円、4部-124円です。

★宛先は〒100‐8055東京都千代田区大手町1の7の1読売新聞東京本社ヨミープラザまで。ただし、発送は小為替が到着した後になりますので、プレゼント応募希望の方は早めに問い合わせてください。

★お近くの読売新聞販売店(夕刊発行地域、夕刊発行していない地域問わず)を通しても購入できます。

問い合わせは、popstyle@yomiuri.com まで。

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Photo お待たせいたしました。「宇多丸×掟対談 25000字対談」、完成いたしました。第1章から第8章まで一気にアップいたしました。

日ごろ、窮屈な紙面にあえいでいる新聞記者が、雑誌のようなのびのびとした記事にあこがれて手を出したものの、25000字とは暴挙も甚だしいものでした。気持ちとしては、2時間にわたる対談の中身があまりにも濃いものだったので、1000字程度の記事ではもったいないと感じたこと、そしてお二人の言葉を無駄にしたくないということだったのですが、締め切りやラジオの本番を抱える宇多丸さん、掟さんから、余計に時間を奪う結果となってしまいました・・・・。

 

でも、その甲斐があり、web上で公開するにはあまりにも贅沢な対談内容となっております。お二人の心意気に感動した方は、ぜひ、

TBSラジオ、毎週土曜日午後9時半からの「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」を聴いてください!

http://www.tbsradio.jp/utamaru/index.html

11月7日午後7時から、新宿LOFTで行われる「ロマンポルシェ。10年記念隊コンサート『もう少しまじめにやっておくべきだった』」に駆けつけて下さい!

http://blog.excite.co.jp/porsche 

http://www.musicmine.com/roman-p/

そして、宇多丸さん、ありがとうございます!おとといの「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(TBSラジオ、土曜午後9:30~)、みなさんお聴きになられたでしょうか。

宇多丸さんは、なんとオープニングトークで、この「Pop Style」のことを20分近くもしゃべってくれたのです。非常に感激です。 ウィークエンド・シャッフルのオープニングトークといえば、宇多丸さんが、旬の話題を独自の視点で斬り込み、マシンガンのように語りまくる番組のつかみのコーナー。最近では亀田大毅問題に触れ、「亀田は潮目を読めなかった。沢尻バッシングでも明らかになったが、小泉、安部政権から、福田政権になって時代は変わった。これからは、謙虚、卑屈の時代!」と格闘技の話題を政治問題に絡めるというアクロバティックな手法を見せながら、見事に着地させる鋭い論評を示してくれました。 前回(10月20日)も、元EE―JUMPのユウキ問題について語るなど、誰もが聴きたくなる旬の話題を扱うこのコーナーで、おとといは、「ALL ABOUT Perfume」について語ってくれたんですね。ホントに光栄です。

確かに、宇多丸さんが載っている記事です。とはいえ、最下段という申し訳ない扱い。それにもかかわらず、宇多丸さんのラジオはオープニングですよ。番組の最後に、申し訳程度に語ったのとは違うのです。本当に恐縮です。 ただ、紙面の最下段に載っているということを言い表すために、宇多丸さんは「『天声人語』みたいな・・・」とおっしゃっていましたが、できれば「編集手帳」と言ってほしかった。(まあ、編集手帳では伝わりにくいであろう認識は、私もないわけではありませんが、一応社員として言ってみました)。「宇多丸と掟ポルシェの対談なんて『BUBKA』かよ!」って叫んでおられましたが、文化部もブブカ部も、聞き間違いの程度の差です。甘んじて受けます。 トークで紹介していただいたから言うわけではありませんが、宇多丸さんのラジオは、絶対面白いので、みなさん聴きましょう!音楽についての論評や解説も充実しており、目からウロコが落ちる思いが味わえるはずです。

宇多丸×掟対談【第1章 出会い】
http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/2007/10/post_fefc.html

宇多丸×掟対談【第2章 ブレない】
http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/2007/10/post_fa63.html

宇多丸×掟対談【第3章 危機】
http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/2007/10/post_a365.html

宇多丸×掟対談【第4章 布教】
http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/2007/10/post_df49.html

宇多丸×掟対談【第5章 魅力】
http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/2007/10/post_e3cb.html

宇多丸×掟対談【第6章 非擬似恋愛対象】
http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/2007/10/post_1265.html

宇多丸×掟対談【第7章 サウンド】
http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/2007/10/post_2b84.html

宇多丸×掟対談【第8章 奇跡】
http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/2007/10/post_3e50.html

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第1章 出会い

 掟ポルシェ 2004年の12月に当時のPerfumeのマネジャーさんから、ちょっと面白いことがやりたいと提案があって。面白ければ何でもアリって感じの方だったんです。自分も参加している「申し訳ないと」というJポップ限定のDJイベントがあって、そこに興味を持ったそうで、実際にイベントに参加させていただく形で始まりました。Photo_2

自分は物心ついたときからアイドル好きで、アイドルのCDは満遍なくチェックしていたので、Perfumeの存在は知ってたんですよ。身の周りに、いわゆる「モーヲタ」が結構いて、「モーニング娘。」がつまんなくなりかけてきた2003~4年ぐらいに、いろんなところに流れていったわけですね。その中で、秋葉原でのイベントを中心に、定期的に活動してたPerfumeのファンになったって人が意外といた。Perfumeが一貫してやってきたテクノポップは、モーニング娘。をはじめとするハロプロの音楽とも融和性が高く、流れやすかったんでしょう。

 そういう人たちが、握手会のたびに何度も握手するためにCDをいっぱい買うんです。彼らの一人が「Perfumeいいよ!」と布教のために配り歩いていたCDを1枚をもらって、それが「モノクロームエフェクト」(全国インディーズ2nd、04年3月発売)だったんです。だけど、もらってすぐには聴かなくて。ちょうどその頃、「笑っていいとも!」の前の時間帯ぐらいのいい時間にスポットCMを流していたんです。それを見ても、それほど興味を引かれなかったというのもあって。

 その後しばらくして、たまたまレンタルビデオ屋にエロビデオを借りに行ったら、有線ですごくいい曲が流れてくるんですよ。アイドルポップスなんだけどテクノっぽくて、それでいて今までちょっと聴いたことがないような、いわゆるベタベタなアイドル感ではない部分で勝負してる曲。ちょっと変わった歌だなと思って、エロビデオを借りるのを急遽取りやめて、サビの部分の歌詞を覚えて家に帰ってネットで検索したんですよ。そしたらそれが「ビタミンドロップ」(全
国インディーズ3rd、04年9月発売)だとわかって。で、家にあった「モノクロームエフェクト」のCDもあわてて開封して聴いてみた。それが最初ですね。「あ、あのときもらったCDか」って、家で検索してやっとわかったんです。その頃に丁度イベント出演のオファーがあった。縁のあるときは重なるもんですね。その後もCD発売記念イベントの司会だとかで、今まで何度となく一緒に仕事をさせてもらいました。

 宇多丸 連載(BUBKA連載のアイドル音楽批評コラム「宇多丸のマブ論」)で取り上げたのは「モノクロームエフェクト」のときが最初です。それより前、2003年の夏にフジテレビ主催の「GIRL POP FACTORY」っていう、アイドルもバンドみたいなのも含めて女の子グループばっかり出るお台場のライブイベントがあって、モーニング娘。とかも出るし、連載もやってる都合上、新しい人でいいのがいればなと思って、そのイベントを放送する深夜の番組を見ていたんです。そしたら、その中でPerfumeが「スウィートドーナッツ」(全国インディーズ1st、03年8月発売)を歌っていた。で、曲の出来がはっきりダントツだったので、このグループはいいなと思って、CDを買ってみた。するとカップリングで「ジェニーはご機嫌ななめ」のカ
バーやってたりとか、これは思った以上に作り手が分かってやってるんだな、と感心したんです。プラス、さっき掟さんがおっしゃったように、周りのアイドルファンからの「Perfumeいいですよ」みたいなプッシュもだんだん盛り上がってきて。それで、「ビタミンドロップ」ぐらいのときかな、その中の1人が「ライブがとにかく素晴らしいんで、宇多丸さん1回見てください。メンバーにはもうライムスターのCD渡してます」って(笑)。「何度も渡してるんで、向こうはわかってるはずです」みたいな感じでライブに連れてかれて、まんまとさらにファンになってしまった、みたいな流れ。完全に「Perfumeは間違いない!」ってなったのは、やっぱり「ビタミンドロップ」からですね。「ここまでブレないで、しかもどんどん良くなってるんだから、これは本物だ」って確信しました。 

第2章 ブレない

 宇多丸 僕が彼女たちを「アイドル界最後の希望」って言い出したのは、2005年ですかね。その年、アイドル界的にもいろいろありまして。ああ、やっぱり女性アイドルっていうシーンは、本質的にはこの二十年間ずっと、いわゆる冬の時代のままだったんだな、というようなことを改めてひしひしと感じるときで・・・。ただ、そんな中でも、作品的なクオリティとかコンセプトとかをブレさせずに、地道にとはいえやり続けてる人たちがいるんだから、ここがこんなに誠実にやっててそれでもダメなんだったらもう、それこそこのジャンルは本当にお終いだろう、というようなことを連載に書いたわけです。Photo_3

 いきなり売れたわけでもないのにブレずにいるのは、本当に難しいことなんです。普通は、売れなかったらとりあえず路線をガチャガチャ変えるわけですよ。Perfumeの場合、「Quick Japan」のインタビューで中田ヤスタカさんもおっしゃってますけど、誰かが強い意思を持って「このコンセプトで行く!」ってやっていたわけでもなさそうなのに(笑)……。よく続いたなと、不思議です。

  アイドルポップスでなくても、CDってまず売上げですよね。そのビジネスがビジネスとして成立してないのに、それでも同じ路線で続けていくって、これはもうある一定の信念を持ってないと絶対できないことで。

 宇多丸 そうそう。よっぽど絶対これが正しいと思ってなきゃおかしいはずなんですけどね。アイドルに限った話じゃなくて、僕らはある意味同業者なんで、そこの難しさは骨身に染みてわかってる。

  でも、当時のPerfumeは決して結果を出してるわけじゃなかった。それなのに、なぜ同じ姿勢のまま持続してこれたんでしょうね?

 宇多丸 まあ、いろんな・・・、単に放置されていたからかも(笑)。

  まあ、会社に体力があって、現場スタッフに好き勝手にさせてたっていう状態だったんでしょうね。

 宇多丸 ただ、評価は高いっていうところは多分伝わってたと思うんですよね。

  うん。多分この路線が間違いなく支持を得てるということは、会社側にもなんとなく伝わっていたんでしょうね。そこでアミューズさんがすごいのは、ファンの声を聞く耳を持ってたということで。芸能事務所は往々にして、ファンや外野の声なんて聞き届けないもんですよ。それがPerfumeのスタッフは違っていた。ちゃんとファンの側からのフィードバックを聞き届けて、ある一定の信念の材料としてきたからこそ今日のPerfumeがあるんだと思う。

 宇多丸 PVとかも、ずいぶん前から、お金なんかそんなにかけられないだろうに、すごくちゃんとしたものを作ってるんですよね。あれもね、何なんだろうと。普通、ハロプロだってショボいのはいっぱいあるわけですよ。アートディレクターの関和亮さんですか、この人が一番ある意味、PerfumeのPerfumeらしさを意識的に演出してきた人かもしれないですね。

  中田さんよりも世界観というものを意識してやってる。

 宇多丸 中田さんのある種投げやりさに対して(笑)。

  PV作家は整合性を求められますからね。トータル的なビジュアルイメージを作らなきゃいけないから。 

 宇多丸 この人はアートディレクターとしてジャケ絵も全部やってますからね、整合性も出しやすい。普通はアイドルのCDって、曲調とジャケットとPVが全部バラバラなんてことはザラにあるでしょ。

  リリースを急ぐあまりジャケットが先にできちゃって、曲が後からできるなんてこともあるわけです。結果的になにがやりたいのかボヤケちゃって損をするというパターンは、アイドルにはありがちですよね。

 宇多丸 でも、それってね、商品を作る姿勢として、本来なら許されない怠惰ですよ。だからPerfumeのやり方が、実は当たり前とも言える。

  当たり前のことをやり続ける難しさに耐え切ったんですよ! これは、もう偉業としかいいようがない。

 宇多丸 だって、最初のインディーズデビューから5年ですよ!

  アイドルが5年も売れない状態のままで活動し続けるなんて、本来不可能なんですから!

 宇多丸 ただ生き残るというだけでもありえないのに。

  そんなに商売になっていないアイドルに、定期的にリリースさせ続けてくれるなんて、大手の事務所さんにしろ、例えばインディーズでやってるようなスタイルにしろ、まずありえませんよ。アイドルって普通はデビューに一番力が入っていて、その後売れ行き次第で活動規模が決まっていきますよね。Perfumeの場合、広島の地方アイドルのようなインディーズ形態から小規模に始まって、その後全国流通のインディーズっていうか、「モノクロームエフェクト」の頃は全国のTSUTAYAを中心とした状態の全国流通だったりするんですけど、そのあとに3部作(「リニアモーターガール」「コンピューターシティ」「エレクトロ・ワールド」)と言われる完全なメジャーリリースになりっていう、通常のアイドルの売り方と逆の形態で、ちょっとずつステップアップしてきているんですよ。これはもう、本当にありえないことですね。

 宇多丸 前代未聞ですよ。

  「スウィートドーナッツ」とか、もっと遡って「OMAJINAI☆ペロリ」(広島限定インディーズ1st、02年3月)とか、あの段階でお金をかけてドーンと行かせることは一般的なアイドルでよくあることですよ。だけど、曲が進むに連れて、ちょっとずつ事務所側の本気度が上がってきてるってことはありえない。売上げや世間的認知度がある程度上がってきたこともあるかもしれませんけど、本当に真逆ですね。アイドルというより、バンド的なセールスプロモーションのあり方だとは思うんですが。しかし、よくこれだけこらえてくれたなと思いますよ。

 宇多丸 ホント、よくぞ!っていう感じですよね。

第3章 危機

  でも、やっぱりしんどかったと思いますよ。まず、アミューズが仕掛Photo_4けていたBEE-HIVEっていうアイドル集団構想があって。

 宇多丸 ハロプロみたいなね。

  そう、ハロプロみたいに何組かアイドルがいて、perfumeも当初その一員でした。その人たちを一括りにして売り出そうとして、渋谷公会堂まで借りて鳴り物入りで始めたんです。PerfumeにBuzy、BOYSTYLEとか。定期的に合同イベントを打って、何組かいればその中からモノになるものが出るかもしれない、みたいな。なんだけど、結局どこも売上が上がんなかったということで、2006年の4月の段階でほとんどのグループが解散に追い込まれたんですよ。

 宇多丸 契約を切られちゃったんですね。

  そこでPerfumeだけがなぜか残ったんです。4月の段階で次のシングルのリリースが決まっていたということもあるんでしょうけど。

 宇多丸 その中ではBuzyが、最初は一番力入れられてましたよね。完全にポルノグラフィティの制作布陣で、楽曲もすごく充実してたんだけど、今までのやつを全部まとめたベスト盤・・・ある意味ご祝儀というか卒業記念を出して、「はい、ここで終わり」みたいなことになっちゃった。で、まさにPerfumeもその全部まとめ形態のアルバムを出したわけで、確かにクオリティは素晴らしいんだけど、「でもこれって……例によって終了の合図?」みたいな危惧は、はっきり言ってあった。

  とにかく2006年の8月にアルバムが出るらしいよと。まあ普通にアイドルのファーストアルバムだったら新曲が何曲か入ってるのが当たり前だけど、新曲1曲だけで、ほぼベストアルバム。確かにこれまでの楽曲が充実していたからベストでもいいんだけど、言い換えれば制作費がかかってないってことを表してるわけでしょ? これは普通に考えればおしまいのサインですよね。

 宇多丸 在庫総整理ね。本人たち的にも、周りがどんどんどんどん切られてるのを見てるから、「私たち大丈夫?」っていうのをやっぱり感じたと思うんですよ。実はベスト盤出してからの1年、つまり、すごくラッキーだったこの1年こそが、彼女たちにとっては実は非常に危険な1年だった。

  中田さんは当初「Perfumeのアルバムを作るんだったらベスト盤的なことはやりたくない」と言っていたと聞いたことがあります。やるんだったら完全オリジナルでやりたいと、非常に意欲的だったと。そういう人が結果的にベストアルバムを作っちゃった意味合いの大きさっていうのが浮き彫りになりますよね。

 宇多丸 明らかにポジティブな状況ではなかったと。

第4章 布教

  だからこそ、俺たちがなんとかしなければと思った。Perfumeのような本当に素晴らしい音楽をやっているアイドルが、売れずに消えていく様を何度Photo_5も目の当たりにしてきたんです。Perfumeって本当にいいグループだったねと、後で語り継ぐだけのものにするには惜しすぎた。今度は多少なりとも尽力できる立場にある。スタッフでもないのに、どうやったらPerfumeが売れるかを本気で考えなければと思ったんですよ。俺だけじゃない、Perfumeのファンはみんな同じでした。当時からファンの人に会うたび、みんなが「どうやったら売れますかね?」って、所属事務所の人間でもない俺に聞いてきた。こんなアイドルは初めてですよ。

 まず、今までのように秋葉原の中だけで売っていてもしょうがないだろうと。その頃はまだ、秋葉原を中心としたアイドル数組が出演するイベントを主戦場にしていたんですが、それだけだと広がらないし。秋葉原っていうだけで行きづらい
人がいっぱいいるわけじゃないですか。秋葉原のイベントには基本的にアイドルヲタの人しか来ない。会場の雰囲気が濃すぎて、まず外の世界から入っていけないですよね。アイドルヲタ以外の人にも自信を持って勧められる音楽をやってるんだから、そこはもったいないよと。ちゃんと人目のにつくところに出すのが先決だと、まず自分がよく出演しているライブハウス「新宿ロフト」にブッキングしたんですよ。RAM RIDERだとかNIRGILISだとか、打ち込みとバンドスタイルが合体したような、クラブサウンド風の音楽とワンセットにしてみたら、多分そこからもお客さんが流れてくるんじゃないだろうかと企画を立てて。行きがかり上、自分のバンド「ロマンポルシェ。」も一緒に出て。丁度、「コンピューターシティ」(メジャー2nd、06年1月)が出て、ある一定の音楽的な路線に向かっての完成度っていうんですかね、テクノ的な感じがどんどん上がってた時期だったので、思った以上に受け入れられましたね。

 雑誌媒体では、自分が連載してる雑誌「テレビブロス」に紹介してみました。目に触れる機会さえあれば、あとは今インターネットでどんな音楽なのかを知ることができるじゃないですか。「いいですよ」と薦められてもその実像を確認するまでが、今までの時代は大変だった。だからこそ、マスコミをちゃんと利用しなきゃいけなかったんだけど、今はネットさえあれば、情報の実体をマスコミのフィルターなしに自分の目で見て正当に評価することが可能になっている。動画だけを見て、音楽だけを聴いて評価することができたというのは、今の時代に
ちょうど乗ったというか。そこは幸せだったと思いますね。

 宇多丸 YouTubeとかニコニコ動画とかの発展と無縁じゃないことは間違いない。

  多分、その恩恵を一番受けたのがPerfumeじゃないかと思いますね。写真と文字情報だけで見てると、実はそんなに伝わらないグループでもあるから。その後も細々としたものでありながら勝手に多方面にプロモーションしていきました。それが最終的に、木村カエラの世間的影響力のあるプッシュなり、AC(公共広告機構)のCMなりにつながっていったのなら、これに勝る喜びはないですよね。恫喝まがいなまでにあちこちでPerfumeをプロパガンダしてきたかいがあった。

 宇多丸 「これがわかんないようなやつとは音楽の話したくない。これを否定するってことは、おまえには音楽が聴こえてないってことだ」みたいな。「田舎者には聴こえません」みたいな(笑)。

  制作スタッフの中でファンがいたが故に仕事を依頼されるパターンって、Perfumeの場合結構多いと思うんですよ。例えば、こないだの「QUICK JAPAN」もそう。いつもなら吉本などの売れっ子お笑いタレントの特集をやっている雑誌が、異例とも言える大特集をして、おまけに表紙にまで持ってきた。あそこにもPerfume好きなスタッフがいて、「なにがなんでも特集を組みましょう!」みたいな感じだったと思うんですよね。この読売新聞さんにしてもそうですし、やっぱりPerfume自体が面白いからこそ取り上げてみよう、いや、ぜひ取り上げさせてくださいみたいな、そういう状況が生まれてます。

 俺が「テレビブロス」の担当編集者に持ち込んだときもそれが顕著で。「こういうアイドルがいまして、CDリリースしましたんで、ぜひインタビューしてください」と言っても、本来アイドルを取り上げる雑誌じゃないから「え、なんでですか? なんでそんなことしなきゃいけないの?」みたいなリアクションしか得られなくて。「じゃ、わかりました。CD送っといてください」と、気のない感じで言われたんですよ。ダメだなこりゃと思って。でも、CD送ったら編集者から電話がかかってきて、「CD聴いたんですけど、すごくよかったです! ぜひ2ページ見開きでやらせてください!」って。

 まったく興味のなかった人たちの顔をこちらに向けさせるだけの強度を持ってる音楽ですよね。マスコミ側の人たちが、自分たちが好きだからしがらみに関係なくPerfumeを出してあげようみたいな動きはよくある。マスコミにファンが多い。だからといって、ミュージシャンズ・ミュージシャンみたいな感じでもない。それこそパソコンで読売新聞の記事書きながらでもYouTubeカチッとか、ニコニコ動画カチッとかね(笑)、噂を聞いたらワンクリックで確認できる。で、確認したらやっぱりよかった、「じゃ、特集しましょう」って簡単に事が進む。いい時代になりましたね。

 俺、ずっとトークショーとかの司会で一緒に回ってたんです。3人だけで間が持つか?みたいなことを事務所さんが思ってたみたいで。俺はあの頃でも3人のしゃべりだけで十分できたと思うんですけど、やっぱりまだアウェイな環境に出て行ったとき、外部の人間が話に加わった途端、発言がかしこまって優等生的になってしまう傾向があったんですよ。で、あえて外部の人間として入ってみて、いろんなことをやらせて場数を踏ませてみようと思って。大喜利だとか無茶なことばっかりやらせてね。その結果、あ~ちゃんは当初から天才的なトークの能力を持ってたんですけど、多分のっちとかしゆかのトークのスキルは上がったんじゃないですかね。

 宇多丸 それでさらに全体のバランスが良くなった。

  掟が入るぐらいだったら私たちだけで頑張ろうみたいなことでもあるかもしれないし、あるいは、あ~ちゃんのしゃべりにつっこんでいいんだとか、どこをつっこめばいいんだみたいなものは若干提示できたかなと思います。そういう意味では、やっぱり一緒に仕事してみて無駄じゃなかったですね。まぁ、第三者が入らないで3人で野放しにしゃべらせた方が面白いのでアレなんですけど(笑)。

第5章 魅力

 宇多丸 過去にも、楽曲に力を入れているアイドルは当然いっぱいいたわけです。ただ、この20年間で、女性アイドル歌手というものの市場が次第にファン限定の「閉じた」ものになってゆくにつれて、送り手側も音楽にコストをかけるより、もっと手っ取り早く、手堅く金になる商売の方に流れてゆきがちになってしまった、というのはあると思います。ただ、アイドル史を振り返ってみると、世間にブームを起こすようなターニング・ポイントは、Photo_6やはりちゃんと音楽的なクオリティが高いものが担ってきたんだと思います。例えば松田聖子は、CBSソニーならではの、当時としては垢抜けた音楽的センスをアイドルソングに持ち込んだことで、新時代を切り拓いた。モーニングだってそうですよね。もともとは「アイドルってこういうものだよね」っていう固定観念を打ち破る、新しい方法論を持ち込んだからこそ成功したんで。

 その意味では、Perfumeのブレイクも完全にその定式にのっとっているとも言える。プラス、さっき掟さんがおっしゃったように、今はそれがさらに、お金をかけた大量宣伝などなくても、ネット時代の恩恵で、わりとダイレクトにユーザーに届くようになっている。

  真っ当なことをやってればやってるほど売れなかったりしますよ。それが普通。

 宇多丸 そう。アイドルに限らず音楽全般に、いいものだから売れるっていう正しいことは、滅多に起きない。だからこそ、たまにこういう正しいことが起こると本当にうれしい。

  細野晴臣さんも言ってましたけど、「作った曲がいい曲なのは当たり前、でも売れるかどうかは別」だって。いい曲を作るのは単なる前提だと言ってるんですよね。

 宇多丸 僕は正直、もちろんPerfumeは最高に素晴らしいと思いつつも、今後どれだけPerfumeの作品が広く世間に受け入れられることがあろうとも、最後の最後にやっぱり、「アイドル的である」という壁が残るんじゃないかと、ずっと思ってたんですよ。やっぱりこう、女の子が振付けで踊ってる時点で、世の中の人はバカにするんじゃないかっていう不安が、どうしてもあった。でも、意外とそれは単なる思い込みに過ぎなかったというのを、逆に教えられましたね。アイドルっぽいこと自体がダメなんじゃなかったんだと。

  逆にね、例えば「Perfumeの音楽はクラブミュージックだ」と限定して売ってしまっていたとしたら、一般層が受け入れるのがけっこう大変だったりするもんですよ。オシャレなものをそのまま受け入れるのはスノッブな人間のやることだという思い込みがあるから、「オシャレでない俺がこんなオシャレなものを聴いていいんだろうか」みたいな状態も生まれる。だから、アイドルであることが、オシャレを薄めるための材料にもなっている。

 宇多丸 あ、そうか、逆にどっちの壁も下げてる。

  うん。あとは、今までアイドルに免疫のなかった人ほどそうだと思うんだけど、「アイドルを好きになる」ってところがやはり高いハードルだと思うんですよね。でもね、高いハードルを越えてファンになることが、より入れ込むための材料にもなって、より大きな熱狂を生んでいるんじゃないかと。何の変哲もないいいものを素直に受け入れるのってすごく簡単ですけど、素直に受け入れたものって実は素直に忘れやすいじゃないですか。

 宇多丸 カッコいいのが当たり前なものを、カッコいいものとして聴いただけなら、印象には残りにくい。

  そうそうそう。カッコいいものを当たり前に聴いてカッコいいなと思うだけなら、多分そんなに入れ込めないだろうというかね。障害が多いほど燃えるのが愛ってもんですよ!

 宇多丸 木村カエラとかもきっとそうだと思うけど、女の子がこの超カッコいい音楽に乗せてかわいく踊ってるとか、要するに、アイドルでしか表現できないところがあるからアンテナに引っかかったんで、単にカッコいいハウスミュージックやクラブミュージックが聴きたいんだったら、別にそんなのはほかにいくらでもあるわけだと。

  そうなんですよ。

 宇多丸 アンダーワールド(英国の男性テクノユニット)でいいわけ。ハゲのおっさんがこうやって踊ってればいいわけ。

  ハゲのおっさんがやるよりはかわいい女の子がやったほうが多分、アンダーワールドももっといいアンダーワールドになります。だから、いいアンダーワールドがPerfume(笑)。

 宇多丸 Perfumeはアンダーワールドに勝った!(笑)

  そうそうそう。アンダーワールドのパクリだと言われてる曲も確かにあるんですけど、でも、単にアンダーワールドをパクッて女の子にやらせただけではPerfumeにはならないですからね。やっぱりそれは彼女たちの持ってる声質などが決め手になっている。今、Perfumeの亜流みたいなものも若干出つつありますけど、トラックがほぼ同じに作れても、どうにも声質が音楽に合ってなかったりするんですよ。かしゆかの声質が非常にプラスチックで、Perfumeの世界観にものすごく合ってるんですけど、それだけだと多分、単なるオシャレなものになっ
てしまう恐れがある。それで、その中にちょっと異物な感じの、若干もうちょっと人間味を感じさせるような声を持ってるあ~ちゃんやのっちの声が入ってくることによって、なんかバランスがよくなってる。

 宇多丸 バランスはどんどんよくなってますよね。多分中田さんも迷ってた時期はあると思うんだけど、ものすごいクラブミュージック方向にガーッと振り切るとこまで振り切るかなと思ったら、意外とやっぱ3人の声の質とかも考えたプロデュースになってきてるから、そこはどんどん精度が上がってると思うし。

  Perfumeのボーカルって、AUTO TUNEっていうパソコンの録音ソフトの機能を使ってるんですよ。本来ズレた歌の音程を補正するための機能なんですが、それを過剰にかけると歌声がロボットが歌ってるように震えます。だれが歌っても同じに聞こえそうなもんですけど、実際にはそうじゃなくて、やっぱり地声の魅力という部分は最終的に残るんですよね。それが亜流みたいなものが出てきたときに、ちょっとわかった。

 宇多丸 なるほどね。

  あとはやっぱりライブを見て、みんなやられちゃうんですよね。こんなにプラスチックな音楽をやってるにもかかわらず、出てきた女の子が全員バリバリに広島弁だというね。

 宇多丸 でね、あのもう天衣無縫という言葉がピッタリ来るしゃべりとね。事務所の規制というか抑圧みたいのをまったく感じさせない。で、それほど好き放題なことを言ってるのにもかかわらず、スレた感じが全然しないどころか、アイドル的としか言いようがない多幸感を醸し出せてるっていうのが、本当に驚異的なところですよね。これはもう、3人の持って生まれた資質と言うほかない。だから、中田さんのサウンドが作り上げた鉄壁の世界観の向うに、本人たちの魅力という、最終的に誰もタッチできない聖域が残る。これこそがやっぱり、要する
にアンダーワールドにアイドルソングが勝利し得る理由なんじゃないかと。

  本当は真実なんだけど言っちゃいけないことってあるじゃないですか。そういうことばかりを選んで言う(笑)。俺がまだ関わっていない頃、ファンの人たちにPerfumeのライブの印象を聞いたら、音楽もいいけどやっぱりしゃべりが面白いと。アイドルのライブでも最前列のほうって、けっこう押し合いへし合いになるんですね。そんなときに大手の事務所さんだったら、「怪我したら困るから1歩下がってください」ってアイドルのほうから言わせて当たり前なんです。でも、この子たちはそうじゃない。客席が押し合いへし合いで、最前列の人がもうお腹に柵が食い込んでるような状態になってるのを見て、あ~ちゃんが「大丈夫、我慢できるよ!」って励ましたっていう、ね。

 宇多丸 大丈夫じゃないよ!(笑)

  確かにそれって非常にファン心理をわかってるというか、そんなときに無茶言うなよってことじゃないですか。「下がってください」なんて言われても、下がれるわけねえんだから。だったら励まされたほうがいいですよね。でも、それは真実なんだけど、本当はアイドルの口から言っちゃいけない。

 宇多丸 あと、インストアライブでね、「いやあ、さすが新宿、カッコいいお客さんが多いですね」とか言っちゃう。ってことは、いつものお客はどうなんだっていう。

  そうそう。それまでずっと秋葉原でイベントやってきたからね。

 宇多丸 でも、秋葉原側の人も、それで全然いやな気持ちはしないでしょ。そこで例えば、80年代半ば以来空洞化する一方のアイドル的ファンタジーを、無理矢理この2007年に作り笑顔で演じられるより、はるかにさわやかですよ。ウソついてないぶん。

第6章 非擬似恋愛対象

  どこかで会った人がすごいイケメンだったとかカッコいいとか、普通に言ってますね。ただ、そこにセクシャルな感じがしないのは、この3人の才能ですよ。Photo_7

 宇多丸 人徳というかね。これは推測ですけど、ほかのアイドルに比べて、ファンが擬似恋愛の対象として捉えている比率が、かなり低いんじゃないかって気がするんですが。

  これには1つの契機があって。AKB48っていうアイドルの最終形態みたいなのが出てきて、いわゆるアイドルヲタからの一方的な恋愛感情の受け皿として一番優秀なものを作っちゃったんですよ。2005年ぐらいのときって、PerfumeからAKBに流れた人、実はものすごい多いんです。

 宇多丸 要は、擬似恋愛がしたい人はみんなAKBに行ったと。だって「会える」んだもんね。

  そう。週に8回公演していて、とにかくアイドルとファンの距離感が近い。擬似恋愛のツールとして優れてますよ。しかも、通ったら通った分だけ特典があるとか。

 宇多丸 覚えてもらえやすいし。

  そういう距離感が近いことを第一に考える人たちはみんなそっちに行っちゃったんです。ハロプロなどのアイドルの現場からも相当流れました。いろんなアイドルのライブ会場から、ヲタ中のヲタというか、もっともハードコアな客層がこの時期すべてAKBに流れたのはすごい。結果としてPerfumeを含めたどこのアイドルのライブ会場もヲタ濃度が薄まった。アイドルヲタ100%の環境の中に一般客が急に入ったら、アイドルよりもまず周りを見てしまって、「この人たちとは一緒にされたくない」って思うと思うんですよ。

 宇多丸 でも、アイドルヲタって、世間からちょっと白眼視されているというのも含めて、あえて自分を差別化しているっていうところは確実にあるでしょ。

  そこも含めて楽しめますよね、今となっては。自分もアイドルヲタだからわかりますけど。

 宇多丸 その意味で、AKBというシステムの割り切り方は、やっぱりすごいはすごいですよね。

  あれはあれで進化ですね。アイドルヲタを極めた者の終着の浜辺というか。たまたま曲に興味がなかったので、俺はそこに入っていけなかったんですけど。

 宇多丸 AKBのアルバムとかはある意味Perfumeの真逆で、「これ、ちゃんとミックスとかマスタリングしてる?」っていうような音質だったりするもんなぁ。

  そこも好みが分かれるところでしょうね。で、AKBにファンの一部が流れていった時期は、Perfumeの歌詞やタイトルの世界観から恋愛濃度が一気に下がっていった時期でもあるんですよね。「リニアモーターガール」の歌詞は特に記号的な言葉が羅列されているだけで、極めてアイドル歌謡曲的じゃない。ウェットに恋愛を歌われているわけじゃないから、女性ファンも入ってきやすい。

 宇多丸 「いわゆるアイドルソング」的な恋愛のイメージって、今の女の子だったらもう、鼻白むだけだと思うんですよ。そういう意味では、Perfumeの歌詞にはそういう子ども騙しの要素はない。いかにもおじさんが考えましたってようなウソくさい若い女の子像とかは絶対出てこない。

  恋愛のニセモノとして作りましたよって作り手側が言い切っちゃってるようなものを、長きに渡ってそのまま受け取らなきゃいけなかった。ともすればユーザーがバカにされてるような状態がけっこうまかり通ってきたのが従来のアイドル歌謡。

 宇多丸 本当そうです。

  我々がアイドル歌謡曲に求めてきたものって、実はもう長いこと擬似恋愛とイコールじゃなかったはずですよね。例えば3部作と言われたものの近未来的な世界観だとか、旧態のアイドル然としたものじゃないアイドルの進化形を提示してくれたと思うんですよ。そういう意味で、Perfumeは好きだと言っても恥ずかしくないアイドルなんですよね。

 アイドルが好きだと公言することって、実はすごくハードルが高いじゃないですか。まあ確かに、それを乗り越えてアイドルヲタになるって楽しみはありますけど、それは世捨て人の嗜みで。世間一般の人たちがアイドルソングに入っていくためには、どんどん擬似恋愛的なものと違った表現を打っていかないといけないというか。

 宇多丸 かわいいことイコール、別に擬似恋愛である必要はないんですよね、まったく。

  ええ。例えばかわいい女の子を見たからといって、すべての女の子を好きにならなければいけないか、ヤりたいと思うかっていったら、そうじゃないですよ!!

 宇多丸 全然違いますよね。

  単純な性欲の対象にしたいなら、今時アイドルである必要はないわけですよ。だからアイドルの歌も別に性を想起させなくていいし、その方が間口が広い。

 宇多丸 一方で、アイドルが盛り下がってきた要因の一因として、AVの浸透というのもあると思うんです。

  そうですね。

 宇多丸 擬似恋愛の終着点としての性欲処理ってことで言えば、今やAVやグラビアが十分にその役割を果たしている。だから、アイドルが担うべきは、実は全然そこじゃなかったってことですよね。

  清楚っていうことがもうウソとしてしかまかり通らないと思われてたわけですよ。でも、そうじゃなくて、清楚っていうのは単純に、セクシャルな匂いを感じさせなければそれでいいということでもありますよね。じゃあ、セクシャル以外の何を匂わせるんだってことです。アイドルって女の子がやってるものだからというだけで、セクシャルなのものを売りにさせられちゃう。しかも、年齢が重なってくると、成長の証として性を売り物にしなきゃいけなくなっちゃうんで
すね。

 宇多丸 それがおじさん発想の限界ですよね。

  実はもう誰も、アイドルポップスの中に性的な要素を求めてなんかいない。できるだけそういったオヤジ目線の性的なものから遠ざかりたいからこそ、アイドルポップスを聴いてる部分はありますよ。

 宇多丸 世俗的なところを超えた多幸感を味わいたくて……

  そうですね。もうだから、言ってみれば宗教的な法悦とかに近いですよ。俗世の色や欲に疲れた者の心を洗ってくれるためのものっていうんですかね。すごく満ち足りた気持ちにはなりたい、けれども、それは別に率直な欲望を満たすだけではないという。

 宇多丸 これは本当、改めて声を大にして言っておきたいですね。アイドルに擬似恋愛とかっていうのは、別に本質じゃないって!全然。

  本質じゃないし、実は本質じゃないことはみんなが気づいてたはずだと。それが細分化されていったことによってよくわかったというところはあります。だからね、仮にPerfumeも彼氏ができたりとか、そういうことが写真週刊誌とかに取り上げられたりしたときに、もしもファンが揺るがなかったら、これは本当に本物だという言い切りもできるはずです。

 宇多丸 ファンも問われる瞬間ですけどね。

  音楽さえちゃんとしていれば、そこの部分は揺るぎないものであると信じている。まあ、そこまで言い切っちゃえるかどうかわかんないけど、それが本物かどうかというのは、そのとき問われるかもしれない。

 宇多丸 そこはファジーでもありますけどね。ただやっぱここ最近の傾向としてはさ、そういうのがバレる、そうするとファンがだれよりも叩くっていうのがあるから。そこでPerfumeファンは、さあ、じゃあ、どういう質なのかっていうのを問われるところでもあるだろうし。

  いろんな人が今入ってきてますからね、叩く人も出てくるでしょう、きっと。でも、叩く人は絶対的に少ないと信じています。

 宇多丸 うん。Perfumeのファンに関しては、俺もそんな気がします。

Photo_8 第7章 サウンド

  Perfumeのトラックはテクノサウンドですけど、例えばテクノポップみたいなものって、アイドルの場合はこれまで、カンフル剤的に使われてきたんですね。ベタベタな清純派の路線から始まって、それで売れなくなってきたときに、「じゃ、ちょっとプロデューサー変えてみて、今風な曲にしてもらいましょう
か」となって、入ってくるのが今までのアイドルとテクノの関係だった。最初から一貫してテクノとしてプロデュースしてきたアイドルってほとんどいなくて、いてもマイナーだった。唯一、90年代に宍戸留美さんがやったぐらいかな、成功例としては。でもそれはワンプロデューサーで任されちゃって、要するに予算が少ないから、たまたまテクノになったっていう世界だったんですね。

 宇多丸 まあその基礎にはもちろん、80年代に、当時最先端だったテクノ~ニューウェーブ人材が歌謡曲界へ流入してアイドル全盛期の一端を担った、という歴史的記憶があるわけですが。ただ、メジャーデビュー以降のPerfumeは、80'sテクノポップっていうよりは、現在進行形のクラブミュージックにシフト・チェンジしましたけどね。ミックスやマスタリングの仕方がもう、完全にフロア向け。

  あれだけ低音の入ってるアイドルソングなんて本来ありえないですからね。

 宇多丸 DJやっていて、普通のJポップと一緒に混ぜてかけるときに、中田
ヤスタカのプロデュースのやつってさ、困りません? 音圧がすごすぎて。

  そうなんですよ。

 宇多丸 普通が100だとしたら、45%ぐらいにしないと音のガッツがあり過ぎて並べてかけられない。

  異常に音の厚みがありすぎるんで、ほかのものから浮いてしまうっていうところもあります。

 宇多丸 最高にいいスピーカーのシステムがないと鳴らしきれないくらい。普通のJポップだってパソコンから出る音を想定して作ったようなものばっかりの中でね。だから、AKBのその「マスタリングしてるの? これ」っていうペナペナさは、「別にパソコンで聴くんなら関係ねえだろ、おまえら」って感じなのかもね。

  (笑)まあ、あれは割り切ってますね、すごく。

 宇多丸 中田ヤスタカは、アイドルとかそういうものにまったく興味がない人でしょう。もっと言えば、Perfumeにすら多分そんなに興味がない。

  ないでしょうね。

 宇多丸 そういう、「アイドルってこういうもの」っていう思い込みがない人が作ってるからこそ、その世界を革新できたわけです。

  自分の作りたい音楽、アイドルにこんなことやらせたら面白いだろうな、というのが最初からあったんでしょうね。QJでも中田ヤスタカは「最初、事務所さんの意向を汲んで、ちょっとベタなアイドル風80年代テイストを入れときましたよ。でも、僕がやりたいのはそういうのじゃなくて、最初からやりたいことは決まってた」とやっぱり言っている。

 宇多丸 初めのうちのその折衷が、結果としてよかったところもあるけど。

  まあ、それもありますよね。最初からいきなりあの3部作的なものをやられても、多分だれも受け入れられなかったと思います。

 宇多丸 「リニアモーターガール」が最初だったら・・・。

  単発で終わっちゃった可能性はありますよね。カンフル剤って、やはり最初から打つには刺激が強すぎるからカンフルなんだろうし。免疫抵抗力をつけるには徐々に入れていくのが重要で。Perfumeは、最初広島の地方アイドルで、パッパラー河合さんがプロデュースしたいわゆる普通のアイドルソングから始まってますよね。それがいきなり切り替わって、「じゃ、クラブミュージックです、どうぞ」って言っても、本人たちにも身につかないだろうし、大人が勝手にプロデュースして入ったなっていう思惑を感じさせてしまって、入り込めなかっ
たかもしれない。 

 宇多丸 だから、その意味では、シフトチェンジが絶妙でしたよね。

  そうですよね。

 宇多丸 すべてのシフトチェンジが絶妙なんだけど、その絶妙さ加減をだれが匙加減してたかというと、だれも匙加減してない。

  コントロールしてなかったんですよ。

 宇多丸 だから、もう「神の見えざる手」としか言いようがない(笑)。いや、でもね、これってあながち冗談でもなくて、要は神の見えざる手=市場原理ってことじゃないですか。車でも家電でも何でもいいですけど、厳しい競争市場にある商品だったらどこでも当たり前にやっているであろう、ユーザーの意見も微妙に取り入れつつ、品質向上努力をする、みたいなことを、アイドルソングでちゃんとやってきた結果ではあるわけでしょう。その意味では、音楽業界は
ずっと、必ずしも健全な自由競争市場とは言えなかったかも知れない。それがネット時代になって、部分的にであれ自由市場に近い状態が現出したときに、まずその恩恵を受けたのが彼女たち、ということなんじゃないかと。逆に、これまでの閉じた市場に甘えたままの商品は、今後は駆逐されていくんじゃないですか、どんどんどんどん。

  けっこう今、Perfumeの音楽性が固定しつつあるじゃないですか。一度固定させてしまっていいんだけども、そうなると次のネタを求められるっていうのがありますよね。

 宇多丸 でもね、COLTEMONIKHA(中田ヤスタカプロデュース)のアルバムとか聴いてると、けっこう引き出しはある人ですよ。別に4つ打ちだけじゃないから。思ったより引き出しがある人だってのが最近わかってきた。

  とりあえずは、今の路線をどこまで引っ張れるかじゃないですかね。

 宇多丸 まあね。でも、成長してるし。だから、いい意味で同じ路線を成長させてると思うんですよね。「ポリリズム」は本当に見事。

  そうですね。あんなに素晴らしい曲になるとは最初はわからなかった。コンサートで初披露されたとき、いわゆるポリリズムになってる間奏部がなかったんですよ、まだ。

 宇多丸 最初の状態からまたどんどん作り込むんですよね。

  アイドルの中での禁じ手というか、アイドルに必要ないと思われていた音楽の手法を率先して取り入れている。

 宇多丸 そうですね。だって、そもそも歌じゃない部分が多いですよね、Perfumeの曲は。

  ボーカルのかわいさを売りにするのが、ある意味アイドルビジネスの本懐ともいえるじゃないですか。だけど、声にオートチューンかけて思い切りよく変調させちゃう。「ポリリズム」に至っては、サンプリングのような形でカットアップして聞かせてるっていう。反則だらけなんだけど、そこがまた痛快で。

 宇多丸 僕がよく言うのは、「コンピューターシティ」の歌詞で、なんでこういう音楽像にしてるかという説明にもなってるっていう。「全体は作り物です。でも、その奥にあるものは本物です」っていう説明を見事にしてて。中田さんって人はどこまで意識してやってるのかわんないけど、全部自分で作ってるだけのことはあって、やっていることに整合性がある。

  中田さんが商業作家としてうまいのは、いろんなプロデュース作品があるのに、ちゃんとそれぞれ独自の路線を持たせてるってことですよね。PerfumeにはPerfumeのオリジナリティがあって、他とはかぶってないのがすごい。

 宇多丸 うん。プロデューサーとしての確かな視点はすごく持ってる人だと思うんです。

  鈴木亜美に書いた曲もMegに書いた曲も、ちょっとずつ系統が異なっていて。

 宇多丸 そうなんですよ。プロデュースする相手によってアプローチをちゃんと変えてきてる。

  音色は同じ中田節でありながら、ちゃんとメロディラインのクセの持たせ方をちょっとずつ変えてるんですよね。

 宇多丸 一番ビックリしたのはやっぱり嘉陽愛子ですよね。ユーロで来るかって。そうなんだ、できるんだ、こういうのも、みたいな。

  ともすれば安っぽく聴こえるような音ではあるけど、アイドルソングとしてベストなアレンジでしたよね。作家性の幅の広さがわかる。プロデューサーって何々節を作るってところが先決じゃないですか。「この作家はこういう音楽を作る人だ」っていう独自の作風ができるまでがまず大変だと思うんですけど、それができたあとに、さらにそこにある程度幅を持たせるってことが非常に難しいことだと思うんです。かつてのプロデューサーでも、それができてきた人はやっぱり最終的に生き残ってきましたよね。1色しかできない人はやっぱり、その1
色だけが売り切れちゃったらもうおしまいみたいな。

 だから、そういう意味では1色しか作れない人じゃないから、Perfumeも今後の展開にまだ期待していいんじゃないかなとは思いました。「節(ぶし)」を持っていながら、その「節(ぶし)」の中にバリエーションを持たせられるというだけの才能を、ほかのプロデュース作品から感じたので。

 宇多丸 「セブンスヘヴン」(「ポリリズム」のカップリング曲)みたいなエモーショナルな曲も作れるし。

  ちょっと泣かせ物みたいな。メンバーに対してニッコリ笑って「こういうの好きっしょ」って言ったらしいですよ。狙いすまして作りましたよ、みたいな。

 宇多丸 いやな感じだ!

  いやな感じだけど、「ちくしょう、まあ、すごくいい曲だから、しょうがない」みたいなね。

 宇多丸 「残念ながらいい曲だ」っていう。

  「すいません、狙いすましてくださってありがとうございます!」みたいな。俺、1回だけ中田さんに会ったことあるんですけど、もう「ありがとう」しか言えなかったですね。「これからもPerfumeにいい曲書いてください。ありがとう」って。

 宇多丸 ああ、だから、これから望むことは、「中田さん、これからもPerfumeにいい曲をよろしく」ってことですよ。

  うん、それだけですね。突然、「プロデューサーが変わりました」って言われてもね。そういうのはだれも望んでないってことだけはわかってほしいですね。まあ、多分スタッフの方も、中田ヤスタカ以外はありえないとは思ってると思います。ただ中田さんの労働量からして、今Perfumeだけに取り掛かれないから、例えばほかの作家さんを今度アルバム作るときに入れちゃう可能性もなくはないんじゃ……

 宇多丸 ああ、それは違う!

  それが一番怖いとこです。

 宇多丸 それは全然違う。ここまで来たら、一貫した世界観でガッチガチに構築されたコンセプト・アルバムとかじゃないともう、誰も納得しないでしょう……まぁでも、ほかのアイドルだったら、そういうすべてを台無しにするようなディレクション、普通にありますからね。

  そこだけですね。中田さんの仕事量の多さがやっぱり今一番怖いところ。中田ヤスタカさんがあまりにもPerfumeで成功してしまったことによって、ほかの人からの依頼が来すぎて、Perfumeばかりに取り掛かれないっていう現状があるわけです。

 宇多丸 ただ、中田さん本人も、自分が完全にコントロールして作ったCOLTEMONIKHAとかcapsuleとは違うマジックがPerfumeに起きてるっていうのはわかってるだろうし。ただまぁ、マジックだけにコントロールできない、という問題もあるんだけど。とにかく中田さんは今、Perfumeでこそ勝負すべきですよ!

  なんだけど、オリジナルアルバムとか出してますからね。

 宇多丸 もうCOLTEMONIKHA、気合いの入ったアルバムでしたよ。いいアルバムだったなあ、くそう。

第8章 奇跡

 宇多丸 ベスト(「Perfume~Complete Best~」、Photo_906年8月)出して、「チョコレイト・ディスコ」(メジャー4th「Fan Service」収録、07年2月)のリリースが決まる、ちょうど狭間の時期に、彼女らと雑誌で対談したんですけど、そのときはやっぱ、3人ともすごく先行きを不安がってました。

  3部作終わっちゃったよね、みたいな。

 宇多丸 そしたらマネージャーさんが、「いや、実はレコーディング決まったよ」と。それが後の「チョコレイト・ディスコ」だったんですけど、そこでひとまず一同「ああ、よかった!」って。

  ベストアルバムの売上げがある程度の数字に達しないと解雇されるだろうという行く末は、彼女たちにも見えてたんですね。

 宇多丸 あれは初回1万枚でしたっけ。初回で1万もけっこう多いほうです、このジャンルではちなみに。

  アイドルソングで1万売れるなんて、いまどきもうハロプロ以外にはありえませんからね。

 宇多丸 だから初回は多分、全部は「はけない」前提での1万。Perfumeは一部で評判いいみたいだから一応このくらい行っといてもいいか、の1万です。そこで終わりでもおかしくなかった。それを、1年かけて5万売ったんですから!

  ありえないですよ。アイドルソングは初回プレスっていうか、初週で売り切らなかったら意味のないジャンルなんですよ。

 宇多丸 アイドルは特にね。いや、ほかのジャンルも今はそうなりつつありますよ。もう売り出して1か月間のプロモーションが勝負って考え方ですよ、レコード会社は。

  かわいい女の子を応援したいだけの気持ちや、握手会イベントありきの付随商品としてのCDだったら、やっぱり発売2週目から売れなくなっちゃう。ファンが買ったらおしまい。でも、新しく入ってきた人がどんどんどんどん、これは純粋にいいもんだって買っていく音楽がやっぱり本物じゃないですか。

 宇多丸 言い方は悪いけど、ちょっと前までだれも知らないB級アイドルだったわけですよ、事実上。それがオリコンの4位に入るというこの振り幅は、多分僕の一生で、もう二度と経験できないと思う。こんなこと見たことあります? アイドル史上。

  いや、ないですね、全然。我々、ハロープロジェクトが出てきたときにあれだけ乗って、そこから間の寂しい何年間があったからこそっていうところもありますよ。本当、だから奇跡ですよ。ありえないことが起きちゃったってことです。

 宇多丸 本当そうです。

  本人たちが一番ピンと来てないかもしれないですよ、そういう意味じゃ。

 宇多丸 ま、やってることはずっと同じだったわけですからね。

  でも、その数年間のあいだで、例えばトークの技術にしろ、歌の技量にしろ、かなり上がってると思いますよ。

 宇多丸 そうです。そりゃそうです。

  ダンスはアクターズスクール出身なんで、専門というような意識があったでしょうから。

 宇多丸 いや、でもそこ、意外と大きいですよね。フォロワーとかと比べると、「あ、Perfumeって踊りもすげえなあ」みたいな。

  似たようなものが出てきたときに、追随させないための要素をけっこう持ってるんです。

 宇多丸 意外とそうですよね、確かに。むしろ一番模倣しやすいのはサウンドかもしれないというぐらいで。

  やってみたら曲以外の部分が何も似せられなかったみたいな、そういう結末が意外とあったんです。それが正直ビックリしましたね。

 宇多丸 美しいなぁ。

  そろそろ誰かやるだろうなと思ってたら、最近になってフォロワーが出てきたんです。でも、同じような曲なのに、それほどクオリティの高さを感じないのはなぜなんだろうと。

 宇多丸 やっぱり、一貫した路線で少しずつブラッシュアップしてる結果ですよ。僕らファンだとずっと見てるから逆にわかんないけど、実はとんでもない地点にきてたという。

  今から入ったら、相当クオリティの高いものを見られる。それこそ、今から過去にたどっていく人って、すごく楽しいと思いますよ。

 宇多丸 そうですね。「初期はこんなだったのか!」っていう驚きもあるだろうし。

  で、過去を知ってる人たちも、これだけ世間の方々に受け入れられてきた歴史をPerfumeと一緒に逐一体験できたということは、これほど幸せなことはない。でも、広島時代から追っかけてきてる人もいますけど、あの頃とは随分かけ離れたところに来ましたよね。まだ一般的なアイドル像を追おうとしてた初期のままの状態では今日の成功はなかっただろうけど。本人たちも一般的なアイドル像しか浮かばなかっただろうし。

 宇多丸 だってね、それ以外のビジョン、世界中のだれも持ってないんですから。

  ファンも作り手も、評論家である我々でさえもね。Perfumeの新曲を評して、宇多丸さんは「正義は勝つ」っていう言葉を使ってましたけど、本当に毎回ライブを見て、ちょっとウルッと来るのは、やっぱり正義が勝ってる様を見ちゃうからなんでしょうね。

 宇多丸 アイドル好きにとって、この二十数年間は基本的に、「正義なんか勝たないよ。この世は闇だよ!」っていうことばっかりだったわけですよ。もう本当、なんでこんなの好きなんだろうって自分を呪うようなね。

  毎度毎度、期待を裏切られてね。いいと言って評価してた音楽が、事務所のシフトチェンジにより、「じゃ、違うのやってみましょうか」みたいな簡単な一存で、あっさりダメにされていくんです。

 宇多丸 こっちがいくら全力で「今回の曲はすごくいいですよー!」って応援しても、あらゆる意味で何のリアクションもなくてね。あとは、「相変わらずそういうことやってっから世間の人にバカにされんだよ」っていうような、おかしな古びたアイドル管理の仕方とかね。あれ言うな、これ言うな、フライデーされたらクビ……何を誰に謝ってるかわからない謝罪が出たりしてね。

 Perfumeもこれだけ売れちゃったから、今後は事務所の意向が必要以上に介入してくる恐れがある。だから、それは気をつけてくださいねと、重々気をつけてくださいねと言いたいです。

  でも、アミューズさんという事務所自体が、作家性を大事にしてくれる事務所ではあるんですよね。

 宇多丸 そうですよね。やっぱりもとがアーティスト事務所というかミュージシャン事務所ですからね。

  サザンオールスターズが新曲を出す前には会議があるらしいんですよ。それも、スタッフの会議じゃなくて、全国のファンクラブの支部長クラスが全国から寄り集まって、次のサザンに望むものを語り合うって。そこで合議制で新曲の曲調とかがある程度決まったりするって。

 宇多丸 そんなシステムがあるんだ!

  ファンの声を汲み上げようという気持ちは一番持ってる事務所だと思います。もし変化することが時代の要請で、ファンの要請だったら、そこは変えるつもりはありますよって。売れてるアーティストを大事にするために、バーターで売り込みはしないという、そういう信念も持ってる。

 宇多丸 とにかくやっぱり彼女たち、本当にすごく性根のいい子たちだし。管理なんかしなくても全然、そのまんまでアイドル的なわけですよ。

  本物の性根のよさを持っていることがにじみ出るから、関わった人も、ファンも、全員が彼女たちを心の底から応援できる。

 宇多丸 だって、あれだけ本当のことしか言わないのに、いやな感じはしないのは……

  性根がいいからでしょうね。「ああ、この子が言うんだったら許せるな」っていう人徳みたいなのがありますし。

 宇多丸 その意味で本当にPerfumeは、アイドルにとって一番必要なものだけが残ってるみたいな感じだと思います。決してさ、例えば美形という意味ではトップクラスってわけではないわけです。つまり、そこでアイドルの価値が決まるわけじゃない。

  女の子とのコミュニケーションのスタイルがすごく分化されてったひとつの結果なんでしょうね。例えばAVを見れば性欲が満たされる。グラビアアイドルみたいなものを見れば、かわいい女の子を見たいという欲求が満たされる。だけど、アイドルソングを聴くという上でどんな欲求を満たせばいいんだろうというのが、多分みんな見えてなかったと思うんです。それをやっと形にしてあげたというか。アイドルにまとわりついていた余計な要素を取り払ったあとで残ったものというんですかね、最終的に。それがPerfumeなんじゃないかなって気がし
ますね。

 宇多丸 で、それを作ってったのは、だから、だれでもない……

  神の見えざる手(笑)。

 宇多丸 今後は、ものすごい今の大きな話からするとつまんないことになっちゃうけど、ちゃんとオリジナルアルバムを作ってほしいですね。

  ああ、そうですね。リリースしてない曲なんかもけっこうありますしね。で、それはその今の世界観に相反するものではないので、一度ちゃんと1枚にまとめてほしいなという気持ちはありますね。今の世界観をきっちり突き詰めたちゃんとしたアルバムを、全曲オリジナルでとは言いませんが、作っていただきたいですね。

 宇多丸 いや、もうそんなのができたら、だってあのベスト盤の時点で僕、連載で満点つけてんのに、何点つければいいのかわからないっていう。

  死ぬかもしれない(笑)。

 宇多丸 もう死ぬしかない(笑)。

  良すぎて死ぬ(笑)。

 宇多丸 そのくらいの勢いですよ。

  しかし、もう今はいろんな方が評価してくださるので、多分俺なんか全然介入しなくてもいいだけのとこ来ちゃいましたから。できれば、もう俺とかのイメージは一切なくしてもらって。俺が推してるってことで、よくない影響がね……

 宇多丸 いや、本当ですよ。

  本当に。木村カエラが推してるってことでいったほうがやっぱりいいですよ。

 宇多丸 僕らは静かに身を引こうよ。

  掟ポルシェがなんで? そんな芸人風情が!? みたいな話じゃないですか。

 宇多丸 「申し訳ないと」出たとか、そういうのはもう黒歴史にしたほうがい
いよ。

 記者 お忙しい中、本当にありがとうございました。

  すみません。長々と話してしまいました。

 宇多丸 いやいや、本当我がことのように・・・ね。

  うん。でも本当にわがことのように、よかったと思えます。ライブの最中にあ~ちゃんとかしゆかがよく泣くんですけど、それ見てちょっともらい泣きしちゃうんでよね。ま、のっちは基本的にあまり泣かないんですけど、泣いてる二人の横で気丈にまとめようとしてるのを見てまた泣けてくる。

 宇多丸 いや、僕なんかよりずっと、ちゃんと現場いつも行ってるような人とかだったら、もうその思い入れたるやね。

  正義が勝った瞬間みたいなものを毎回毎回味わえる。最近のライブなんか、毎回そうでしょうね。いつも泣いてる気がする(笑)。ライブ会場のキャパも倍々ゲームで来てるんですけど、追いつかないんですよ。

 宇多丸 だって入りきらないでしょう、もう。

  入り切らないですね。今のレベルならZepp TOKYOでやっと入り切るぐらいじゃないですか。潜在的な人口と1回見てみたいって人を全部入れてみて、入り切るのが多分4000とかそのぐらいじゃないですかね。アイドルというものを通して心洗われたいという人口は今後どこまで増えるのか、まだまだ楽しみですね。

 記者 ちゃんとインタビューの本文中にも掟さんと宇多丸さんの名前は出てくると思いますので。

 宇多丸 ああ、そうですか。いや、もう僕たちのことは忘れてくれって言っておいてください。

 記者 「掟さんのような変な人にしかわかってもらえないのかなと思ってた」みたいな(笑)。

  えっ、変な? 変な人扱い!?(笑)。ガクッ……。

 記者 「宇多丸さんも褒めてくれるけど、『あ、宇多丸さんもそっち系の人なのかな』とか思った」って(笑)。

  そっち系(笑)。「オタク? オタク?」みたいな話?

 宇多丸 ひでえなあ(笑)。

  「ヒップホップやってるんだけど、本当はオタクなんだ?」って。

 記者 そういうことを言うところが彼女たちのいいとこなのかなと思いました。

  ガクッ……(笑)。

 宇多丸 ガクッ……(笑)。

  いやあ、やっぱりもうちょっといろいろ真面目にやっとくべきだった。ガクッ……。

 

 (対談終了後)

  ヘン……変わり者? 何でしたっけ。

 宇多丸 変な人。「掟さんみたいな変な人にしか、変な人にしか人気がないの
かな」(笑)。

  と彼女たちは悩んでいた、みたいな(笑)。うれしくねえ!

 宇多丸 ひどすぎる(笑)。

  そんな気持ちで見ていたのか、今まで。

 宇多丸 優しく接してくれていると思っていたのに!

  このやろう!(笑)

 宇多丸 これ以上嫌わないで!(笑)

 読売新聞の水曜夕刊に掲載されている新感覚のカルチャー面。旬の文化を大胆なレイアウトで紹介する見開き紙面や、お笑いタレントらによるニュース解説など、若手記者が中心になって作ります。

 「Pop Style」編集担当でおたく業界にも詳しい(福)こと福田淳記者にとって初の会社公認ブログ。取材の舞台裏や身辺雑記をつづります。

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