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命がけで産む人々:タンザニアからの報告/中 エイズ「悪魔のたたり」

 ◇迷信、通院・避妊の妨げ

 「おれが祈るから病院に行くな」。タンザニア北部ムキリラ村に住むペンドゥ・マムーさん(20)は、夫の祈祷師(きとうし)に強制され、自宅で出産せざるを得なかった。

 両親と死別し、祖母に育てられたペンドゥさんは知的障害がある。17歳の時、治療のため70歳代の祈祷師のもとに通った際、妊娠した。通院を禁じられたペンドゥさんは昨年12月、自宅で出産。へその緒は祖母が切った。祈祷師は今年5月、原因不明の腹痛で死亡したが、「祈祷師と一緒の時は、ペンドゥは体調が良かった」と祖母は今もその「神通力」を信じる。今は村人が協力してペンドゥさんの生活を見守る。

 タンザニアでは、特に農村部で古い因習や迷信が根強く残る。「川を渡ると流産する」と信じ、対岸の病院に行かない妊婦。「コンドームやピルを使うと、がんになる」と考え、避妊しないカップル。マラリアやエイズを「悪魔のたたり」と思い込む人もまだいる。

 1959年に設立され、現地で古い歴史を持つNGO(非政府組織)「タンザニア家族計画協会」は、迷信を一掃し、病院での受診を勧める啓発活動を続けている。キリマンジャロ山のふもとのチェケレニ村では、同協会が組織したボランティアが、日本から贈られた自転車で各地を回り、村人に性知識や避妊法を伝えている。

 村を訪れると、人形劇が上演されていた。内容は、梅毒になったのに病院に行かなかった患者が、周囲の説得で病院に行くというストーリー。学校帰りの子供たち約70人が真剣に聴き入る。感想を尋ねると「病院は大事と分かった」(9歳男)、「病院に行きたくても、父が行くなと言えば行けない」(14歳女)などの答えが返ってきた。

 93年に村で活動が始まった時、ボランティアは20人いた。だがコンドーム使用の啓発に反対する一部の保守的なキリスト教徒と他のメンバーの間で仲間割れが起き、現在は8人になった。タンザニアはキリスト教、イスラム教、伝統宗教が混在する多宗教国家。表立った対立はないが、こうした摩擦も時に生じる。

 それでも発足時から活動を続けるフランク・マサウェさん(60)は話す。「確かに摩擦もあったが、望まない妊娠、そして迷信に頼る人。この二つがここ10年で大きく減った。それが希望だ」【チェケレニ(タンザニア北部)で篠田航一】

毎日新聞 2007年10月30日 東京夕刊

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