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禁煙タクシー、大阪で広がらず 規制緩和で「激戦区」に

2007年10月30日

 関西で「禁煙タクシー」が広がらない。特に約2万4千台を抱える大阪では、業界団体が今夏に実施したアンケートで加盟社の過半数が反対し、全面禁煙化が先延ばしになった。今年に入って神奈川や大分など6県が全面禁煙に踏み切り、11月からは愛知や千葉など3県も加わる。関西の動きが鈍い背景に、02年の規制緩和以降、激しい客の奪い合いが展開されている「タクシー激戦区」の現状が浮かび上がる。

写真大阪・キタの繁華街で客を待つタクシーの列。「台数が多すぎる」と運転手は嘆く=大阪市北区で

 「繁華街から乗る酔客や飲み屋のママさんには喫煙者が多い。禁煙タクシーにしたら、生活できなくなる」

 今月中旬のある夜、大阪・ミナミの路上で客待ちをしていたタクシーの男性運転手(52)がか細い声でつぶやいた。タクシー歴10年。02年に国が運賃や業者数の規制を緩和した後、ミナミやキタは酔客らを狙う空車のタクシーであふれるようになった。入社した頃、1日4万円以上あった売り上げは今、3万円を割り込む。パートで働く妻の収入のおかげで、大学生と高校生の息子2人を何とか養っていける。

 5年前、ヘビースモーカーだった義父が肺がんで亡くなったのを機にたばこをやめた。今では車内で客が吸うと、気分が悪くなる。次に乗せた客から「くさい」と言われることもあるが、平謝りして我慢してもらっている。「客1人を乗せるのにも四苦八苦している現状では、こちらから『吸うなら乗らないで』なんて言えない。そんなことをしたら、大切な客が喫煙できるタクシーに流れてしまう」

 タクシー禁煙化の流れは、公共交通機関に受動喫煙防止への努力義務を課した03年の健康増進法施行をきっかけに広がった。社団法人全国乗用自動車連合会などによると、今年に入り、一部の個人タクシーなどを除いて神奈川、山梨、長野、富山、静岡、大分の6県が全面禁煙化。11月からは愛知、岐阜、千葉の3県が加わる。全国最多のタクシーが走る東京でも、都内の9割近くのタクシー会社で組織する「東京乗用旅客自動車協会」(約3万4千台)が来年1月から導入する。

 こうした動きを受け、大阪府内に拠点を置くタクシー会社の約7割(153社)が加盟する「大阪タクシー協会」(大阪市)は今年6月、各社にアンケートを実施した。だが、回答した110社のうち81社が「大阪では客の理解が得られない」「加盟社だけでやると、我々だけが損をしかねない」などを理由に反対。賛成は23社だけで、全面禁煙化は見送られた。

 府内では規制緩和後の5年間で法人タクシーが約3千台増加。各社は初乗り料金引き下げや長距離運賃の割引制度を採り入れるなど、あの手この手で客の獲得競争を繰り広げている。そんな中、禁煙タクシーは一部の事業者や個人タクシーの数百台とみられている。

 大阪と経済圏を共有する周辺の他府県も動きは鈍い。滋賀、兵庫両県の協会は「各社の判断に任せている」「利用者の反発も考えられるため難しい」。奈良県タクシー協会の担当者は「全面禁煙化の方向性は決まっているが、難色を示す事業者にどう説明するかが今後の課題」と打ち明ける。

 協会幹部の一人は「いっそのこと、行政側に強く指導してもらえば、各社横並びで全面禁煙できるのに」と漏らす。

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