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歴史教科書 こんな検定は要らない

10月30日(火)

 教科書検定は今のままでいいのか。沖縄戦の集団自決をめぐる記述の問題は、そんな疑問を抱かせる。

 時の政権の意向を反映したような検定意見を出したかと思えば、次には手のひらを返すように記述を変えようとする。こんなやり方は、教科書作りになじまない。検定制度自体を見直すことも考えたい。

 沖縄戦の集団自決で、日本軍の強制があったか、なかったか。高校の日本史教科書での記述をめぐり、文部科学省は迷走している。

 今回の教科書検定は、軍の関与を削除するよう求めた。それまでは強制があったとの記述は認められていたのに、突然の方針転換である。教科書会社は記述を修正し、検定に合格している。

 流れが変わったのは、9月に開いた沖縄県の抗議集会がきっかけだった。検定意見の撤回を求める声に、政府与党が反応した。文科相は「撤回」ではなく、記述の「訂正申請」には応じる考えを示している。

 教科書会社は、軍強制を明記する方向で、近く文科省に訂正を求める見通しだ。27日には、執筆者の1人が申請内容を明らかにする異例の記者会見を開いている。

 混乱を招いた責任は文科省と教科書検定審議会にある。なぜ今回の検定意見となったのか、説明すべきだ。軍の命令はなかったと元指揮官らが裁判で争っていることを理由に挙げているが、納得できない。復古調の色が強い安倍前政権の政治路線と、無縁だったとは思えない。

 結果的に記述削除が間違っていたとするならば、検定意見は撤回すべきだ。教科書会社が訂正を求めたので検討する、では責任をなすりつけたようなものだ。

 検定審議会の中立性もあやうい。検定意見のもととなる調査意見書は文科省の職員が作ったものだ。専門的な見地から十分に検討しての削除要請だったのか、疑問を抱かざるを得ない。

 教科書検定は、戦前の教育の反省から生まれたものである。政府の見解に沿って口を出すような検定ならば、廃止も含めて根本から見直した方がいい。

 歴史の教科書は、とりわけ慎重に扱うべきだ。歴史認識は本来、多様なものである。画一的な見方や考え方を押しつけるようでは困る。選ぶのは学校や生徒の側である。

 教科書検定は、執筆者や出版社の自主規制も生みかねない。従軍慰安婦の問題でも日本軍の関与に触れる記述は姿を消した。

 著者の創意工夫に期待するというなら、明らかな間違いを正すなど最小限にとどめるべきだ。