【コラム】
システムの評価、できてますか?
(2) 定性的と定量的って?
2006/12/13
先を急ぐ前に、「システムの定量的な評価が重要」といった場合の「定量的」という言葉について、ちょっと考えておこう。
筆者はバリバリの文系出身で、こういった語彙にはあまり馴染みがなかったのだが、IT業界にいると、日常会話の中でも定量的とか定性的といった物言いがポンポン出てくる。どうやら、理系大学の研究室なんかだと、結構フツーに使われる言葉であるらしい。思うに、IT業界で使われる際のソレは、科学研究の方法論で論じられるソレと同じ、もしくは近い文脈で使われるものなのだろう。
たとえばWikipediaによれば、「定量的研究」とは「対象の量的な側面に注目し、数値を用いた記述、分析を伴う研究」であり、対をなす「定性的研究」は「対象の質的な側面に注目した研究」であるという。興味深いのは、定量的研究が量的な側面に「注目」するだけでなく、「数値を用いた記述・分析」を要求している点である。もちろんWikipedia中の解説のみをもってこれらの方法論を完全に理解・定義できるわけではないが、それでも、この解説文の違いはそれぞれの特徴をよく表しているな、と感じるのである。
「定量的」なハナシと「定性的」なハナシについて、筆者なりの理解をちょっと例を挙げてお話しておこう。
米国の人気ドラマシリーズに「24」というのがある。って、だいたい皆さん観てますよね? テロ対策ユニット(CTU)に所属する捜査官ジャック・バウアーが、24時間テロリストと闘って右往左往する物語である。すでに5作ほど制作されているが、その3作目「Season 3」では、新種のウィルスによる生物化学テロの脅威が描かれている。で、前半の2話目あたりで、大統領が恋人でもある医師に、生物化学テロが実行された場合に想定しうる被害について意見を求めるシーンがある。うろおぼえだが、医師の答えはだいたい以下のような主旨のものだったと思う。
「このウィルスは新種の肺炎ウィルスで感染力が極めて強く、発病するとまず助からりません」
この場面では、大統領は彼女に、テロに対抗するための「専門家」としての見解を求めているはずである。にも関わらず、残念ながら彼女の答えは極めて曖昧。なぜならば、そこには「量的な側面への注目」も、「量的な記述・分析」も無いからである。つまり、彼女は新種のウィルスに対して「定性的な」評価しか行っていないのだ。
ここで、皆さんに大統領の立場になって考えてもらいたい。数億の国民をテロの脅威から救うために、極めてシビアな判断を下さねばならない立場だ。さて、彼女から得た情報をもとに、一体どんな判断が下せるだろうか。「なんだかわからないが、感染力が強くて致死率も高いウィルスがバラまかれるかもしれないので危険かもしれない」みたいな情報では、何の役にも立たないことがわかるだろう。
まあ、彼女にとっても未知のウィルスだっただろうから、的を射た回答ができなかったのは仕方がない。では、もしも彼女がこのウィルスに対して充分な知識を持っていたとしたら、どのように回答するのが望ましいだろうか。おそらく、こんな答えになるのではないか。
「○グラムのウィルスがまかれたとしたら、その後○時間以内に○○万人が感染、○時間以内に感染者のうち○%が発症する可能性が○%あります。発症した人のうち○%が○度以上の高熱を出し、○%が○日以内に死亡するでしょう。」
このように明確な数値があれば、大統領は様々な判断が可能になる。ウィルスが致命的に危険なものならば、ターゲットになりそうな都市に緊急避難命令を出すこともできるし、万一ウィルスの拡散が防げなくとも、ワクチンを何日で用意できれば何人助けられる、という目算が立つ。これは、企業の情報システムでも同じである。もしあなたが企業のシステム担当者なら、経営者から意見を求められる場面では、可能な限り「定量的な記述」で答えるべきだ。
さて、一応誤解の無いように言っておくと、「定性的」がダメで「定量的」が優れているということでは決してない。
文学のように定性的な方法論の方が似合う分野はあるし、システムの評価を質的な視点から行うことも重要である。そもそも、「UIの使いやすさ」のような、多分に感覚的な要素も含む対象を、定量的な観点からのみ評価しようとするのも無理な話である。
要するに本コラムで筆者がお話ししていきたいのは、本来定量的に評価されるべき対象であっても、今は定性的にしか評価されていないことって多くありませんか? ということなのである。漠然とした曖昧な表現は日本人の美徳であると声を大にして言いたいが、だからといって評価を曖昧にするのは好ましい態度とは言えない。評価は評価として、きちんとしていきましょう、じゃあそのための方法はどうしましょう? というのが、当コラムの基本的なテーマである。
なお、拙文の評価も、できれば定量的に行って頂けると助かります。内容の質さえ問われなければ何文字でも書きますので……
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