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米→キューバ医学留学

学費無料「お金なくても夢かなう」

 カリブ海の島国、キューバに渡って医学を学ぶ米国人留学生が増えている。最先端の医療水準を誇る米国から、米政府の経済制裁に苦しむ“敵国”に向かう背景には、医療も医学も貧困家庭には届きにくいという米国の事情があるようだ。(ハバナで 中島慎一郎)

 「米国ではお金がなければ医者になれない。キューバでなら夢がかなう」

 ハバナ郊外のラテンアメリカ医学校。昨年入学したアトランタ州出身のチャシティ・フォールズさん(30)は7歳の息子を持つシングルマザーだ。昔から医師になりたかったが、経済的な事情から断念。幼稚園や会社勤めなどを転々としていたある日、キューバでの医学留学を仲介するキリスト教団体の存在を知り、迷わず申し込んだ。

 渡航費、学費、教科書代から家賃、食費、日用品までキューバ政府の負担。毎月100ペソ(約530円)の小遣いまで支給された。
 米国は長年、「圧政国家」の独裁者としてカストロ国家評議会議長を敵視。ブッシュ米大統領は24日の演説でも、カストロ政権打倒を訴えたばかりだ。

 しかし、その議長は国内では、「キューバ革命」(1959年)以前の悲惨な状況に後戻りしないよう、医療と教育の無料化に取り組んできた。とりわけ医療では旧ソ連などから技術や物資を導入、医師育成に尽力してきた。

 その結果、いまや、家庭医(ホームドクター)が充実し、医師1人当たりの国民人口がわずか158人(2006年)と世界有数の医療体制を確立。高額の機器を駆使する先端医療ではないが、予防や、きめ細かな治療によって乳児死亡率は米国よりも低くなった。

 近年は、医師不足に悩む約70か国に医師3万人以上を派遣しているほどだ。

 ラテンアメリカ医学校は、1999年に開校した。その前年のハリケーンで被災した中米諸国に医師を派遣したカストロ議長がこれら各国の貧困家庭の若者を受け入れ、医師として育てようと提案し、誕生した。

 同学校では6年間で基礎から実践まで学び、卒業後、母国に戻って国家試験などを受けて正式に医師となる。卒業生は、同学校の理念に基づき、母国でも最低2年間、医療過疎地域で働くよう求められる。

 キューバは現在、同学校を中心に中南米やアフリカ諸国など約30か国から留学生9000人以上を受け入れている。米国人は、うち92人だが、年々増えてきた。同学校のエイディ・ソカ基礎科学部長は、米国人受け入れについて「問題なのは米政府の敵意であり米国民は友好的。貧しい人々が十分な医療を受けられない現状も知っている」と理解を示す。

 米国内では、医療保険制度に焦点を当て、貧富の格差が引き起こす医療現場の惨状を描いたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シッコ」が話題を呼んだばかりだが、留学生も驚きを隠さない。

 米ワシントン州出身の20歳代の留学生、ラモン・ベルナルさんは「米国では、患者は名前より先に治療費を払えるだけの保険に加入しているかどうかを尋ねられるのに」と無料医療にショックを受ける。カリフォルニア州出身のエリシア・モラレスさん(25)も「米国の医療制度は破たんしている。逆にキューバは経済制裁を受けながらも、国民誰もが教育や医療を受けられる。この国は共産主義だが、米政権が非難するような『悪』の国ではない」と複雑な気持ちだ。

 学生は、インターネットは2週間に1時間半しか使えないなど不便も多い。それでも、サウスカロライナ州出身のフランク・エマーソンさん(24)は「帰国したら貧困地域の医療改善に経験を役立てたい」と話した。

2007年10月30日  読売新聞)

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